第21話:ストーカー養成学院11
で、一ヶ月後。
僕は何とか魔力の変換効率の加減(正確な表現じゃないことを補足する)を覚えることに成功した。
したけどさ……。
何の意味があるんだこれ……。
だいたいこの世界の魔素濃度は基準世界の数百倍だ。である以上ダイレクトストーカーに乗らなくても強力な魔術は使えるはずである。実際僕はパワーのダイレクトストーカーと渡り合った。
が、どうやらこっちの世界の住人はこの纏わりつくような魔素濃度が一般的であり平凡な出力を良しとしているみたいだ。正気の沙汰とも思えないというのが僕の正直な感想。
だってさぁ。
有り得ないでしょ。
この濃度の魔素ならば一国の軍隊と渡り合える魔術師が雨後の筍の如くポコポコ現れても驚かないレベルなんですけど。ちなみに魔素から魔力への変換効率そのものはもう慣れ切ってしまっているので、加減しているのは大気中の魔素の吸収を加減する技術である。
要するに魔素を一気に取り込んで習慣的な変換効率で魔力を生成するからマジックサーキットがオーバーフローを起こすのであって、なら魔素の吸収を意図的に制限すれば問題は無いわけだ。
とりわけ僕は燃費がすこぶる突出している。リッター十キロで走るのがこちらの魔術師の常識なら、僕はリッター数千キロを走る車というわけだ。
で、そんなに走っても意味ないので十キロしか走れないようガソリンを少なく入れておこうという理屈……なのかな?
とまれ、
「やるしかないか……」
アタマのズツウがイタい。
重複表現。
ストーカー養成学院はそのレゾンデートルのため広い設備を幾つも持っている。それはダイレクトストーカーの格納庫もそうであるし、ダイレクトストーカーの実践訓練をするスペースの確保もそうである。
時にダイレクトストーカー同士の模擬戦や決闘をする場所も当然ながら存在し、そこを使って僕はこれからダイレクトストーカー同士の決闘をせねばならないわけだ。
精神的頭痛にこめかみを押さえる。
僕に与えられた猶予は一ヶ月。
つまりその間に人並みのストーカーになっていなければならない。が、僕がこの一ヶ月してきたことは魔素の吸収効率の手加減のみだ。後はぶっつけ本番である。
ダイレクトストーカーが操縦にブレインマシンインタフェースを採用しているため習うより慣れろが一番の経験とはいえ、不安要素は片手では数えきれない。
再びとまれ、
「やるしかないか……」
僕は汎用ダイレクトストーカー……アームに乗るのだった。アームはまず一般的な量産型であり量産および維持のコスパがとても良い機体らしく、燈の国では重宝されているとのこと。見た目は巨大人型ロボット。マスクフェイスでゴーグルアイ。白銀のボディには特徴と云うものがなく、なんとなく金属を人型に近づけたらこ~なるだろ~な~って感じの機体だ。ま、量産型がシンプルかつダサいのは何処の世界でも一緒ということだろう。当然ながら魔術で動くためバーニアやスラスター等の科学的構造は存在しない。人体に優しくない設計である。いいんだけどさ、別に。僕はアームのコクピット内にあるアームチェアに背中を預けて一度瞑想。アームを構成しているオリハルコンの吸収した魔素を確認。そのほんの一部を取り込んで魔力に変換した。
「リンクスタート」
起動のためのキーワードを呟く。
ドクンと心臓が鳴った。
骨子を支えるマンフレームが僕の意識を徴収してダイレクトストーカーに転写する。そして僕が魔素から変換した魔力をマジックサーキットが認識してダイレクトストーカー全体に行きわたらせる。
魔素の吸収が一番の難題だ。
まるで卵をハサミで持ち上げるが如き繊細な手加減を要求される。僕の意識はダイレクトストーカーのソレになった。ゴーグルアイで辺りを見回す。
当たり前だけど視線が高くなっていた。
それから自身の体を可能な限り見やるとアームは真っ黒に染まっていた。オリハルコンが魔術師の魔力の質によって色が千変するのは既に聞いている。僕はどうやら黒色らしい。
黒髪黒眼に黒い学ランを着ていながらダイレクトストーカーまで黒とは……十字架を背負わされたような気分。もはやパーソナルカラーと呼んでも良いレベル。
それから全長二十メートルもあるダイレクトストーカーのソレに合わせた武器の中から巨大な青竜刀を選ぶと手で掴んで装備する。重ね重ね僕の今の意識はダイレクトストーカーを直接的に動かしている。つまりガリバー旅行記なみに巨人の感覚を味わっているのだ。
とまれ青竜刀を片手で掴んで決闘場に姿を晒す。
決闘場は一言でいえばコロセウムだった。円形の空間はダイレクトストーカーが二機で争ってもなお余裕がある広い造り。それを取り囲むように観客席が存在する。貴賓席もあり、そこには燈の国の女王陛下がおわすらしいことを既に僕はフォースから聞いている。
何だかなぁ。




