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第100話:舞い降りる剣02


「……………………ぁ」


 咄嗟のこと。虚空を掴むように腕を伸ばしたところで、私はそのビジョンを失いました。


「あれ?」


「むにゃー」


 気付けばそこは見慣れた空間。彫り物の為された天井と、二人で使うには少し広いベッド。そして最近は常に一緒に居る疑似少年が傍で寝ていました。ジュリアン。男装することで王位を引き継ごうとする無念なりし王国の王女。


「御起床めされましたか。マイマスター」


「んーと。まぁ」


 で、そつなくベッドの側に立っているオートマトンが私に声をかけてきます。


 個体名パペット。


 クォンタムギアを有した観念論的疑似ソフィア。


「んぅ。トールぅ」


 で、同じベッドで私に抱きついて微睡むジュリアンを引き剥がして、ベッドを抜けます。


「夢見はよかったでしょうか?」


 いつもなら「はい」というところですけど今朝に限っては何だかなぁ。


「この世界に魔王っていると思いますか?」


「お伽噺。あるいは魔術的な観念。魔を排除した奇蹟の産物。何処に所属する話か……にも寄りますけども」


「いえ。妄言でした。失礼」


「いえ。ではマイマスター。おしぼりになります」


 私にとってこの屋敷での使用人はパペットに一任してあります。元々都合上使用人にも秘密主義を貫かねばならないため、事情としてはまぁ。濡れたタオルで顔を拭って眠気を覚ますと、屋敷のダイニングに顔を出します。


「あら。漸く御起きになりましたのね」


「トール。呑気だにゃ」


 で、あっさりともてなされている少年少女。最強と持て囃されている兄妹だ。兄のアルマ=クォーネと、妹のフィーネ=クォーネ。


「なんでこの屋敷で寛いでるのです?」


「トールに逢いたいからにゃ~」


「ただで紅茶が飲めますし」


 アルマは普遍的に変態ストレートで、そんな兄に惚れている妹としては私に対する牽制として距離を見極める必要があるのでしょう。フィーネが血縁でありながら兄のアルマを真剣に愛しているのは先刻承知なのですけど、その意味で私ってかなりのお邪魔虫で。


「トール。頬が引きつってるにゃ」


「えーと、その、終焉の魔女とそのお兄さんに睨まれるとどうしても」


「開闢の聖女がよくもまぁ」


 皮肉気にフィーネが吐き捨てます。そんな気分で紅茶を飲んでも渋いでしょうに。殊更に彼女の悲恋を開示しようとも思っていませんけど、応援するのも違うかなといったところ。


 願望機ストルガツキーに祈祷する彼女の願いは兄との血縁の解消。正しく男女となるための一歩にしては少し細やかすぎる願い。


「にゃー。トール。踏んで?」


「だからそんな人の観念を捨てるような行動は慎んでと……」


 猫耳をピコピコと動かすアルマを、フィーネが手に持ったリードで締め上げます。ここまでがワンセンテンス。


「フィーネだってトールを憎からず想ってるでしょ?」


「わたくしをいったい何だと……」


「でも先日みたいにツンケンしてないし」


「政治上不利な立場になっただけです」


 あの秘密部屋を暴露した後ならですね。


「アルマももうちょっとフィーネを可愛がって良いんじゃないですか?」


「妹に思い入れてもにゃー」


「お兄様……ッ」


 世の中の想いが全てきっちり完結すれば哀しいことだって世界から減るだろうに。


「マイマスター。お茶でございます。朝食はこれから準備しますが」


「パペットもありがと。愛してますよ」


「恐悦至極に存じます」


 穏やかに笑んで、パペットはキッチンへと消えていきます。


「くぁ。トール。朝起きたら起こして欲しいんだぜ」


 で、朝食を待つ間にジュリアンも寝室から抜け出てきて。一緒に朝食をとって。


「さすがに王族だけあって屋敷のクオリティも相応ですわね」


「もしかしてトール氏って玉の輿?」


「どーだかなー」


 元々事情があって重用されているだけなんですけどね。


「愛してるぜトール」


「踏んでくださいトール氏」


「お兄様から離れなさい下郎」


「制服のお召し替えを手伝いますマイマスター」


 そんなわけで今日は平日なので学院の制服……もちろん女子制服に着替える私でした。うーん。やっぱり可愛いって罪?


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