第6話「堤紘太朗の思惑」
「八王子様が、開城男子の生徒と登校なさったらしいよ!」
「え!?誰!?信じられない…八王子様の隣に並ぶ勇気がある男がいるなんて…」
「普通無理だよね…レベルの差感じて辛くなるだけじゃん」
ひそひそと話しているのが聞こえる。
もう、散々だ…。
堤紘太朗との登校は、調子を狂わされることばかりだった。
彼のマシンガントークに突き合わされ、皆に王子様スマイルを振り向く余裕もなかった。
何しろ…、
「男と二人で登校とは、大胆だねぇ。学園の王子様にもついに彼氏ができたのかな?」
この幼馴染にはニヤニヤされるし…。
途中で会った夕貴は、「あらあら、どうぞごゆっくり」なんて言って私を堤紘太朗と二人にしやがったのだ。
頼んでないわ。
「別にそういうのじゃないんだって。向こうが勝手に押しかけてきただけで…」
そう言って項垂れた私に、夕貴が意外そうに言う。
「押しかけてきた?」
「うん。断ったのに、気が変わるかもしれないからとか言って」
「ふ~ん?」
夕貴がさらにニヤニヤしている。
なんなんだ、一体。
「何よ…」
「堤紘太朗って、チャラいけど自分からは絶対に攻めないって有名なのよね」
「は?」
「つまり、来るもの拒まず去るもの追わずってこと」
「…だから、何」
いや、本当にだから何なんだ。
怪訝に眉をひそめた私に、夕貴はマジかコイツ…と言った目で呆れたようにため息をついた。
あれ、なんだかその姿、葵にそっくりだぞ。
「アンタって、鈍いわよねぇ」
馬鹿にしたような笑みも、葵と重なる。
どうしてボロクソ言われなきゃいけないんだと思ったけれど、口を噤んだ。
どうせ何を言ったって、夕貴には口で勝てやしないんだから。