第22話:ストーカー養成学院12
たまには状況に逆らうことも覚えた方が良いのかもね。
今更だけど。
ちなみにミシェルはもう来ていた。既にダイレクトストーカーに乗っていて、
「臆せず来たその度胸だけはかいましょう」
といつも通りの上から目線。
重ね重ね今更だ。
ていうか声を発せられるのね、ダイレクトストーカーって。
そういえばパワーのダイレクトストーカーも声を発していたっけ。
僕は手に持った青竜刀をヒュンヒュンと振って具合を確かめる。結果としてミシェルを無視した形になるけど当然ミシェルについての考察は終わっている。
ミシェル……の操っているダイレクトストーカーは名をサラマンダーと言い、火の妖精の名の通り火属性の魔術を得意とする。特に火の斬撃は十八番であるため僕のダイレクトストーカーの様に剣を持ったりしない。炎の魔術で巨大な斬撃を生み出せる以上、武器を持つ必要が無いのである。
オリハルコンに反応しているミシェルの魔力の色は赤。ルビーを想起させる透き通った赤であり、背中には隆起したブースターが設置されていた。
火の魔術の応用で短時間の飛行も出来るらしい。
ダイレクトストーカーの魔素吸収効率を考えれば不思議ではないけどね。
その姿もミシェルの二つ名たるフェアリーに見合った造りだ。スマートなボディラインは彫像の如く神話性を持っている。そこにワインレッドが重なれば、巨体であることを除けば火の妖精と言って言い過ぎることはあるまい。
「優等生特有のワンオフ機……か」
そう聞いている。まぁだから何だって話ではあるんだけど。
「両者、位置について」
魔術の産物である拡声器から声が届いた。
僕とミシェルは距離をとって睨みあう。睨みあうも何もロボットの視線なんだけど。
ミシェルのダイレクトストーカーたるサラマンダーは片手を天にかざして止まる。僕のダイレクトストーカーたるアームは青竜刀を正眼に構える。
「始め!」
と審判の声が響いた。
同時に敵対機体が天にかざした手を振り下ろす。その軌跡の延長線上に生まれたのは熱の斬撃。
対して僕はタイミングを合わせて巨大な青竜刀を薙ぐ。
青竜刀には既に退魔強化の魔術を施してある。
アンチマジック。
熱の斬撃が魔術である以上、僕の魔術は有用だ。斬撃は散らされた。
「なっ……!」
と驚くミシェルだったけど、こっちとしては当然の結果だ。
それから慎重に魔素を吸収して魔力に変えるとアームそのものに運動強化を、青竜刀に斬撃強化をかける。そしてサラマンダーへと間合いを潰す。とはいっても手加減はしているんだけどね。
振り下ろす青竜刀はバックステップで避けられた。
追撃に突きを放つ。
けれどもサラマンダーは跳躍でそれを避ける。それから背中のジェットで飛行して窮地を脱するのだった。
ふむ。
厄介と言えば厄介な能力である。再び距離を離されるとサラマンダー斬撃を二度三度と放ってくる。退魔強化を付与した青竜刀でソレらを切り散らす。
次の瞬間、熱波が吠え狂う。
「どうしたものかね……」
それが本音だった。サラマンダーは炎の魔術を放ってくる。僕はと言えばアームを動かして熱波をキャンセルした後、続けて灼熱の放射をキャンセル。
「馬鹿な……!」
とはミシェルの言。
だがこっちに言わせてもらえれば茶番だ。
圧力には驚いたけど対処自体は物珍しいものでもない。動きを封じて攻撃に専念するのは確かに有効だけどこっちには退魔強化……アンチマジックがあるのだ。
そうである以上魔術で動き、出力するダイレクトストーカーの戦いが僕の小さな手の平から出ることは一切ない。
僕はサラマンダーの放ってくる魔術を青竜刀で散らしながらサラマンダーに接近する。そして斬撃を加えようとして、また逃げられる。
「ちょこまかと……!」
どうやらサラマンダー……を駆っているミシェルは距離をとって魔術で攻撃するのがセオリーらしい。
対して僕は近接戦闘一筋。
このままでは埒が開かないと思うと、ついカッとなった。跳躍かつジェットによる飛行をして空中に逃れたサラマンダーを追いかけるために魔素を集めて運動強化を付与……高高度にいるサラマンダー目掛けてアームを跳躍させようとして、ビシバシィと破砕音が鳴る。
「あ……」
しまった。
この体験は二度目だ。
つまりダイレクトストーカーに魔力を行きわたらせるためのマジックサーキットのオーバーフロー。つい夢中になって本気で魔素を吸収し魔力に変換してしまったらしい。
「やっちゃった……」
ええ。負けを宣告されました。




