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第109話:舞い降りる剣11


「アメイジングフィニッシュ……」


 地表の巨人……ダイレクトストーカーがサクラメントを構える。アメイジングフィニッシュ。決め手となるサクラメントの切り札の最上級だ。オーバードライブがエースなら、アメイジングフィニッシュはジョーカー。切った瞬間に決着がつく類の、いわば奥の手。


「――パーセプションスラッシャー!――」


 サクラナガン・ルージュが肥大化した魂の剣を振るう。振った剣閃で無限遠まで切り裂く理不尽も、なのに魔王機は痛痒を覚えない。


「――――――――」


 返礼とばかりに魔王機の右腕が空からサクラナガン・ルージュを捕捉して爆撃する。


「――イグジスタンスエンド――」


 降り注ぐ熱はけれども別の斬撃によって散らされた。切った対象を事象として終わらせる不条理のアメイジングフィニッシュ。フィーネはオルトガバメントの霊魂武装……終焉剣レッツトエンデの奇蹟だ。クレーターすら造りかねない断罪の一撃を虚無に返す終焉剣の威容もまた論じるに能うが、切った対象にしか効果を発揮しないので衛星軌道に座している魔王機には直接的な威力は届かない。


 火が、水が、土が、雷が、風が、襲った。学院のダイレクトストーカーは大凡起動し、黄昏空のダイレクトストーカーに攻撃を仕掛ける。スケールアップの法則による圧倒的魔術が、なのにグラープシュテルンには届かない。


「こんなことがしたいがために……あなたは……」


 パペットは一人闇の中に居た。魔王機の荷電粒子砲による衛星爆撃も、そに対抗する学院の機体も、この黄金色のダイレクトストーカーには見えていなかった。ただ愛の何たるかを魔王の呪詛で知り、そのことを想起するだけで鈍い痛みを心に覚える。


「こんな……こんな辛くて寂しいものが心なら……当方は持ちたくありませんよ……」


 濡れ羽色の髪。ゴシックロリータのドレス。虚ろな瞳は、なのにソレでも美しい。


「マイマスター。当方の愛がこの重圧なら、解放のためにソフィアを使うなら、当方は願いというものを此処に具現したい。例えそのことで誰が救われようと救われまいと、願いがソフィアから生まれるのなら、それは魔術ではないのですか?」


 魔術とはソフィアが認識したイメージを素粒子で再現する御業。願いを叶えるという機構があるこの世界では、奇蹟の端末として具現する魔術は、魔法を以てこの世に認識される。


 ――では?


 愛を知った魔王も、愛を覚えた人形も、共有する慕情は等しく、そして同じ彩をしている。


「――現世に示現せよ――」


 スケールアップの法則。ダイレクトストーカーに乗ると単純な機構として魔術の威力が倍化する。ソフィアが……魂が肥大化するのだ。なら出来る。むしろ出来なきゃおかしい。


「コォォォ!」


 魔王機の荷電粒子砲がチャージされる。迎え撃つ学院のストーカー。防御の魔術も展開されるが、純粋な出力として宇宙の魔王は地表を焼き払う意味で特化しすぎている。その巨体が大きさの比率の分だけ倍率を底上げし、あるいはダイレクトストーカーのシステム相応に暴威的であると言える。


「終わりだ」


 ただ自己の愚かさを肯定するためだけにこの星を墓標にする魔王機の不条理さよ。


 カッ! と光が瞬いた。ほぼ同時に亜光速で熱塊が降り注ぐ。もはやその一撃だけで学院は焦土に還元し、真っ新な荒野へと変貌するだろう。ただ小さな願望がそこに差し挟まれなければ。


 学院の上空。およそ成層圏の上位に空間の間隙が出来た。まるで半村良が地図に切れ目を入れて空間を造ったように、空間隔絶が広く傘のように展開されて魔王機の灼熱の吐息を受け止め、散らし、空に振りまいた。


「――――――――」


 完全にトドメの一撃だったはずだ。あらゆる願いが蹂躙されるはずだった。ただ誤算は何もジュリアンだけのものではないし、パペットに固有のソロバンでもない。天空の魔王をどうにかしたいという願い。死にたくないという望み。負の成就を叶える魔王が其処に居ても、そもそも願望機ストルガツキーは善悪の区別無く人の願いを叶えるもの。この準拠世界でのルールだ。ではこの世界危機に最も合致する戦力とは何か?











 ――千引之岩――











 遅れて呪文が聞こえてきた。学院の誰もが天を仰いだ。透明な魔術障壁がプラズマのビームを受け止める様をしかと見届けた。希望が花開いた。


「開闢の聖女様……」


 終わりさえ覆すその二つ名は凪の水面に一石投じるように波立った。


 ――オン・マユラ・キランデイ・ソワカ。


 それは孔雀明王の真言。願望機ストルガツキーの神秘の一端とは乖離する現代魔術のマジックトリガー。


「コォォォ!」


 宇宙空間に展開する魔法陣の左右から突き出たマニュピレータがさらに熱を放つ。


「――千引之岩――」


 さらに空間隔絶が展開される。あらゆる事象を遮断する神話の壁は魔王機の灼熱すらも例外には数えない。


「マイ……マスター……? 何で……?」


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