第17話:ストーカー養成学院07
結局……基準世界にいようが準拠世界にいようが太陽は登って朝が来る。生徒は勉学に勤しみ、世はなべてこともなし。
僕とフォースは学院でも寮でも、いつも一緒にいた。友達だからね。それくらいはするさ。というかフォースを一人にしておくとイジメにエンカウントしてしまうため、なるたけ目を光らせているというわけだ。
中には「付き合ってるんじゃ……」と勘違いする輩もいたし噂も耳に届いていたけど、だからといって関係性を変えるつもりも必要もないだろう。
今日の講義は魔術の実践だった。僕にしてみれば馬鹿らしいことながら……なお文明の進んでいない世界では当然のことながら……エンペドクレスの四大元素論が盛んに提唱され、魔術においても四大属性という形で認識されていた。
つまり火と水と風と土のレッテル張りだ。
そして今日の講義だけど講師の土魔術によって生まれたゴーレムを魔術で倒すことが内容である。
とはいっても少年少女の講義だ。ゴーレムは襲ってきたりせず、むしろ逃げ回る。その背中に魔術を浴びせて破壊すれば優等生というわけだ。さて困った。僕はガシガシと頭を掻く。
先述したように僕の魔術は四つだけ。
即ち思考強化と運動強化と斬撃強化と退魔強化。
裏上泉文書にはそれだけしか記載されていなかったし、剣聖上泉伊勢守信綱もそれだけしか使えなかったことがわかっている。で、ある以上……必然遠距離の魔術など使えようがない。
「どうすんべ?」
などと考えている内に順番が回ってきた。
「生徒上泉? あなたの番ですよ?」
と言われてもなぁ。
「ええと……ゴーレムを倒せばいいんですよね?」
「はい。この講義では手段は問いません。火を飛ばしても水で貫いても風で切り裂いても土で衝撃を与えても構いませんよ」
「そういう四大属性の魔術は使えないんですけど……」
「は?」
ポカンとする講師に僕は自分の魔術を説明した。先述の繰り返しだ。起こったのはクラスメイトたちからの失笑だった。
――【失笑】:笑ってはいけない場面にて大声で笑うこと――
ギャハハやアハハと男女問わずクラスメイトたちは僕を馬鹿にして大爆笑した。
「ありえね~!」
「フォース以上の劣等生がいたなんて!」
「なんだよ思考強化って!」
「それでフォースとつるんでたのかよ!」
「劣等生同士で仲が良いんだな」
まぁ仲はいいんだけどね。
「わかりました生徒上泉。あなたについては事情を斟酌しましょう」
「いやはや。申し訳ない」
僕はむしろさっぱりと言った。そして魔術の実践をスルーする。
「無様ですわね庶民!」
こんな絡み方をするのはミシェルに決まっている。赤い髪を優位性に揺らして、赤い瞳が嘲弄する。
「見ていなさいな。優秀な魔術師と云うものを!」
そしてミシェルは講師によって生み出されたゴーレムに、
「カロリーエッジ」
と呪文を唱えて魔術を起動させた。「カロリーエッジ」の呪文の通りに熱の斬撃が生まれゴーレムを周囲の構造物ごと切り裂く。その威力はあまりといえばあまりだった。赤いドレスを翻し、
「どうです庶民? これが優秀な魔術師のソレですわ」
どや顔で述べ立てる。僕が顔面に拳をめり込ませるか否かを考えていると、
「あなたの態度如何によっては優等生の私自身が直々に魔術の手ほどきをしてあげても宜しくってよ?」
上から目線でミシェル。
「別に要らないなぁ」
ぼんやりと僕は言った。そもそもにして僕は『剣』の魔術師だ。それ以外は扱えない。けれど何が悔しいのかミシェルは顔を朱に染めた。怒りの感情が透けて見える。
「庶民のくせに私の好意を蔑にしますの……!」
「魔術ならフォースが教えてくれるし」
偽りない本心だったけど、ここでまたクラスメイトたちの失笑。
「劣等生が劣等生を模範にするんだってよ!」
「馬鹿じゃねえの!」
「まぁお前らならそんなもんだよな!」
「傷の舐め合いか?」
とまぁ散々な言われようだった。講師の叱責がとんで何とか静寂を取り戻す。
「では生徒フォース。講義を」
「……はい」
そう言ってフォースは手に持つマスケット銃のような形をした緑色の金属の銃口をゴーレムに向けて、
「ボイス」
と呪文を唱える。そして魔術が顕現する。弱々しい音が生まれてゴーレムに向かって飛んでいき、行動を一瞬差し止める。またしてもクラスメイトたちの失笑。
「ありえね~。わざわざ魔道具なんて補助器具使ってその程度?」
「おいおい。しっかりしろよ? 上泉の師匠なんだろ?」
「将軍の名を辱める気か?」
「ゲラゲラ! さすがはフォースだ」
とまぁ散々だったね。チラリとミシェルを見やる。こいつもまたフォースを馬鹿にするのだろうかと思っていたけど、ミシェルはフォースを睨みつけるだけだった。
僕の主観に依るけど……それはある種の嫉妬に感じられた。




