第18話:ストーカー養成学院08
で、僕とフォースが講義で散々な結果を出した日の夜。すっかりフォースは家事担当となっている。僕がそれに甘えきっているから必要以上に奮闘するフォース。友達の世話をするのは当然と云った意識があるらしいけど、訂正してもしょうがないので甘んじている僕だった。というか僕の状況に流されやすい悪癖による部分が大きいのだけど。
今日の御飯はパエリアらしい。フォースは良いお嫁さんになるね。フォースの淹れてくれた紅茶を飲みながらそんなことを思う。香り高い紅茶が至福の時を約束してくれる。
「フォースが劣等生……か」
まぁ自身の魔力のみならず補助器具を使ってあの威力なら確かに劣等生だろう。無論のこと僕に比べればまだマシだけど。僕の魔術ときたら近接戦闘特化だからね。笑われるのもしょうがなし。
「…………」
黙して思案しフォースの淹れてくれた紅茶を飲んでいると、ダイニングから直結している扉がコンコンとノックされる。
「……上泉……出て」
「あいあい」
キッチンにへばりついているフォースには難事だろう。僕は玄関対応をした。ガチャリと扉を開ける。同時に、
「調子に乗るんじゃありませんことよ!」
そんな罵声が響いた。見れば赤髪赤眼の美少女ミシェルが僕を睨みつけつけていた。
「あなたの様な劣等生が上泉の師匠だなんて私が許すはずも……!」
罵倒を叫びながら僕とミシェル……黒と赤の視線が錯綜する。
「きゃあああああああああっ!」
とミシェルが悲鳴を上げた。近所迷惑も甚だしい。
「何か用?」
「な、ななな……!」
「な?」
「何で庶民がフォースの部屋から出てくるのです!」
「そりゃ僕の部屋でもあるからね」
「フォースは一人暮らしのはずでしょう!」
「だからぼっちのフォースに唯一の友達たる僕が一緒に暮らしてあげてるわけだ」
「不潔ですわ!」
「さいでっか」
別に痛痒の覚えようもない。コホン、とミシェルは咳をした。閑話休題。
「庶民?」
「さっきは上泉って呼んでなかった?」
「庶民は四大属性の魔術があまりに苦手なのでしょう? 私がその辺を一から教えて差し上げますわ」
「だから要らないって」
「……そうですわね。まずは私と一緒に暮らしなさいな。特別に相部屋を許して差し上げますわよ?」
「フォースで間に合ってる」
「あんなのと付き合っても進歩はありませんわ!」
「別にそれでミシェルが困るわけでもないでしょ?」
「私の命令を三度も拒否した人間なんてあなたが初めてですわ!」
「というか何でそんなに僕に執着するの? 劣等生なんて放っておいて魔術の研鑽をすればいいじゃん」
「……う」
言葉を失うミシェルだった。
「どうやら図星をついたらしい」
そんなことを思う。しかしながら心的体勢を立て直したミシェルは言う。
「フォースを見限りなさいな。あなたはブロッサム九世の名のもとに私が直々に優秀な魔術師にしてあげますわ。先に言った通り、まずは私と相部屋なさいな」
「だから間に合ってる」
「私は譲歩してあげているのですわよ?」
「お言葉だけもらっておくよ」
「むぅ……」
不機嫌を隠そうともせずにミシェルはふくれっ面になる。
「ならば決闘をしましょう」
「決闘?」
あまりに僕の元いた世界とは縁の無い言葉に首を傾げる他なかった。
「にゃぁにそれ?」
「無論ダイレクトストーカー同士による決闘ですわ。勝った方が負けた方を言いなりに出来る」
「ふむ」
沈思黙考。
「もしも私が勝てば庶民は私の庇護下に入ってもらいますわ」
何がそんなにミシェルを駆り立てるのだろうか?
意味不明な僕だった。
「じゃあ僕が勝てばフォースに対する軋轢を解消して」
「いいでしょう」
それでいいらしかった。少なくともミシェルはクラスメイトたちに一定の発言力を持つ存在である。そのミシェルの発言ならクラスメイトたちによるフォースへのイジメも少しはなりをひそめるだろう。というか決闘するの? またしても状況に流されやすい悪癖の存在をひしひしと感じる僕だった。