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第107話:舞い降りる剣09


「だからさ。パペット。貴女は私の翼になってください」


「何を――ッ」


「ソフィアを得たのでしょう? 魔術……使えるのでしょう? ダイレクトストーカー……呼べるのでしょう?」


「宛がわれてはいませんよ」


 うん。知ってる。


「ギガンテスはねぇ。でもティターンは?」


「それこそ伝説に語られる機体でしょう」


「クォンタムギアも十分伝説だけどねぃ」


「……………………」


「ダイレクトストーカーなら呪詛を防ぎつつジュリアンに近づけるしぃ」


「何処にいるか分かっているのですか」


「概ね。認識と言うには不条理に過ぎますけど」


「何で其処まで……」


「パペットが私を好きなら、私がどんな重みをジュリアンに抱いて想ってるかも畢竟わかるでしょう?」


「納得とは別感情ですけど……」


 そんなわけでこんなわけ。クォンタムギアの持つソフィア。其処に刻まれたティターンはダイレクトストーカーとして破格を極める。ティターン機ペサードイーグル。その搭乗者パペットの霊魂武装サクラメントは陽光翼ゼクスフリューゲル。背に三対六枚で生え伸びるフォトンの翼です。スケールアップの法則でダイレクトストーカー相応の大きさに拡大された光の翼は羽ばたくと言うには固定されて、けれど確かに機体の重量を感じさせない身軽さで空を飛んでいます。こと機動性に於いては此処学院都市でも随一と言える能力でしょうぞ。


「空って気持ちいいですねぇ」


 私の毒にもならない感想はパペットの言葉を引き出せません。高高度から呪詛に溢れた街並みを睥睨し、そして多分でなんとなくな感覚的な勘所でジュリアンの居場所を把握します。黄金色に輝くダイレクトストーカー=ペサードイーグルの熾天使の翼がこの空に広がり、その手に乗っている私は、そこから飛び降ります。


「マイマスター!」


 慌てたように翼を翻すパペットとペサードイーグル。けれど私は既に狙いを付けていて。魔術で足場を展開し、トントントンと空を蹴って地面へと落ちていきます。認識した場所はとある教会。十字を掲げた一神教のもの。元々準拠世界の宗教に関しては理解もないもので。神と呼ばれるものの存在は信仰しても魔術師にとってアークとは保全装置のようなもの。


「――迦楼羅焔――」


 教会の屋根を爆砕して聖堂に舞い降ります。軽やかに着地。そして遅れて黄金の機体も少し離れた場所に落ち着きました。フォトンの零れる光の翼は、神の御使いと表現して余りある神秘性を有しており、ことにその巨体で速やかに空を飛べるということが、在る意味で破格極まる異常性能とも言えます。黄金の翼は、きっと天使のものより成金趣味。


「――――――――」


 ここが何の教会なのかは分かりませんでしたけど、ジュリアンが逃げ込んだ先の駆け込み寺ではあるのでしょう。既に目の前に捉えています。


「トール! 何で来た!」


「もちろん愛故に。ジュリアンを心配してはいけませんか?」


 事の本懐が彼である以上、対処に必要なのはたぶん私で。手入れを怠っていない黒髪をかき上げて挑発的に笑います。着ている服はパペットに着せて貰ったゴスロリ。


「この呪いの根幹を理解しているのか!」


「ジュリアンが願う私への愛。執着。独占欲。だから私と……例外的にオートマトンのパペットだけはこの呪詛に少しだけ適合できます」


「そうだよ! 俺様の浅ましさの象徴だ! 単なる賑やかしの学院生徒ですらもトールを想えば魔人化した! こと俺様のレベルになるとそんな段階すら超越するぞ! 魔人化の最上級……魔王と呼ばれる威力の発露だ!」


「うん。鮮烈ですよねぇ。こんなにもグチャグチャに磨り潰したいって独占欲は……」


「独占欲ってレベルですら無いんだぞ! その体を。心を。魂すらも略奪して手に入れたい暴力的な欲望で、お前はその捌け口だ!」


「照れる」


「死にたいのかって聞いてるんだよ!」


「元々魔王だというのならジュリアンの懸念は実に的外れですよね。要するに願望機ストルガツキーの端末なのでしょう? この世の願いを成就させるための奇蹟の一欠片。問題は……その魔王による願望の成立は悪意によって成立すること。人を不幸にする形でしか人の願いを叶えない。捻くれた負の遺産……とでも申しましょうか」


「そこまでわかって……なんでトールは……」


「この世界を破滅に導いても私を想っているのでしょう。私が何を想わないとでも?」


 影が奔ります。私の魔術障壁がソレを防ぎました。


「嫌だ。嫌だ。こんな愛の成就なんて望んでない。トールを殺してでも略取したいなんて……俺様はそんなものは求めてない……。ただトールの隣に立って、寄り添って歩いて、手を繋いでいけたらって……」


「自己願望すらも迂遠に願い奉りますか。光栄ながら私が好きで、だから不本意な形で愛を証明してみせる」


「マイマスター。そこまでわかって尚魔王と向かい合うので?」


「うん。だって私の願いだって不幸にする形で魔王は叶えてくれるから」


「それは――」


 影が疾駆します。ただ私に対する執着だけで人を汚染し呪殺するありったけの想いが私に殺到します。刺し込まれ、貫かれ、かき回され、そして抱かれまして。


 そこで私の意識は途切れました。


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