力
【大河 虎丸】
幼少の頃から力を欲していた。
両親が殺されたあの日から。
親が死んでどれほどの時間が経ったか。ずっと昔のようにも思えるし、昨日の事のようにも感じる。ともかく、あの日こそ俺の人生をガラリと変えた日だったのは確かだ。
止めろと言われるのが分かっていたからこそ一人で考えた。止められるのが分かっていたから一人で行動した。俺はガキの頃からただひたすらに復讐の為だけに動いていた。
神は信じちゃいない。それでも何か力が欲しかった。犯人を見つける力、痕跡を発見出来る力、世の中を全て見通せる力……力ならなんでも良かった。与えてくれるなら悪魔でもよかった。
だから俺はこの身に突然起こった奇怪な出来事に動揺や混乱、困惑はしても、最終的には感謝するしかなかった。
この身に『桃太郎』の強さと能力が備わった奇跡に。
それは開始の合図もなく始まり、俺に説明も無しに『やらされた』のだ。夢か幻か、絵本で読んだ桃太郎の世界への侵入。介入。入門。呼び方なんてどれでも良い。
ただ『桃太郎』として異界に突然召喚された俺は、訳も分からないままその役割を押し付けられ、強要された。
混乱混じりの旅。
しかしそれこそが俺の人生の転機となった。
物語通り鬼を倒した後、俺は現実世界に戻る事が出来たが、驚くべき事にこの身に桃太郎の力が宿ったままで帰還することができたのだ。
天啓だと思った。神託だと思った。
神が『ヤツ』を殺せと言っているのだと。
───そして数年の時が経った。
誰にも負けない力はある。
誰でも殺せる力がある。
……でも俺は未だ、両親を殺した犯人を見つけられてはいない。