第20話:ストーカー養成学院10
「まずはフォースが起動してみな!」
おかんはそう指示する。こっちからの声は届かないため、フォースは答えることはせずに僕を見た。
「……言ってしまえば……簡単なんだけど……オリハルコン越しに……魔素を取り込んで……魔力を生成……ソレをダイレクトストーカーに……注ぎながら……『リンクスタート』って……言うだけだから。……とりあえず……見ててね?」
頷く。
「……リンクスタート」
そう言った瞬間(当たり前だが)オリハルコンで出来ているコクピット内部が緑色に染まった。白銀のオリハルコンが変色したのだ。そしてズズンと衝動。何が起きているのかはわかる。
コクピット内部にいるため外の風景は見えないけどおそらリンクしたフォースの意識がダイレクトストーカーを動かしているのだろう。ある程度の振動が襲い、それから治まると、
「……シャットダウン」
と明朗な声が響いた。全体的に聞こえる声はおそらくフォースの意識を写し取ったダイレクトストーカーの言葉であろうことはなんとなくわかる。
同時に緑色に変色したコクピットが白金色に戻る。
目を白黒させる僕に意識をやってフォースは微笑んだ。
「……これだけ」
「なにかこの機体、緑色に変わらなかった?」
「……オリハルコンの……性質の一つ」
吹き込んだ魔術師の魔力の質によって様々に変色する様だ。彼女の場合は緑色。風の属性を表わす色であるらしい。
なぁる。
「こら上泉ぃ! わかったか!」
おかんが拡声器で叫んでいた。ハッチを開いて、
「だいたいわかりましたぁ」
と伝える。
「よぉし! じゃあ次はお前の番だ! フォースは降りろ!」
「……頑張って」
僕にエールをくれるとフォースはコクピットと地上を繋ぐ縄梯子を降りていった。
コクピットには僕一人。
おかんが叫ぶ。
「よぉし! じゃあ上泉の起動訓練を開始するぞ! オリハルコンの吸収した魔素を魔力に変えてマジックサーキットに流しながら『リンクスタート』と言え!」
「へぇへ」
聞こえてないだろうけどね。ともあれ僕はオリハルコンの貯蔵する魔素を認識して体内に取り込み肉体の中で魔力に変換……生成された魔力をマジックサーキットに流してオリハルコンに伝えようとして、
「……っ?」
ビシバシィッと何かが破砕する音が響いた。コクピットの四方八方から。
「……あら?」
結論として、搭乗者の魔力をダイレクトストーカー全体に伝えるためのマジックサーキットがオーバーフローを起こしてズタズタになったということがわかった。
おかんは口の端をひくひくさせて、
「何をしてくれんだ?」
と視線で責めていた。僕に責任の所在はあるけど別にわざとではない。その辺りに斟酌の余地は無いものだろうか?
「お前さん、いったいどういう能力だ……」
「どうと言われましても普通にオリハルコンから感じる魔素を魔力に変換してマジックサーキットに流しただけですが」
僕がやったのはそれだけだ。リンクすらしていない。
「どうやったらダイレクトストーカーのマジックサーキットがオーバーフローするような魔力を生成できるんだよ!」
「知りませんよぅ。技術的な問題はそちらの領分でしょう?」
「それにしたってだな……」
どうやらこの世界において僕の捻出する魔力量は規格外らしい。例えば稲作は、ある一定期間水分の供給を断ち切ることでより強い稲を作ることが出来るらしい。それと全く同じというわけでもなかろうけど、僕の世界の魔素はこっちの世界の魔素の数百分の一相当だ。
そしてそれでも問題なく魔術を使えた僕にとっては、こちらの世界の魔素濃度は鬱陶しいくらいのものである。
必然生成する魔力量は基準世界の数百倍となる。そしてそれはこちらの世界では容認しがたいものであるらしかった。なんだかなぁ……。
「姉御! やっぱりこれは解体する以外にないみたいっす! マジックサーキットがズタズタっす!」
おかん改め姉御が嘆息する。そして魔術による拡声器で叫んだ。
「一週間で修復するぞ! 寝る間もないと思え!」
そんな姉御の活に、
「「「「「おおっす!」」」」」
とダイレクトストーカーの調整スタッフ一同が大声で応えた。どうやら姉御はカリスマ性を持っているらしい。スタッフが姉御の言葉に鈍していないのがその証拠だ。
とまれ、問題は他にある。
「あのぉ。僕のダイレクトストーカー起動訓練は?」
「させると思うか?」
ですよねー。
姉御は眉間を揉んで、それから言う。
「とりあえず黒いの。お前は魔力の変換効率を落とすところから始めろ。手加減を覚えてからまたこの格納庫に顔を出せ」
「どうやって訓練を?」
「適当にそこらのマジックアイテムでやれ。学院側でもマジックアイテムの貸し出しはやっているからな」
「……はーい」
他に言い様が無かった。




