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第112話:エピローグ


 星が降った日。


 この世の終焉にも似た大災害が降って湧きました。


「トール……」


 黄昏終えて夜の頃合い。ギュッとジュリアンが私に抱きつきます。怖いのでしょう。あらゆる全てのものが。


 願望機ストルガツキーの端末として業の深い彼女も、ただ心だけは確かに人で。


「大丈夫です。少なくとも私は」


「でも……俺様はトールを……」


 殺してはいません。


「弱みは握りましたけどね」


「どうする気だ?」


「幸せになって貰います」


 宇宙さえも凌駕する速度で。


「俺様は……失うことが怖いぞ……。その願いが……叶うのが怖い」


「うん。でも。人が人でいる限り願いは生まれ続けるものですから」


 こっちの世界には願望機ストルガツキーがあれども。


「トールはいいのか?」


「ジュリアンを幸せにする願いで不幸を生み出せるなら、まぁやってみろとでも言いますか」


 マイナスの要素で彼女が幸福になるなら、今こうして心を痛めている理由にならない。


「面倒くさくないか?」


「そうですね」


 否定はしません。


「でも、お楽しみはこれからですから」


 彼女のおとがいに手を添えて持ち上げます。


「あ……」


 赤面するジュリアン。その生娘ぶりは賞賛に値して、


「止めてください!」


 第三者が台無しに。


「パペット……」


 星の降った日。愛を覚えたオートマトンが心を慰める。


「マイマスター。愛なら当方に!」


「そうすると今度は嫉妬でジュリアンが世界を滅ぼしますし」


 この世界の理だ。


「ていうかパペットってそんな高性能なのですの?」


「にゃー。可愛いなら大歓迎だけどにゃ」


 魔王機グラープシュテルンと対峙したストーカー兄妹も、少しジト目でこっちを視ています。


「可愛いにゃ」


「御機嫌ですわね」


 そんな兄アルマの首輪のリードを引っ張るフィーネ。


「ダイレクトストーカーは大丈夫なので?」


「僕とフィーネのはね」


「当方のものも大丈夫です」


 多分一番酷使されたのがアンドロギュノスで。


「サクラメントって不思議ですね」


 そのエネルギー運用がどこで支えられているのか。


「魂とはつまり心でしょう?」


 唯識。ソフィア。


「願いの結実という意味でなら、願望機の干渉も視野に入るぞ」


 元々こっちの世界での魔術が願望機に依存しているのでは、という話でしたね。


「「じゃああの星は……」」


 アルマとフィーネが思惑を得ます。


「……………………ッ」


 苦虫を噛むようなジュリアンの表情。


 星の降った日を説明はしていないので、政治的には彼女と繋がりは存在しません。


 把握しているのは私と彼女とパペットくらいのもの。


「切実なる願いは心で決める」


「そのために愛が歪んでも?」


「だって私はジュリアンが好きですし」


「トール氏……」


「トール……」


「マイマスター……」


「別に踏めと言われるなら踏みますけど」


「だったら……ぐぇ!」


 フィーネがアルマの首に繋がるリードを引っ張ります。


「この星が墓になっても……トールはいいのか」


「よくはありませんけど終末教会の願いが結実しても、それ以上の希望があれば済む話でしょう」


 星の降った日のことはそう云う結論です。


 要するに、不幸を願う心より、幸福を願う心が勝った。


 因果として結論づけた。


「でも――」


 しょうがないので、ジュリアンの口を塞ぎます。私の唇で。


「ぉぅ!」


「ふわ!」


「マイマスター!」


 戦慄する三人と、


「ぅぐ」


 この歪な愛を心にするジュリアン。


「ああいうのもいいな」


「お兄様ッ」


 フィーネの願いも、あるいは不条理で。


「ふゃ……」


「可愛いですね。ジュリアンは」


「トールに言われると世話がないんだが」


 たしかに私だって可愛いんですけども。


 男の娘冥利につきる。


「あの日。星が降った日。俺様は何を望んだんだろう?」


 そんなのはもちろん。私の愛の証明です。


 最初に降った日も。次に降った日も。


「この世の望みの最上級ですよ」


 目に見えない愛を具現化するという行為は。


 愛を演算不可能とするこの世界で、ただ胸に燻る熱だけがこれから先を想起させる。


 遠からん者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ。


 これは一人の意地っ張りが一人の愚物に愛を求める話です。


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