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適応

三人称視点です。

 

 虎丸の答えに猿と犬は黙り込んだ。


 時を止める事ができる────それが事実ならばとてつもない力であり、自分達にとっては途轍もないピンチだからだ。


 「……旦那……いくらなんでもそれは、飛躍し過ぎた答えなんじゃねーのか」


 だからこそ猿のこの返しは少しばかり現実逃避を含んでいた。けれど虎丸はその口からバッサリと切り落とすように根拠を話し出した。


 「理由ならある。昔本やらテレビで見た事があるんだけど、犬って生き物と人間とでは時間の感覚が違うらしい。なんでも犬の感じている時間の進むスピードってのは人間の四分の一程度らしく、俺達人間の言う一日二十四時間って感覚は当てはまらないんだとか……二十四の四分割だから六時間ぐらいか? 兎に角そのぐらいだ。……こんな事を聞くのも可笑しいけど、どうだ?『犬』自身その感覚はあるか?」


 虎丸の問いに犬は釈然としない顔で答える。


 「正直……私には時間という物の概念が良く分かりません。しかし主人様の言う事を考慮してみれば、確かに人間の行動は常にのんびりな気がします。悪く言ってしまえば、すっとろい……そんな感じです」

 「だろうな犬からすれば人間は四倍のんびりしてるって事だからな。そしてそれは四倍、犬達の時間に対する意識は早く働いていると考えてもいいってことなんじゃねーか?」


 虎丸の言葉に猿が唸る。


 「……だから最後見たアイリスの姿に差異があると? だがよ、それだけで何故時を止める能力だと断定できる。高速移動や瞬間移動の類かもしれないだろ」


 もっともな意見に虎丸も体の負傷を抱えながらも頷いた。


 「そうだよ。俺もその可能性は考えていた。だけど俺がこの傷を受けたことによって、それらの能力の可能性は無くなった」

 「何故だ」

 「高速移動や瞬間移動なら俺達が今生かされている理由はないからだ。一瞬の内に俺達を始末出来るならそうすればいいのにしなかった。そして俺だけを狙った攻撃……ッ……理由があるからとしか思えない。例えば……決められた時間内しか『行動』できないとかな」

 「…………」

 「そしてアイリスがわざわざ開いていやがる俺達とのこの距離はなんだ? ……反撃を免れる為の距離か? それもある。しかし高速移動できるならわざわざあんな遠方に位置取りする意味がねぇ。なら距離を開けるのはそれなりの理由があるってことだ。アイツのしてきた事を思い出してみろ。二回目に能力を使った後、アイツは俺達に余裕たっぷりに話しかけてきやがっただろ? あれも理由があって行なった会話劇だとしたら? 何故あんな会話をした? これから殺す相手だぞ、とっとと殺せばよかったものを……つーことはよ」


 猿はアイリスに向かって構えながらも答える。


 「旦那の言うように、時を止める能力を持っているとして……連続して使ってこないのは、それが出来ないってこと……クールタイムが必要ってことか」

 「時間稼ぎの為の会話と……ッ距離感と捉えれば納得もできるだろ」


 要所要所で痛みを堪える仕草をする虎丸。しかしその口は休まない。


 「そして極め付けに、俺に浴びせられた二箇所の攻撃……滅茶苦茶に痛ぇがよ、お陰で確信の要因になってくれやがった」

 「お怪我がですか?」

 「そうよ、アイリスの持つマレット、ありゃどちらかと言えば打撃系の武器だ。もし高速移動のから繰り出される攻撃だったならスピードも加算され威力も上がるはず。あの木を叩き崩した攻撃が更にパワーアップするのが普通だ。けれど俺を仕留め損なっている。まあ、この桃太郎の力がある以上、体の硬さは常人以上なんだが……木を叩き壊す程の威力が更に強化されて、それを喰らっても俺自身生きていられる気はしない。でも俺は生きている。明らかに変だ。そして二連撃を繰り出したとしたらインパクトには時間差が生じる筈だ。でも俺には同時に二つ衝撃があった。身を以て分かるが、あれは全く時間差がなかった。まるで止まった時間の中で『仕組まれていた』ように」

 「…………」

 「では瞬間移動の線は?」


 考えているのか猿は黙り、犬がそう問うてきた。


 「……ッそれこそあり得ないな。瞬間的な移動が出来たとしても攻撃する際には姿を現さなくちゃならない。でも真正面からの攻撃だったのに俺はアイリスの姿を見ていない。桃太郎として身体能力が上がるついでに動体視力だって上がっているはずなのに。だから瞬間移動ではないと思う。それに瞬間移動出来るなら、ああして歩いて近付いたりするかよ。……もし瞬間移動できる距離があるなら別だけど、今言った理由を合わせて考えるにそれもなさそうだな」


 犬は黙る。今、彼女の心の中は納得の二文字と、それからもたらさせる勇気に埋め尽くされていた。最初アイリスが自分達の間に一瞬で移動してきた時や、今虎丸が吹き飛ばされたのを見た瞬間は、何が起きたのか分からず、未知なるものに対する恐怖に支配されていたが今は違う。ハッキリとした闘争心や敵意をアイリスに向けることが出来た。招待さえ分かれば戦える。そう思えた。


 「主人様……もし貴方の言う通りだったとして、ならばどうやって戦いますか? 時を止めている間に攻撃され、反撃しようにも距離を取られてしまえば如何に能力にクールタイムが必要と言えど、近付く間に再び止められる様になってしまえば一方的にやられるだけです」


 タネが分かってもそれを打破出来ないのでは意味がない。もっともな犬の意見だが、虎丸はニンマリと笑ってみせた。その顔には脂汗が滲んでいたが、どこか余裕だと思わせる顔だった。


 「俺に考えがある。アイリスが『時間』っつー概念に干渉しているならば、適応させられるかもしれない策がな」


 時を止める能力に適応。とても信じられない発言に犬は返す言葉が見つからない。


 「久しぶりにやるぞ犬」

 「やるとは……」

 「魂融合ソウルフュージョンだ」


 

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