第101話:舞い降りる剣03
「つまりダイレクトストーカーの起源を遡ればティターンに行き着き、その根幹に於いてオーパーツの超越性はビッグバンクの技術力をもってしても完全解明とは」
「くぁ……」
毎度毎度のストーカー養成学院。
ダイレクトストーカーに対する理解を求める教鞭の下で、私はそのレゾンデートルについて考えます。
「結局何なので……という話で」
「要するに元々有り得ない存在としてティターンと呼ばれるダイレクトストーカーがまずあるんだ。そこから人為的に模造したダイレクトストーカーをギガンテスと呼んでいる。そもそもにおいてこの複製技術は今のところビッグバンクが独占しているから市場として機能していないわけで――」
根本的に、ダイレクトストーカーの起源が不明だという。
どこで設計されたのかも分からない機体が既に人類に存在し、それを操るものをストーカーと呼んだ。その機体を旧き巨人……ティターンと呼称する。そしてこのティターンを一部解明して似通った工業技術で造り上げたのが新しき巨人……ギガンテス。
そもそもにおいてロボット工学もない世界でブレインマシンインタフェースを技術化した巨大人型ロボットというだけでも「どうにかしろ」のレベルです。たしかに不条理とか奇蹟に類する範疇ではあるのでしょう。
「で、アルマのサクラナガン・ルージュやフィーネのオルトガバメントはビッグバンクが造ったギガンテスに分類されて、俺様の所有するアンドロギュノスはティターンに分類されているわけだ」
「仕様からして違いますしね」
男女で共有しないと起動も出来ない構造ですから。個人で乗る機体には有り得ないデメリットでしょう。
「じゃあそもそもアンドロギュノスの根幹……出自はジュリアンも把握していないとぅ」
「王家に伝わるダイレクトストーカー。その程度だな。そもそもアンドロギュノスがどうやって造られ、どう王家と関わってきたのかもコッチには謎だぜ」
「ティターンねぇ」
講義終わりに喫茶店に寄ってお茶をしばく。パペットも付き添って、ついでに言えば彼女はメイド服を着ていた。萌え。
基本的に魔術を学ぶと、超文明的な不思議には遭遇する。私の魔術も一部はそうだ。
「で、そんなティターンを使って駆るストーカーが希に起こす奇跡。その根幹に願望機ストルガツキーが存在すると」
「人類の持つ願いに呼応するらしい。特に選ばれた者が願望を叶えて伝説化したエピソードも吟遊詩人が語るほどだ」
「ジュリアンの願いは……」
ここでは言語化できない。
――男に生まれ変わること。
今は女子であることにジュリアンは懸念を抱いている。故郷の王族を継ぐには自己の性別が立ちはだかるのだから。
「でもそうすると」
「?」
哀しみを覚えるように特徴的な睫毛を伏せる。
「何か御懸念でもぅ?」
「トールと恋が出来なくなる」
「何で?」
「え? いやだって……」
トールだって男だろ……と唇が紡ぎました。女装している男の私と、男子と偽っている乙女のジュリアンと。で、ジュリアンが願いを叶えて男になると、私たちは晴れて同性同士になるんですけど……、
「別にこっちは気にしませんけどぉ」
「ガチで?」
「そこまで抵抗もありませんしねぇ」
仮にジュリアンが男でも私の都合には勘案もしないもので。
「トールは優しいな」
「物事を大らかに捉えるという意味ではその通りですけど」
あまり褒められたものでもないです。
紅茶を飲みます。テラス席なのでポカポカの陽気が肌に染み入る。ビタミンを自動生成。
「じゃあティターンはそもそもどうやって定義されるかも分からない存在で」
「んーと。そうだな。そもそも何故に人間に適応するのかも意味不明のレベルだぞ」
「その意味ではサクラメントにも通じますね」
霊魂武装。
元々人間に即する魔術でありながら文明を超える超常性。
「ダイレクトストーカーがエンシェントだとでも言うのか?」
「可能性としては。もっとも存在のコンセプトが食い違っているので、結論を出すに尚早ではありますけど」
「ティターンが……エンシェント……」
でもぶっちゃけあの機能は基準世界でも有り得ないものです。それこそ奇蹟とか天啓に沿わないと具現できない遺産のような気も。




