第6話 『信号弾魔法』
20190207公開
他と比べて木の密度が薄いと言っても、木と木の間は10㍍も無いし、不規則に生えてるしで、見通しが悪い。
昨日行った東の森なら100㍍先でも見える方向が有ったのに、これは結構神経使いそうや。
うーん、あまり目立つのは趣味では無いけど、安全には替えられへんな。
「うん? オクダ、そのハチキュウの上についてるモノはなんだ?」
「アクセサリーです、教官」
「あくせ・・?」
あ、やってもた。誤魔化そうと思ったけど、アクセサリーもこっちでは死語やった。
「えーと、何故か、ウチのハチキュウにはコレが追加で召喚される時が有るんです」
「ほう。初耳だが、何か役に立つのか?」
「ちょっと覗いてみますか?」
そう言って、寺田さんにダットサイトを覗いて貰う事にした。
正確には89式小銃用照準補助具というらしいけど、この中を覗いた時に見える赤く輝く点が弾が飛んで行くとこ、て感じで割と簡単に照準出来る優れモンや。
こういう森の中で使うんやったら便利や。
寺田さんに見せる為に、ダットサイトの前後のフタを上げて、見易いようにハチキュウを突きだした。
ダットサイトの中をいろんな角度で覗きながら寺田さんが訊いて来た。
「ほう、中の赤い点が照星に当たるのか? これは楽そうだな」
「楽ですよ。でも、ウチ以外で召喚してる人は見た事無いんで、あまり他人に言わないでくれると助かります」
「ああ、分かった」
まあ、例え寺田さんが言いふらさなくても、目立つモンやからな。
どっちにしろその内に知られてまうやろな。
そんなやりとりをしている間も、昨日は聞こえなかった銃声が遠くからくぐもって聞こえてた。
数人が単発で撃っている様や。しかもあちこちの方向からや。
さすがにスカー村が誇る2大狩場の片方だけあるな。
もう一方の狩場は西に2時間以上行った場所にあるんやけど、あっちは群れを相手にせなあかんから、ウチら初心者には荷が重いんや。
「さあて、そろそろ狩りを始める。各自、気を引き締めて行くぞ」
「はい」
森の中に入ったが、まだ端の方やから害獣のガの字も気配が無い。
その代り、小さな動物が一杯居る空気が濃いな。
実際にウサギくらい大きさの動物を何回も見掛けたで。
人間を恐れないんか、コッチの姿を見ても全然気にせんと餌を頬張ってる。
異星版リスって感じで可愛いな。
「この森では害獣以外の動物は狩ることを禁じられている。理由は分かるか、オカ」
「害獣用の餌ですか?」
「正解だ。さっきから何回も見掛けるウーという小動物も美味いらしいが、害獣の餌として残す事で安定した狩場として使い続けることが出来る。また、森に餌が無くなれば、平野部に出て来る可能性が高くなる。そうなることを防ぐ意味でも、狩る事を禁止している。まあ、それは昨日行った東の森も同じなんだが、それを説明する前に災獣が出たからな」
平野部に害獣が出てしまう事で困るのが、スカー村から北東に伸びる連絡路が脅威にさらされる事や。
その先に在る隣町のガッツ村は割と栄えてる。なんせ湖の脇という水の利が有るからな。
南の開拓村のハーツ村で収穫された麦などの農作物はガッツ村に出荷される。
その際の中継基地が発展したのがスカー村やから、連絡路の安全確保もスカー村の仕事になる。
「よし、全員止まれ」
寺田さんがそう言ったのは、森に入って30分ほどした頃や。
森の端から1㌔も奥に入ってない。
まあ、30分の間に結構教えて貰えた事が多いんで有意義やったけどな。
「もう少し進んだら、少し開けた場所が在って小さな沼が在る。直径10㍍も無い沼だ。だが、色々な動物が水場として利用している。当然だが害獣もだ。俺が先頭を進むので、縦列で続け。声を出すのは禁止だ。先ほど教えたハンドサインで合図を出すので、それに従う様に。後ろへの伝達も忘れるな。周辺への注意も忘れるな。質問は?」
みんなが首を振った。
「よし、行くぞ」
更に速度を落として進んだが、開けた場所の淵に辿り着いた途端に事態が急変した。
沼の先の森から高音を発しながら空に向けて発光体が駆け昇って行った。
スカー村だけでなく、テラ族なら全員が色の意味を知っていて、全員が使える信号弾魔法だ。
色は赤。
意味は災獣発見・・・
間を置いて、更に信号弾魔法が打ち上げられた。
色は赤と黒の点滅。
意味は複数・・・
更に信号弾魔法が打ち上げられた。
色は赤と白の点滅。
意味は救護を要す・・・
信号弾が上がる度に状況が悪化した。
1番最悪な点は、打ち上がる場所が真っ直ぐにこっちに向かって来てる事や・・・
お読み頂き、誠に有り難うございます。