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第41話 『第二次東の林殲滅戦 獣海戦術』

20190603公開



 獣災が起こる前は、東の林に生息している害獣の総数は800頭から1000頭と推測されていた。

 年間336日の内、休みの第4曜日を除く252日間、毎日の様に20頭から30頭は狩られているにも拘らず、東の林の害獣が絶滅しないのは、それくらい分母が大きいからや。

 それが、獣災を引き起こす程に大繁殖して、2000頭くらいにはなっているのでは?、というのが昨日の狩猟士会ハンターギルド上層部の会議の結論や。

 昨日、殺した(獣珠テソロを採取してないからな。だから昨日のは狩りや無い)害獣が200頭弱なんで、1/10近くは削った筈やし、共食いで少しは密度が下がる筈けど、なかなかどうして。昨日以上の規模で襲って来ている。


 これはさすがにしんどいやろな。

 何がしんどいって、休む間が取れん事や。

 常に害獣と災獣の攻撃が押し寄せて来てるからな。

 感覚的には昨日のピーク時がずっと続いてる感じや。

 人海戦術ならぬ獣海戦術って感じやな。

 林に突入してから1時間ほどしか経ってないのに、早くも昨日並みの害獣を殺しているんやから、ウチを除く狩猟士ハンターにはかなりきついかもしれんな。


 

『母さん、同じ画面の大きさやったら、古いスマホや安いスマホの方が電池の持ちが悪いんやで。性能も全然違うねん。だから、新しいこのスマホが欲しいねん』

『でも、高いやん。そんなええヤツは要らんやろ? 安いので十分や』

『それが素人考えってヤツや。性能が良いスマホを買った方が長く使えるんや。安いと性能が落ちるから、すぐに買い換えたくなるんや』

『でもな、まだ今のスマホの分割金が残ってるんやで』

『そしたら、今度の期末テストでどれか1つでも満点取ったら買い替えてや。真面目に勉強するから』

『あ、それなら、私も勉強するから、買い替えて欲しい!』

『あんたまでもか、夏澄かすみ・・・』

『ねえ、真面目に勉強するからぁ。だから、私もスマホに替えたい!』



 唐突に日本に居た頃の、親子で交わした会話を思い出した。

 中学に上がる時に買ったスマホを、息子のかけるが買い替えたいと言い出した時の話や。

 最初のスマホは値段重視で選んだせいで性能に不満が有ったみたいやった。2年間の分割金を払い終える前に買い替えを言い出したんや。

 それに乗っかる様に娘の夏澄かすみも、子供用ケイタイからスマホに買い替えたいと言い出して、次の日に緊急家族会議を開催したんや。

 その時に、性能が高いスマホは計算チップが(CPUとか言うてたな)多目に入ってたり、同じ数でも省エネモードと高速モードを上手く切り替えられるから電池が長持ちで動画の動きもええんや、等など、かけるが一生懸命に説明してたな。

 それに付き合ったせいで、ウチまでスマホの違いに詳しくなったくらいや。

 結局、旦那まで買い替えたいと言い出し上に、かけるが本当に期末テストで満点を取ったんで、ウチを含めた家族全員が買い替えたんやった。

 翔のヤツ、ワザと中間テストでは満点を取らんと、交渉のネタにしたんとちゃうか? そんな気がして来た。

 まあ、それはそれで褒めるべき事やけどな。

  


 多分、ウチと他の狩猟士ハンターにも同じ事が当てはまる気がする。

 最新式のピコマシンシステムを使われていて、しかも遺伝子操作も特別に調整されて処理能力が突き抜けてるウチに比べると、こういう高負荷が掛かる時はみんなの負担は思ったよりも大きいんとちゃうか?

 昨日も、余裕が有ったウチと違って、大ベテランの川崎さんが疲れていると明言したくらいや。

 だとすれば、潮時やろ、きっと。



「加山先輩がた、そろそろ疲れていませんか?」


 昨日と全く同じセリフを投げかけると、間髪入れずに返事が還って来た。


「そろそろ、集中力が切れるハンターが出るかも知れんな」

「一旦、下がります」


 隙を作らん様に一瞬でホイッスルを咥えたウチは短音で3回吹いた。

 後方から隊列リーダーが『全体命令が来るぞ! 気を緩めるな! ヤツラを見逃すな! 近付けさせるな!』と張り上げている声が聞こえた。

 うん、ウチもあれぐらい声が出せればええんやけどな。

 残念ながら、この小さな身体ではいくらチート級の身体能力を貰っても、肺活量まではカバー出来ん。

 それとも腹式呼吸やったら出るんか?

 まあ、時間が有る時にでも、試してみようか。



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


 

「加山先輩がた、そろそろ疲れていませんか?」


 相変わらず、緊張感を含んでいない声で少女に訊かれた。

 昨日よりもきついのに、何故、そんなに余裕が有るんだ? という疑問の代わりに真面目に答えた。


「そろそろ、集中力が切れるハンターが出るかも知れんな」

「一旦、下がります」 


 即答が還って来た。


 林からの撤退は、集中力を持続し続けるという難事業だった。 

 残念ながら、その途中で遂に負傷者が発生した。

 地面から出ていた木の根に躓いたハンターが開けた穴を潜り抜けた1頭の害獣が2人のハンターに辿り着いたのだ。

 2人とも全治1週間で済んだのは不幸中の幸いと言ったところだが、一歩間違えると惨事になるところだった。

 これ以上の狩りは止めて、村に帰る事になった。



 2日続けての凱旋だったが、昨日に比べれば疲れた顔のハンターが多かった。



 ああ、明日が休みで助かった・・・




お読み頂き、誠に有り難うございます。

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