第二話「音楽室での出会い・堤紘太朗」
_やっと着いた…と音楽室の前で一息つく。鍵を開けようと鍵を鍵穴に差し込んだ。
「あれ?」
なんと鍵は開いていた。
どういうこっちゃ。
ガラガラと扉を開くと、美しいピアノの音色が耳に飛び込んできた。
扉の防音対策が完璧なせいで、扉を開けるまで全く聞こえなかった。
_後ろにあるグランドピアノで熱心に演奏をしている彼の顔は、夕日に照らされて伏せがちな瞳がきらきらと輝き、とても綺麗だった。
しばらく呆然として音楽室前の廊下に立っていると、ピアノを弾いていた青年が驚いたようにこちらを見た。
彼はそのまま立ち上がり、こっちにおいでというようなジェスチャーをした。
ふわふわと緩めのウェーブのかかった長めの藍色の髪。かなり着崩した制服。
そのくせ、清潔感を忘れない女の子慣れした雰囲気。
…見た目はかなりチャラい。
「ねぇねぇ君、どうしたの?こんなところで。…あ、八王子姫乃ちゃんだよね!?」
何だこいつ。
馴れ馴れしいな。
「女子高の王子様、開城女子のプリンス!さすがの美貌だな~。俺も惚れちゃいそう!」
「…。」
私が警戒心丸出しで黙り込んでいるのもお構いなしに、彼はしゃべり続ける。
「もしかして音楽の教科係とか?偉いね~。ってか、顔立ちほんとに綺麗だね、可愛いなぁ」
「偶然会うなんて、もしかして俺達って運命じゃない!?」
へらへらと笑いながら話す彼を、少し疑問に思う。
何でさっきの演奏について何も言わないんだろう?
あれこそギャップ萌えのアピールポイントじゃないか?
「ねぇ」
「んー?何々、連絡先でも交換してくれるのー?」
無視。
「さっきの演奏、本当に凄かった。聞き惚れた」
そういうと、彼はバツが悪そうな表情になった。
「あー…アレね。テキトーに弾いただけだよ。俺って天才なのかもー」
何をごまかしているのだろうか。私はちょっとイラッときた。
「そんなわけないでしょ」
「そんなわけあるんだな。だって俺、あの天才ピアニスト堤聡太朗の息子だからっ。やーっぱ才能ってのは受け継がれるもんだよねー」
そう言って彼は、自嘲気味な笑みを浮かべて横を向いた。
堤聡太朗とは、音楽に疎い私でも知っている有名ピアニスト。
その息子が開城男子にいるとは噂で聞いていたけど…コイツだったのか。
なんかイメージと全然違うんですけど。
超チャラい。
でも、言っていることは偉そうなのに、悲しそうな瞳のその姿が気になった。
しかし、私にはどうすることもできないので、思ったことをただ口に出す。
「父親の才能って…あれだけの音色を出すんだもの」
「あなたの努力の成果でしょ」
まっすぐ彼の瞳を見つめてそう言うと、彼は一瞬驚いたように目を大きくし、息をのんだ。
?何を驚いているんだろう。当たり前のことじゃないか。
しかし、彼はすぐにもとのへらっとした軟派の表情に戻った。
「まぁそりゃあ、英才教育受けてますから~」
「…あっそ」
___その後、彼は私が持っていた楽譜を代わりに音楽室の奥にある音楽準備室まで運んでくれた。
急いで音楽室を出て行った彼の頬は夕日に照らされてなのか、赤く染まっていた。
そういえば名前を聞かなかった。
私の名前を彼は知っているみたいだったけど。
◻️◻️◻️
「あぁー…。クッソ。完全に落とされた…」
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