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アキノヨゾラ  作者: こねこちゃん
7/15

駆除

パシュッ!


「……よし、4匹目」


僕は心の中でガッツポーズを取りつつ、小さく呟いた。


函館の漁港に入って6日目、8月8日の夜。

僕は6階建てのビルの屋上に陣取っていた。



自衛隊員の成瀬さんより伝えられた作戦はこうだ。

はじめに言っておくが、軍事マニアのイメージである銃器や爆弾を派手にぶっ放すような類じゃないぞ。

現役らしく、非常に地味だが理にかなったものだった。


まず、5階建て以上の建物の安全を確保する。

簡単に言えばそこからクロスボウでゾンビを狙撃するのだ。

ゾンビと言っても、彼らは映画の様に何故か生者を感知する能力とかがあったり超嗅覚や聴覚があるワケではない。知覚は人並みなのである。

知能が低い分、慎重に接すれば与しやすいほどだ。

音さえ立てなければ目の前の目に映るモノにしか注意を向けないヤツらなので、潜伏場所は建物の5階以上もあれば余程のことが無い限り勘付かれることはないのだ。


また、このクロスボウの矢の飛距離は100m程度。

狙撃の精度やゾンビの頭を破壊できる有効射程となれば、せいぜい20mくらいなんじゃないだろうか。

その意味でも、重力を敵にまわした水平射撃より、重力を味方にできる真上からの射撃のほうが効果的だろう。


しかしながら、ゾンビが近くを通りかかってくれなければ狙撃しようがないという問題がある。

その問題解決として、ゾンビの習性を利用する。


ゾンビのお食事事情として、映画の様に人肉しか食べないということはない。

食べれるものは何でも食べる。人でも犬でも猫でも、スーパーに並んだ腐った肉やパンでもだ。昏睡状態のまま目覚めなかった感染者も対象だ。

ただ、どうやって判断しているのかは分からないが、お仲間(ゾンビ)は食べない。

しかしながら、死んだお仲間(ゾンビ)は別だ。殺した直後は見向きもしないが、全身の細胞が完全に死に絶え死肉となった頃にはお食事の対象となる。


先程ゾンビの知覚は普通の人間並みと言ったが、ひとつだけ明らかに敏感な部分がある。

それは、死肉の存在だ。

臭いなのか何なのかはわからないが、死肉だけはどこからともなく嗅ぎつけて集まってくる習性があるのだ。


以上の習性を利用し、まずは陣取った狙撃場所の真下に死肉を置いておく。

蒔き餌って感じだな。

今回はてっとり早く、適当にその辺りをうろついていたはぐれゾンビを殺して蒔き餌とした。


後は集まってくるゾンビたちの頭をひたすら狙撃するだけだ。

一撃で倒せればよし。

もし外したり一撃で殺せなくても問題なし。

彼らはクロスボウの矢が真上から飛んできているなんて理解ができないからだ。

キョロキョロと周囲を見渡した後、何も見当たらないと判断すればお食事を再開する。そこを狙ってトドメを刺した。


ここに来て気付いたことがある。

最初の頃は現れたゾンビは全て駆除していたのだが、ある程度見逃しておいたほうが、お仲間の死体を胃の中に収めるか日の出とともにお弁当として持ち帰ってくれるのである。

これは大変助かった。

狙撃ポイントの死体の山が大きくなりすぎると、そこにゾンビが立ち入ってこれなくなり大きく命中率が下がるのだ。

あと、何体駆除すればこの仕事が終わるかわからないが、港で追われたときのことを考えれば100体は余裕でいるだろう。下手したら桁が違うかもしれない。

それを考えれば、そんな数の死体が目の前に山盛りになってるとか、精神衛生上もそうだが普通に衛生上も宜しくないだろう。

狙撃ポイントを他に移すことも考えたが、折角見つけたベストポイントだし、持ち込んだ物資の移動も一苦労だ。

まさか、ゾンビに感謝する日が来るとは思わなかった。



昼間のゾンビの活動低下時の主な仕事は、寝ることはもちろん、大事なのはクロスボウの矢の回収や作成というものがあった。


ゾンビの死体あさりは基本夜間だけであり、日の出とともに日陰の「自分の場所」へと戻っていく習性がある。

生き物に対する執着は昼間でも旺盛なようだが、食料への執着は苦手な太陽を越えれないらしい。

なので、このあたりを「自分の場所」にしているゾンビを狩り尽くした現在、この辺りは昼間活動するには安全なのだ。


矢は曲がってしまったものや、ゾンビが撤収する際に持ち帰った食料に刺さったままというものもあるので、再利用率は意外と低い。

しかしながら、羽根が壊れたくらいなら再利用は可能だ。水平撃ちならば狙撃には必須な要素かと思うが、今は真下に撃ち下ろす感じだからな。重力が良い仕事をしてくれる。

また、そんな適当なモノでいいのだから、最悪はアルミ等の加工しやすい棒材から使い捨ての矢を作ってしまえばいい。材料や加工器具はここから近所のホームセンターにゴロゴロ転がっていたので、弾切れの心配は無かった。


ある時など、余裕が出て来たのかイタズラ心が湧いてきて、屋上に何故か転がっていた1.5kg程度の錆びだらけのレンチをゾンビの頭上に落としてみたことがある。

結果はてき面で、思った以上の汚い花火を咲かせてくれた。

もうこの頃には凄惨な死体もある程度見慣れたもので、「うへえ」程度にしか思わなかったが。

ただ、レンチが地面に転がった音と新たな死体の相乗効果からか、想定外に他のゾンビが集まり過ぎてしまったので、万が一を考えてその夜は駆除を断念せざる得なかったのが口惜しかった。

……うむ、やはり慣れた頃がいちばん危険というのは、仕事でもゾンビ駆除でも同じらしい。

気を付けねば。




パシュッ!


「……5匹目」


ふう。

僕は暗視ゴーグルをずらし、額の汗を袖でぬぐう。

ふと見上げれば、満天の星空だ。

ほう、と感嘆のと息が漏れる。

これだけは、何度見ても慣れないものだ。


……妻と一緒に、見上げたいな。

夜はまだまだ、これからだ。




こうして約1ヵ月、なんと300体近いゾンビを港から駆除した頃、この辺りにほとんどゾンビが出現しなくなった。

うん、頃合いなのかもしれない。


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