第8話「不思議な絵」
美術科の生徒は、放課後に美術室を自由に使えるはずだ。
だけれど、彼の他には誰一人いない。
「あの、これ…重そうだったので私が持ってきました」
彼の傍に歩み寄り、画材をドサリと床に下す。
やはり少し重かった。ふぅ、と一気に力が抜ける。
「…どうも」
体を絵の方に戻し、俯いてぶっきらぼうに言い放った彼の黒髪が夕日に照らされていた。
またもデジャヴ。
そこで、ふと彼の描いているキャンバスにもう一度目を向ける。これは…
「すっっっごーい!!!」
思わず口に手を当てて叫んでいた。
入口から見た限りでは美しい星空に見えたこの絵だが、実は星座を上手く組み合わせこれまた美しい女性を描いていたのだ。
こんな精巧な絵を、同級生が描いているなんて…緻密な計算がなされているんだろうな。
この人は現代のレオナルド・ダヴィンチか?
突然大声をだした私にびっくりしたのだろう。
彼は固まってしまった。
「綺麗…」
そう呟いて絵に夢中になっている私を見て、彼はブフッと噴出した。
「え!?」
何を笑われたのかわからずあたふたする私を見て、彼は更にははっと笑った。
その表情に弟や幼馴染のような馬鹿にした色はない。じゃあ何で?
「いや、だって…鼻にペンキつけて、そんな子供みたいに…」
感動してる人なんて、初めて見たから。
と肩を震わせ笑いを堪えながら言う彼は、
「え!?ペンキついてる!?」
と必死に鼻をこすりはじめた私を見て我慢できないという様子で声を上げて笑いだした。
多分、画材を運んだ時にペンキが付いた手で、さっき口を覆ったからだ。
恥ずかしすぎる。
でも、何かを吹っ切れたように笑い続けるその姿に、笑われたことを怒ることも、ペンキの取り方を聞くことも出来ず、私はただその場に突っ立っていた。
…勿論、鼻にペンキを付けたまま。
よく見ると彼は、とても端正な顔立ちをしていた。
その整った容姿で笑っているものだから、思わず赤面してしまった。
クソ、イケメンってずるい。まぁ私の方がかっこいいけど。