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原動力
【大河 虎丸】
あの日を俺は忘れられない。
真夜中の静まり返った家に突如として響いた悲鳴。幼い俺を母親は慌てた様子でクローゼットの奥へと押し込んだ。眠気まなこの俺はわけもわからず、母の言う事に従った。
『何があっても出てきてはいけない』
閉められた扉の奥で暗闇が俺を包む。そしてすぐに聞こえた女の悲鳴に俺は固まり、恐怖に震える。幼いながらも母の言っていた言葉を理解し、何が起きているか分からぬ状況で、普段であれば明かりをつけたくなる暗闇の中なのに、今は一抹の光でさえ起こらないでくれと願っていた。
そうしていつのまにか気を失っていた俺を見つけたのは母や父ではなく、大勢の警官達だった。
俺の抱えてクローゼットから出してくれた警官は俺の目を覆って、周りを見ないようにと考慮してくれたけれど、俺はしっかりと目撃したのだ。警官の掌のほんの少しの隙間から、母親が羽織っていた白いカーディガンがマダラ模様の『赤』に染まり、床に落ちているのを。