第102話:舞い降りる剣04
「パペットはどう思います?」
「当方はマイマスターの疑念に追従します」
人間の想念に阿諛追従した技術。
「にしてもインタフェースが有り得ないんですけどぅ」
「それにも同意します」
慇懃にパペットが一礼。
だいたいそんな事情に、衆人環視も干渉してきて。
例えば。
「御機嫌麗しゅう開闢の聖女様」
「そこなディフェクターと仲良くしても損するだけですぞ」
「是非とも吾輩を踏んでくださいませ」
「開闢の聖女様」
私とジュリアンの名も少し売れました。かの暫定最強フィーネ嬢を打ち破ったストーカーとして。終焉の魔女を下した女の子。その二つ名が『開闢の聖女』というわけだ。
私を女の子と信じて疑わない男子諸氏もこっちへのアプローチ過熱で。ジュリアンが首輪のリードを握っていないと、どんどんつけ上がるマイノリティ。
「ジュリアン殿下。トール嬢は貴女だけのものではないでしょう?」
「チャンスは男性に等しく在るモノだと思いますが?」
「独占反対」
そんな声も散見されます。
「トールには迷惑かね?」
「そんな苦情にキスで応える私ではないんですけど」
喫茶店のテラス席。白いテーブルに両肘をついて、その先で組んだ両手におとがいを乗せて私は微笑みます。私だってジュリアンを相応に想っていることを、あんな十把一絡げに否定されるのはあまりに無念で。
「俺様にとって望外の幸運だ」
「ジュリアンの願いによって私は今此処にいるんですよ?」
元々基準世界の住人で。彼の願いでこっちの世界に来た。その純情をこそ私は絶対視していたいのだから。
「ジュリアンが自分を卑下する三倍は……私はジュリアンを想っていますから」
「何がトールをそこまでさせるんだ?」
「だって可愛いですもの」
「俺様にとっては容易に納得がいかないんだが」
女の子でありながら男の子として振る舞わねばならない事情。
「でもその在り方って萌えに通じるんですよ」
男の子のフリをした女の子に萌えないなんて男子じゃないわけで。しかもこんなに純心に悩む純情を前に打算が入る余地も無く。
「可愛いですよジュリアン。貴女の全てを呑み込みたくなるほどに」
「俺様が減算に処してもか」
「私が可愛いのはジュリアンのせいではありませんけど、私に恋するのはジュリアンの権利ですから」
「他の男子もトールを想ってる」
「可愛いですから」
濡れ羽色の髪を梳きます。暗い蒼に輝く髪質。
「そんなトールだから好きで」
赤面しているのは恥じらいの証か。
「でも俺様だけが独占して良いのかも疑問で」
「少なくとも私は独占されたいですよぅ?」
「パペットをだって可愛く想ってるだろ?」
「そういう嫉妬まで含めてジュリアンは可愛いんですよねぇ」
クスクスと笑ってしまいます。まさかオートマトンを恋敵に思われる日が来るとは。
しばし経済革新前の穏やかな街並みを眺めつつ、此処が異世界であることを肴に茶を飲んで、ジュリアンをからかいつつパペットに奉仕される。
そんな折り、
「世界は終末を迎える!」
こっちの和やかな空気とは温度の違う声が朗々と響きました。とはいえこっちを捉えた宣言でも無いので、おそらく政治的主張なのでしょう。
「願望機ストルガツキーは人の自滅願望をすら叶えよ!」
「等しく死こそが人類にとっての安寧であり救済と呼ばれる奇蹟である!」
「さあ。あらゆる人類よ! おしなべてこの世の生に絶望せよ。しかし報われよ!」
で、開闢の聖女ファンとは別に、高らかな声がシュプレヒコール。ピッとそんな物騒な文言を吐き散らす一段を指差して私は眉をひそめます。
「何アレ?」
「終末教会だぞ」
終末教会。




