第48話 『第三次東の林殲滅戦 あたらしいあさがきた』
20190703公開
地球からこの星にやって来た『テラ族』にも人種が存在している。
日系人か、それ以外か、や。
元々、先にやって来ていた人類は、星系間移民船によって運ばれた未来人や。ウチらが生きてた時代から2世紀ほど未来の人類や。
まさか2世紀後には太陽系を開拓出来るほど繁栄するとはなぁ・・・
でも、残念ながら人類の成長余地はそこまでやったみたいや。
文明に陰りが見え始めたのもそうやけど、遺伝子操作も限界に達してたそうや。
で、変革を求めて行われたのが『星系間移民船群』による星系外移民や。
限られた遺伝子操作の余地を全て使って、この星でも活動可能になったけど、災獣や害獣相手の生存競争はぎりぎりのバランスでしんどかったらしい。そんなところに獣災が起こった。人類の滅亡の危機や。
で、掟破りでコピペ召喚されたのが始祖や。
遺伝子操作を受けていない始祖たちは、星系間移民船にとっては格好の素材やった。
それまでの人類を遥かに超える改造とピコマシンの豊富な内包により、身体的能力と魔法の能力に大きな差が出た。
だから、優秀な狩猟士には必ず日系人の血が流れてる。その最たる血筋が織田家や。ましてや1人目の転生者の子孫の織田英二氏はこの時代では頂点と言って良い能力を引き継いでる。
そんな英二氏と、2人目という事で更にアップグレードされたウチが、揃って獣災に立ち向かっている事は運命なんかもしれんな。
「オラオラオラ! そんなもんか! もっと襲って来いや、メスブタども!」
相変わらず、イタリア人が五月蠅い。それに下品や。もっと紳士的に罵って欲しいもんや。
もっとも、言葉とは裏腹にさっきから押され気味なんや、これが。
子育て中の害獣のメスは厄介だ、というのは狩猟士の間では常識らしい。ウチは新人狩猟士やから初めて対峙したけど、確かに厄介や。
まず、オスよりも身体が一回り大きい。しかも防弾性能が高い脂肪層がオスよりも厚いせいで二重に撃たれ強い。ロクヨンでさえ当たり所が悪ければ、1発や2発が当たっても平気で向かって来る。あれか、ボクサーなんかが試合の最中にアドレナリンが出まくって打たれ強くなったり、出血も止めてしまう、というヤツか?
それと、撃たれても平気で襲って来るのは、凶暴化しているせいでもある。
そう考えると、通常のハチキュウで相手にするのは避けたくなっても当然やな。
うーん、そろそろみんなも限界かもしれんな。
身体の疲れは当然やけど、精神的な負担が大きいからな。
仕方ない、余り気が進まんけど、ウチのかくし芸を披露するしかないか。
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♪ぴっぴぴぴーぴ ぴぴぴぴぴー ぴぴーぴぴぴぴー♪
殺戮が繰り広げられている林に、いきなり口笛が鳴り響いた。
それも、思わず条件反射で体が体操をしてしまいそうになる聞きなれた曲だった。
どうでもいいが、この曲は早朝にこそふさわしい曲なんだが、こんな場面でも効果は有った。
いい加減、うんざりして来たところに、誰しも聞いた事の有る曲が流れるというのは、意外と効果が有るのだと知った。
多分、俺の顔には苦笑とも、微笑みとも取れる笑みが浮かんでいる筈だ。
隊列からも、思わず吹き出したであろうプッという音が幾つも上がった。
『獣災潰し』にこんな特技が有るとは知らなかったが、何かが引っ掛かった。
次に流れてきた曲は聞いた事が無い曲だったが、みんなを鼓舞する効果は有った。
その後も、次から次へと口笛が吹き流され続けた。
5曲目が聞こえて来る頃に、さっきから引っ掛かっていた記憶がやっと蘇った。
何年か前にプラント教の教会が、村の祭りで少年少女の合唱を披露したが、その曲の中で口笛の独唱パートが有った。見事な演奏だったが、あの時の少女が『獣災潰し』だったのか・・・
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『鬼嫁』の団体さんを迎え撃ちながら、口笛を吹き続けてるけど、効果はバッチリや。
みんなの迎撃を報告をする声に元気が戻ってるからな。
我ながら無茶をしている事は承知してるけど、こればっかりはしゃあない。
というか、ipXS級になってなかったら、とてもではないけど無理な芸当やな。
確かマルチタスクとか言うんやったと思うけど、口笛に関しては半ば自動で吹いてる。
それと、みんなにはばれてないと思うけど、吹いてる曲のほとんどが日本で聞いた曲や。
当たり前やけど、こっちの星では音楽に関しては日本ほど充実してないからな。
現在、意味もなくワルキューレの騎行を吹き始めてるけど、これは失敗や。
コレを口笛で再現するのは至難の業や。
まあ、みんなへの効果はどうか知らんけど、こうなったら、意地でも最後まで吹き切ったる。
あかん、脳内でワルキューレの騎行が鳴り響いてるで。ウチ自身が盛り上がり過ぎて、止まらん。
ゾーンを更に超えた領域にまで来たんちゃうか?
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ミキちゃんがいきなり口笛を吹き始めた時は驚いたが、士気高揚の効果は抜群だった。
もう何曲吹いたのか分からなくなったが、今吹いている曲はこれまでの曲と違って、何か狂気を感じる気がする。
それに合わせてミキちゃんがドンドンと加速してる・・・
中堅のハンターでさえ避けたがる子育て中の雌の害獣の突貫を軽く叩き潰し、挙句の果てに俺たちでさえ手こずる雌の災獣を鎧袖一触の如く退けている。
モトジでさえ、今では口をつぐんでいる。
最後に現れた雌の災獣を吹き飛ばした銃弾は明らかにハチキュウで出せる威力では無かった。
もしかすれば・・・
いや、あの威力は確実に3倍速弾を使った・・・
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