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第49話 『第三次東の林殲滅戦 後退』

20190708公開



 やってしもうた?

 もしかして、やっちゃった?

 最後の1発は明らかにやり過ぎたかもしれんな・・・

 2倍速高速モード弾の発射音はかなり高音やけど、今のは撃った瞬間に空気が震えたもんな。まあ、2倍高速モード弾の時と違う現象が起こった理由はウチにもよく分からん。

 確か、ハチキュウの89式5.56mm普通弾は初速は秒速900㍍を超えてた筈。3倍で秒速2700㍍以上。

 うん、大丈夫やろ。

 ほら、宇宙のデブリを片付けるマンガで読んだけど、スペースデブリは秒速8㌔で地球を周回してるから危険なんやって言ってた。そこまでは速くないからな。秒速2700㍍って事は音速にしたらマッハ8くらいか? 音速の8倍くらいやったら衝撃波の1つや2つが出るくらいやろ・・・

 あかんやん・・・

 個人が生身で撃って、ええレベルや無い気がして来た・・・

 もしかしたら2倍高速弾モード弾はピコマシン側でなんらかの調整してたけど(例えば弾頭の形状とかを衝撃波が出難いように最適化してたとか?)、でも3倍高速弾モード弾ではそれをしてくれへんかったって事かもしれんな。 呆れて最適化の調整をせえへんかったんか?


 それも問題やけど、どれくらいの運動エネルギーやったんやろ?

 89式5.56㎜普通弾の初速では1770ジュールやから、3倍速なら9倍の15930ジュールか?

 それって、ブローニングM2重機関銃並みやないか?

 軽装甲車両やヘリコプターに向けて使う『重』機関銃と変わらんって、ハチキュウの華奢なボディで撃つのはやばくないか?

 とっさに単発に切り替えて1発で止めた自分を褒めたい気分や。


 なんにしろ、よくもまあ、無事で済んだな。



 前方に動くものが何も無い事を確認してから、そっと後ろを振り返ったけど、みんなの唖然とした顔しか見えんかったので、思わず一瞬で前を向き直したで。

 いや、あんたらみんな、襲撃の警戒してや。


 誤魔化せるか分からんけど、もう1発口笛を吹いておこか・・・


 動揺のあまり、気が付いたら、チャルメラを吹いてた・・・

 ウチのバカ・・・ 



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 


 『獣災潰し』はどこまでも予想を超えてしまう事を思い知った。

 なんだ、最後の発砲音は?

 誰も召喚出来ないと言われて来た『大砲』の魔法ファイノムかと思ったくらい、とんでもない音がしたんだが?

 一瞬だけ、こっちを見た後、すぐに前を向いて、新しく口笛の曲を吹いたが、短いうえに何故かコミカルな印象を受けた。



「各自、警戒を怠るな! いまだ、害獣も災獣も全部殺した訳では無いんだぞ! 油断するな! 隙を見せるな!」 


 おっと、隊列リーダーの言うとおりだ。

 やっと、子育て中の雌の害獣の襲撃を跳ね返したんだ。

 こんなところで油断して怪我をするなんて詰まらん。


 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽



 寺田さん、ナイスフォローや。

 みんなの集中力が戻った気配がするで。

 『鬼嫁』たちの襲撃も一息ついたし、ここは警戒しつつ後退やな。

 ウチはホイッスルを3回短く吹いた。

 後方から、隊列指揮リーダーが『全員、次の指示まで集中しろ! 警戒を緩めるな!』と言っている声が聞こえて来る。

 うん、その通りや。 

 みんなには有名な言葉をお贈りしよう。


『遠足は家に着くまでが遠足です』

 

 こっからが難しいんや。

 一仕事終えた気分の上に、心身ともに疲れているせいで気が抜け易いからや。

 これまでにかなりのオスの害獣を狩ったけど、全滅させた訳や無い。他からやって来てるヤツもるかもしれんしな。

 潜んでいるのに気付かずに懐に入られてしまうと思わぬ被害が出る可能性が高い。


 長音を吹いた後に、一拍置いて後退を意味する短音2回長音1回を続けさまに吹く。

 

 林から完全に抜け出たのは2時間後だった。



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽



「ミキちゃんの考えでは、これで東の林の危険が去ったと思うかい?」 


 東の林から十分に離れてからミキちゃんに訊いてみた。

 スカー村のギルマスから説明を受けてはいたが、やはりこの子の意見を知らないと片手落ちになるからな。 


「うーん、大丈夫と思いますけどね。オスの害獣は今日でほとんど狩ったと思います。外から新たに来たヤツを足しても数十という数でしょう。メスの害獣も4割から半分近く削った筈ですから、子供の害獣に餌を与える存在は本来の1/4にまで激減しましたからね。ですから、後は両親を殺された子供の害獣が飢えて死ぬのを待つだけの状況の筈です」

「そうだね。俺もそう思うよ」

「1週間は厳重に監視して、その間に北の森対策を開始するという感じに落ち着くんじゃないですかね。もちろん、明日、トドメを刺すというのも選択肢としては有りです。ま、その辺は今日の会議で話し合うでしょう」



 東の林には800頭から1000頭くらいの害獣が住み着いているらしいと聞いている。

 今日の突入でメスの害獣と接触するまでに狩ったオスは100頭も居なかったが、今日を含めた3回の突入で500頭近くのオスを狩った計算になる。

 メスと子供に餌を与えるオスが壊滅した事はほぼ確実だろう。

 その証拠が、中心部まで行く事なく多数のメスを狩った事実だ。

 オスが激減したせいでメスが餌を獲る必要が出て来たから、中心部から出て来た筈だ。

 そのメスも200頭は殺した。生き残ったメス200頭から300頭で1000頭は居ると見られている子供を養い切れるかといえば、難しいだろう。

 ただでさえ東の林の中は餌が減っているのだ。


「注意すべきは追い詰められたメスが共食いに走るのか、それとも外に活路を求めるのか、ですね」


 確実な結果を求めるなら、明日も東の林に突入すべきだ。

 それに、後顧の憂いを無くしてから、北の森対策をした方が効率は良い。

 だが、本命の獣災対策が全然進んでいないのも事実だ。


 今日の会議は意見が分かれるかもしれないな。




お読み頂き、誠にありがとうございます。

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