第104話:舞い降りる剣06
「かの魔人すらも滅ぼす手腕の見事さよ。その長い腕手で世界に終末を抱かせないかね?」
「私の終わりは意味の破却ですわよ? ぶっちゃけるなら死という救済すらも無かったことにするこの世最強の無益ですわ」
「どう思うにゃトール?」
「世界総決算に比べれば、それは終焉の魔女の方が認識としてはタチが悪いですね」
「よく勝てたよな。俺様とトール」
どこか夢の果てのように呆然と観念に耽るジュリアンでした。
「そっちは開闢の聖女か」
どうも。
「女性としての可憐さは認める。だがそんなステータスそのものが生きることを苦にしていないか?」
「私は自分が可愛ければだいたいの痛恨事はスルーできるのでぇ」
男の娘。女装って私にとってのレゾンデートルだ。
「終焉を否定する貴女を我々は却下せねばならない」
「機械神アンドロギュノスは人の愛をこそエネルギー源とするんですけどねぃ」
「この世に生以上の罪は無い。烙印を押されるより先にストーカーであることを止めよ」
「嫌です…………と言ったら?」
「――ライトニングクロウ――」
「――千引之岩――」
魔術が魔術に防がれる。
「物騒ですね」
「キミ死にたもう案件だ」
「別に開闢の聖女を信仰するのは良いんですけど、当方然程のモノでも在りませんよ」
「終焉の魔女を誑かされては人民救済も覚束ないと言っている」
「だったらフィーネ無しで教義体現をすべきでは?」
「無論一案はある。我らの悲願は願望機ストルガツキーの認める処である」
うわ。終末論者の願いまで叶えるのん?
「さて。そうなるとソフィアってビーストよりタチが悪いですよね」
獣は自滅を選ばない。
「魔王……」
ジュリアンがポツリと呟きまして。
「ではコレにて御免。終焉の魔女。興味があれば我らの教義を嗜みに来てもらえると願ったりであるぞ」
「世界に滅ばれるとこっちの願いが立脚しませんわよ」
アルマと恋するということがこの星の舞台でのフィーネの役だ。
しばらく演説しつつ終末教会のデモ行進が続き、だいたいテラス席から見える大通りをうねりつつ波濤し、そのままレミングの大行進のように通り過ぎていきました。
「で、実際どうなんですか? あんな自滅願望も願望機ストルガツキーは叶えるので?」
「どうでしょう。善悪問わずに願いが叶ったことを願望機の手柄と認識するのがこの世界なので、どこまでが願望機の手腕で、どこまでが単なる偶然かが線引きできないんですよね」
「あー」
なるほど。
例えば何気なくくじ引きで当たりを引いても確率的な問題なのか、願望の実現が奇蹟化したのかを区別する境界がないわけだ。結果、望外の幸福や信念の具現に於いて…………この世界の住人は都合の良いことを願望機のせいにしてしまう。
「私の願いも叶えてくれるでしょうか?」
こっちの世界の住人でもないんですけども。
「トールの願いってなんだ?」
「無敵になること」
「「「無敵」」」
ジュリアン。アルマ。フィーネが唖然としました。
「いや実際オルトガバメントを下したから最強じゃないか?」
「強さの純度で言えばこっちの世界の住人に負ける気はありませんよぅ。ただ私は最強という観念に絶対視をしていません。強さって言うのは比較論ですからぁ」
「無敵もそうじゃないか?」
「んー。ちょっと違うんですよねぇ」
何と申すべきか。
「無敵っていうのは言葉だけで言うのなら、敵が無いこと。コレに尽きます。要するにあらゆる戦闘の撤廃。敵対感情の喪失。抵抗という手立てに排斥にありますぅ」
無敵。すなわち恒久平和の一端ですよ。
「あらゆる敵対の絶無。戦闘による交渉手段の放棄……とでも言いましょうか。かの浅間一族だけが可能とする完全因果防御の究極系ですよぅ」
「なんか聞くだに恐ろしいな」
「でもそれくらい平和な方が日々のお茶も美味しくなるとは思いませんかぁ?」
「俺様は最強で在れば良いんだが」
「にゃー。強くにゃくてもいいにゃ」
「わたくしは魂の彩からして終焉ですので」
中々欲のない御仁で。




