能力者、家を出る
柔らかな空気が身の回りを取り囲み、カーテンの隙間からは陽の光が漏れ出ている。
ジリリリリリリ ジリリリリリリ
心地よい眠りを妨げる様に鳴り出す目覚まし時計。今時ベルが鳴る目覚まし時計は珍しいのだろうか、と布団に包まりながら青年はその寝ぼけ頭で考える。が、何も思い付かなかった様で、まぁ良いかと諦めもう一度寝ようと目覚まし時計を止める。
そこから何分間、いや何十分間と言う時間が経ちもう一度青年は目覚まし時計を確認する。
「ん?ふぁ〜あ、なんだもう8時じゃんかよ。もう起きねぇとな」
青年はベッドからゆっくりと降り、フラフラとした足取りで部屋を出る。
彼の家はマンションであり、そこそこ広い部屋に1人で住んでいた。
「だりぃな。なんで俺が一人暮らしをしにゃならんのだ。」
愚痴をこぼしながらキッチンへと向かう青年。手際良くパンを焼き、朝食を作る。これだけを見れば料理が出来る好青年。なのだが・・・
「・・・トースター使うのめんどくせぇ。スキル使うか。」
あろうことか手から炎を出しパンを焼き始めたのだ。
表面が少し焦げるまで焼いたパンを咥えもう一度時計を見る。
「えぇ〜と、あれ今日何時からだっけか」
青年は呟き、少し急ぎながら寝室へと戻る。寝室では探し物をしているのか、クリアファイルからプリントをやたらめったら出していた。
「おぉ、あったあった」
探していたプリントが見つかったらしく、暫くの間プリントに目を通して青年は動かなかった。するとみるみる内に青年の顔が青くなっていき、時計とプリントを交互に見るようになると。
「今日8時10分からだったぁ!!」
と、マンションでは普通出さないような声量で叫ぶと、急いで着替えを始めた。
ワイシャツを着て、制服を着て、ネクタイを締め。最後に適当に手提げのスクールバッグに教材を詰め込んで準備は完了。・・・とはいかず、髪の毛を直し、身だしなみをそこそこまで整えてから。スクールバッグを持って靴を履き、玄関を通る。
腕には液晶型の時計のような物を付け、手には何故かタロットカードを持っていた。タロットカードは直ぐに胸ポケットにしまわれたが。
「行ってきまぁす!」
青年はダッシュで自転車置き場に行き自転車に乗って学校まで走り去って行った。
彼の名は火山 涼時この世界では別段珍しくもない『スキル』を持つものであり、普通の転校生である
ん?僕は誰かって?それはまぁ、今言っちゃったら面白くないでしょ?
だから、また会う日まで!