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第4話  『災獣殺し』

20190204公開



《なるほど、それは大変だったな。まあ、美紀みき君が無事で何よりだ》

《おおきに、あしながさん。でも、あまり目立ちたく無かったんやけどな》

《それは仕方ないだろう。君の様な転生者はどうしても目立つもんさ。とはいえ、君なら大丈夫だろうが、傲慢にだけはならないで欲しいな。ここでも、多少は出る杭は打たれる、というのは事実だ》

《うん、分かってる。あ、香織カオリンが風呂から戻って来るから切るで》

《ああ。これからも気を付けてな》

《うん、おおきに。じゃあお休み》

《お休み》


 ウチは目の前に出ている画面の中の通話終了アイコンをタップした。

 もう、慣れたけど、この画面を目の前に浮かび上がらせる技術は日本でも無かった技術や。

 なんか、マンガかゲームの世界に入り込んだ気分になるで。


「お待たせ。次、入って。もう子供たちが待ってるよ」

「うん、分かった。ほな行って来るわ」


 部屋に戻って来た香織カオリンが髪の毛をタオルで拭きながら声を掛けて来た。

 おふろセットを抱えて脱衣所に行くと、幼稚園児から小学低学年くらいまでの子供たち4人が待っていた。


「さあて、お風呂に入ろか。みんな着替えを持って来てるか?」

「もってるー」

「あるよ」

「よしよし、偉いで」


 ウチと香織カオリンが第2次成人を迎えても孤児院に残れる理由に、子供たちの身の回りの世話をする人間が足りない、という事実が有った。

 ゴンザレス教士との話し合いで決まった条件には含まれていないが、これまでもウチらは子供たちの面倒を見てたから特に負担とは思わんしな。

 ま、どう考えてもゴンザレス教士だけで子供たちの面倒を見るのは無理やし、ウチらの1つ下の月子ツッキーだけでは手が回らないのは分かり切ってたからな。

 月子ツッキーと同い年の義一ヨシがもっと子供たちの面倒を見てくれたら良かったけど、ありゃ、脳筋やから無理や。


 それに、子供の面倒を見るのは楽しいしな。

 今も、湯船に浸かりながら一生懸命に指を折って100まで数えている姿なんて、可愛いぞ、おい! 責任者呼んで来い! って叫びたくなるくらいや。

 お風呂に浸りながら顔がニヤケそうになるが、悲しいかなウチの表情筋は非力や。例えるなら、爪楊枝を持ち上げるだけでプルプルするくらい非力や。 

 おかげで、緩み切った顔を晒さんで良いんやけどな。


 子供たちを風呂に入れた後、身体と頭を拭いて、歯を磨かせてから、やっと自分らの部屋に戻った。

 日本の感覚で言うと夜の8時くらいやけど、あと少ししたら小さな子供たちの部屋に行って上げないとな。

 寝る前に絵本を読んで上げたり、背中をポンポンと叩いて上げたり、子守唄を歌って上げたりと大忙しや。

 ウチは日本で自分の子供2人を育てた経験者やから当然子供の扱いには慣れてるけど、香織カオリンは天然の母性がええ仕事してる。

 母性と言えば、体つきもウチより立派なんや。こりゃあ、あと数年もせん内に致命的な差が付くかもしれん。日本でやってた豊胸体操をこっそりとやろかな? 

 もし、ばれたら、もっと差を付けられて、悲惨な事になるから、絶対に香織カオリンにばれん様にしてな。


 子供たちを寝かしつけた後は、ゴンザレス教士の部屋にGOや。

 この時間なら、ちょっとお酒を飲んでるやろけど、早目に渡しといた方がええやろ。

 案の定、お酒を飲んでたけど、ウチらの訪問を歓迎してくれた。


「夜分遅くすみません。臨時収入が入ったので、早速今月の家賃と食費を入れようと思いまして」

「カオリ君、そんなに気を使わなくても良いんですよ。2人が残ってくれている事で子供たちも喜んでいるし、私も助かっているのですから」

「いえ、こういった事は早めにしておくのが良いと思いまして。こちらが2人分の20ゴルです」


 そう言って、香織カオリンが2人分として20万円相当の金貨を巾着袋から取り出した。

 500円玉と同じくらいの金貨が20枚や。

 どうでも良いけど、この島では、金貨はゴル、銀貨がシル、銅貨がカル、鉄貨をフェルという呼んでる。

 で、1ゴル金貨が1万円くらいになって、大銀貨が5シル(5千円相当)、小銀貨が1シル(1千円相当)、大銅貨が5カル(5百円相当)、小銅貨が1カル(1百円相当)、大鉄貨が5フェル(5十円相当)、小鉄貨が1フェル(十円相当)となる。

 例えば、15,830円相当の買いもんやったら、1ゴル5シル8カル3フェル分の貨幣を出して支払う訳や。 

 まだ10進法で分かり易いけど、ゴル・シル・カル・フェルの単位は金銭だけで使うんで、最初の内はちょっとだけ混乱したで。まあ、ドルとセント、円と銭みたいなもんやと思ったらええんかな? 感覚的に慣れてしもうたからよう分からん。



「そうですか。それでは有りがたく頂きましょう。でも、恥ずかしながら世情には疎いので分からないのですが、今日からハンターを始めたのに、そんなに儲かるのですか?」

「いえ、今日は偶々災獣に遭遇しまして、その・・・」

「え・・・」


 ゴンザレス教士が驚きの余り、口を閉じる事も忘れて香織カオリンの顔を凝視した。

 次に助けを求める様にウチの顔を見た。


「運が良いんだか、悪いんだか、よう分からんけど、そういう事で今日は沢山儲かってん。まあ、心配しなくても、災獣に遭遇するなんて、そうそう無いと思いまっせ」


  

 ゴンザレス教士が復活したのは10秒以上してからだった。



 翌日、名前は知らないけど顔は知っているおっちゃんハンターに、『よ、災獣殺し!』と呼び掛けられた時に、『これが、出る杭は打たれる、ということかぁ!?』と失意体前屈(ort)したのは仕方がない事や、きっと・・・



 

お読み頂き、誠に有り難うございます。

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