第45話 『遠足前夜の様な悩み』
20190620公開
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その少女を見た瞬間に浮かんだ感想は事前にじいちゃんに聞かされていた通り、『死んだシンジじいちゃんを思い出してしまう』というものだった。
170歳という記録的な年齢で大往生したシンジじいちゃんと、つい先日ハンターになったばかりの背の低い少女との間に類似点など有る訳がない。
だが、纏っている雰囲気がそっくりだった。
言葉にして言い表し難いが、超然とした感じというか、何か奥深いところに隠された裏が有るというか、とにかく普通のテラ族には出せない雰囲気だ。
ああ、俺が直接聞いた事の有るシンジじいちゃんの語録に合いそうな言葉が有った。
『みすてりあす』ってヤツだ。
確か、謎が多い、という意味だったはずだ。
まあ、なんにしろ、今日は収穫の多い1日だった。
じいちゃんから連絡を受けて、急遽資材と共にこの島に来たが、偶には本拠地を離れてみるのも良いな。
興味深い狩りの仕方も聞けたし、なにより今日食べた昼飯が旨かった。
初めて出逢う食べ方で、しかも沢山仕入れた牛肉の残りの量が心配になる様な旨さだった。
まず、コショーモドキと塩を使っていない時点で驚いた。
ステーキにしては薄めに切った牛肉を表面に焼き色が付くくらいに焼いた後、辛さと奥の深い甘みが特徴のなんとも癖になりそうなソースを絡めて食べたんだが、肉の旨さとソース(ミキちゃんとカオリ嬢はタレって言ってたな)の旨さが足し算でなく掛け算になるような料理だった。モトジによるとショウユモドキを使っているのは分かるが、それだけでは決して出ない味だそうだ。
気が付けば、かなりの牛肉を食べていた。俺の人生で1番牛肉を食べたと思う。
モトジもよほど気に入ったのか、甘みとコクを出していている調味料の事を質問していた程だ。
どうやらここ数年で、この辺りで出回る様になった木の実と野菜の煮込みが甘みとコクのミソらしい。道理で砂糖の様な単純な甘みと違う風味が有った。
獣災が終わったら、また腹いっぱい食べたいものだ。
そういえばそろそろ電話を入れておいた方がいいか?
じいちゃんも心配してたし、彼女の事を聞きたいだろう。
呼び出し音1回でじいちゃんが出た。
もしかしなくても待っていたな。
『エイジか、どうだった?』
あいさつも労いもなしにいきなり本題に入られた。
というか、こんな性急なじいちゃんは珍しい。
『例のミキちゃんに会ったぞ。実際のミキちゃんは小さな女の子なんだが、じいちゃんの言う通り雰囲気がシンジじいちゃんに似ていた』
『ああ、やはりなぁ。電話越しでもそういう感じだったからな』
『まあ、外見は本当に似ても似つかないんだがな。だが腕に関しては別だ。ギルドで聞いたが、聞けば聞くほどシンジじいちゃん並みのバケモンだな。ハンターになった初日から災獣相手に1等級狩猟士もびっくりなくらいに冷静に手を打っている。何十年もハンターをしていてもそのレベルに成れないヤツの方が圧倒的に多いだろうな』
『そうか・・・ 本人は失敗談も交えて話して来るから客観的な評価が聞きたかったからちょうど良かった。それで、獣災の方はどうだ? 対策は進んでいるのか? 一緒に持って行かせた物資は役に立ちそうか?』
『物資に関しては村の代表の承認も取れたんで全てお買い上げになった。それと驚いたことに守りを固めるよりも先に打って出ている。明日も近場の林に打って出るそうだ。俺たちも参加する予定だ』
『ハンターの数が多いとはいえ、結構無茶をするな』
『それが、チーム単位では無く、100人くらいの隊列を組んで狩るらしい。2日間で400以上は狩ったと言っていたな』
『ほう。それで犠牲者は?』
『聞いて驚け。なんと全治1週間の怪我人が2人だけだ。それも明日の狩りに参加するらしいがな』
『それは凄いな。時間が有る時で構わんから、どうやるのかを書いて送ってくれ。今後の参考にさせて貰う。そういえば鉄条網はどう使うか訊いたか?』
『いや、それは未だだ。どうもじいちゃんとの関係は秘密にしておきたい様だったので詳しくは聞けていない』
『分かれば教えてくれ。追加で送る資材の手配も有るからな』
『ああ、分かった。また明日電話する』
『気を付けてな。おやすみ』
『おやすみ』
最近では聞いた事の無い様な楽しそうな声だったな、じいちゃん。
だが、それは俺も同じか?
これだけワクワクするのは、魔法の射撃訓練の為に、初めてシンジじいちゃんに街の外に連れられて以来だな。
あの時は、楽しみ過ぎて前の夜に寝れなくて困ったが、さすがに大人になった今では大丈夫だろう。
さあて、明日は早いので、そろそろ眠るとしよう。
ベッドに入って2時間経っても眠れん・・・
ああ、楽しみ過ぎて寝れないなんて、俺にもまだまだ少年の部分が残っていたってことか?
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45話までお読み頂き、誠に有り難う御座います。
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まあ、反応が無いとは思いますが、これまでも5話ごとに書いて来たんで様式美として一応書いておきます(^^)




