第43話 『1等級狩猟士』
20190614公開
スカー村に戻ると、門を守る衛士さんから至急、狩猟士会会館に来る様に、という狩猟士会会長の伝言を聞かされた。
いや、今日は第4曜日なんで、お休みの日やで。
休日にも呼び出すなんて、ブラック企業か? 前世の看護師も結構ブラックだったので慣れているけどな。
とはいえ、児相に相談すべきか、労基にタレこむべきか、悩む案件やな。
まあ、どうせさっきのコンボイ絡みの話やろうから、行かないという選択肢は無いんやけどな。
「君がオクダミキ君か。俺は1等級狩猟士のオダエイジだ」
狩猟士会会館に着くと、すぐにいつもの会議室に案内された。
そこで待っていたのは、精悍な顔をした30歳台半ばに見える狩猟士だった。
チラッと見えたが、ソファにもあと3人ほど見知らない狩猟士が座っていた。
その向かいには里見狩猟士会会長の姿が有った。
「初めまして、奥田美紀です。こちらが親友の岡香織ちゃんです」
「は、初めまして。オカカオリです」
心配して付いて来てくれた香織が初めて出会う名家の人物に緊張したのか、ちょっと噛んでしまった。
まあ、この世界で織田の姓を名乗る人間は多いが、狩猟士の道に進む人物は大概大物になる。背負う名が名だけに、適性が無ければ狩猟士にならないからだ。
それでも狩猟士以外のいろんな分野で成功する人間が織田家には多いのだから、やってられんな。
もちろん、カラクリは存在する。
『織田』の遺伝子は、結婚で取り込んだ他の優れた資質も含めて、星系間移民船の手で顕性遺伝する様にされているから、高確率で優秀な資質を引き継ぐという訳や。
ただ1人、星系間移民船から『聖人』認定された人物を始祖とする『織田家』という、超優良ブランドの出来上がりや。
「緊張しなくてもいいよ。それに、聞いた話では君の親友の方が凄い活躍をしているそうじゃないか?」
そう言って英二氏がこちらを見て、ウィンクをした。
欧べ… 白人か!! 思わず懐かしのギャグを口走りそうになったで。
「珍しく、祖父から連絡を受けてね。この島がとんでもない災害に巻き込まれそうなので、とりあえずの援助物資を届けるついでに、現地の状況も確認して欲しいと頼まれたんだ」
おお、あしながさんが手を回してくれたんか。
前に連絡した時に頼んだ援助物資はまだ当分届けへんやろうけど、すぐに動かせる駒を使ったという事やな。その駒が並みの駒や無いところが織田家の力を表しているけどな。
ま、サプライズイベントやけど、使えるものは親でも使え、とも言うし、遠慮なく使わしてもらうで。
それと、ウチの電話帳には、あしながさんと星系間移民船くらいしか載ってないけど、さすが名家はその辺りは充実してるみたいやな。
まあ、普通は『電話』という機能自体を知らんけどな。
ちゃんとプラント教の教えにも出て来てるけど、どうもこの時代では援徒だけが使えた『御業』的な捉え方をされている。
これからも、こうやってロストテクノロジーが増えて行くんやろか?
「援助に感謝を」
ウチが殊勝に頭を下げたら、何故か頭を撫でられた。
ウチの親にも撫でられたことないのに!
どうでもいいセリフが頭を過るが、思ったよりも違和感が無かった。
意外と頭を撫で慣れている?
「しかし、ハンターになって初日から災獣を狩るなんて凄いね。どう、ウチの子になる気ない?」
さらっと、とんでもない事を言われた。
これは、ちゃんとした返事をせなあかんな。
「いえ、出会ったばかりなのにプロポーズをされても、さすがにお応えしかねます。まずはお友達からどうでしょうか?」
反応は大爆笑だった。
ひとしきり笑った後、上機嫌な様子で言われた。
「真面目な顔をしているのに、ユーモアセンスも大したものだ。あのおじいちゃんが気に入る訳だ」
いや、あしながさんとの関係に関しては、出来れば内密にして欲しいんやけどな。
ちょうど良いタイミングでソファの方から声が上がった。
視線を向けると、3人がこっちを見ていた。
歳は英二氏と同じくらいか?
強いて言うと、似た顔をしている兄弟と思われる2人の内の若い方は30歳台前半か?
「エイジ、いい加減、俺たちも紹介してくれ」
「おお、そうだな。チームを組んでいる、ウチダ兄弟とオオタだ。3人とも2等級狩猟士で頼りになるぞ」
「それは心強いですね。よろしくお願い致します」
「ああ、こっちこそよろしく」
「よろしく」
最後の太田氏は軽く右手を気障っぽく掲げただけだった。
イタリア人か!?
「気を悪くしないで欲しいんだが、1つ訊いていいか?」
内田さん兄弟のお兄さんの方が興味津々で訊いて来た。
「答えられる範囲であれば」
「MINIMIを召喚出来るらしいが、それ以外にも魔法は使えるのか?」
「ええ、使えますよ。現にMK3A2攻撃手榴弾とM26破片手榴弾は使いましたね」
「マジか?!」
「ええ、マジです」
「エイジ、俺たちはこの山に乗るぞ」
「ミーツー」
おい、太田氏、イタリア人の癖に英語を使うんやないで。
お読み頂き、誠にありがとうございます。




