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第38話 『東の林殲滅戦 カツ』

20190515公開



 昼休憩前に聞いた4人の隊列リーダーさんからの報告を合計すると、1回目の突入の成果は、森林ラプトル100頭以上、アロ10頭以上、森林重レックスが12頭というところやった。

 そこにウチが殺した森林ラプトル72頭と森林重レックス7頭を足すと、森林ラプトル172頭以上、アロ10頭以上、森林重レックス19頭になる。

 それとウチが林の外で殺した森林重レックスが2頭と森林ラプトル13頭を加えると、害獣を200頭弱、災獣を21頭を狩った事になる。

 まあ、実際は重複カウントも有るやろうから、多少は割り引いて考えなあかんけどな。


 これから分かる事がいくつか有る。


 無策に平野部で迎え討っていたら、スカー村の狩猟士ハンターはあっさりと全滅していたって事が1点目。

 一斉に襲って来た場合、害獣だけでもキャパを超えているわな。ましてや災獣がそこに加わったら、奇跡が起こらん限り全滅しか起こり得ん。この場合の奇跡と言うのは、膨大な数の宇宙怪獣の妨害を撥ね退けてGB3号機が無傷で銀河中心を吹き飛ばすくらいの奇跡や。自分で言っていて何が言いたいのかよう分からんけど、とにかくそれくらいのレベルの奇跡が必要って事や。


 2点目は東の林の害獣も災獣も想定以上に増えていて、まだまだ生き残っているという事や。

 ウチが受け持っていた正面よりも、より広い側面を受け持っていた隊列の猟果の方が多いのは当然の様に思えるかも知れんけど、実は違う。

 隊列が受け持っていたエリアを伸長させて行くと、林の外縁部に沿っている事が分かる。要するにそれ以上の面積は加算されんと言う事や。

 それに対して、ウチが受け持っていたエリアを伸長させた方が圧倒的に面積は広い。

 そりゃあ、真正面から迫るより側面に回り込もうとした害獣や災獣が居ったかもしれんけど、その比率は1割くらいのもんとちゃうか?

 だから、結論として、まだまだ東の林には害獣と災獣が生息しているという結果になる。

 満腹で襲いに来なかったのか、それとも別の要因が有るのかは分からんけどな。


 3点目は次の突入の仕方は工夫が必要と言う事や。

 さっきと同じ場所を同じ角度の隊列で突入しても、隊列に向かって来る害獣と災獣がかなり減ってしまうんとちゃうか。

 別の場所から突入する方が良いのか? それとも隊列を菱形にして中心部に向かう方が良いのか? どっちが効率的なのかを決めなあかんな。 


 林を見ながら、どうしようかを考えていると、川崎さんが寄って来た。


「お嬢ちゃん、飯は食ったのかいのう?」

「ええ。真っ先に食べましたよ」

「ほうか。では、飴ちゃん要らんか?」

「川崎さん、大阪のオバちゃんですか?」

「オオサカ? そんなファミリーネームのヤツが居たかの?」

「あ、いえ、こっちの話です。それよりも次の突入をどうするか? なんですが、何か考えが有りますか?」

「そうだな、いっその事、一旦村に戻る、というのはどうじゃ?」

「理由を訊いても?」

「なーに、簡単な事じゃよ。ワシが疲れたってだけじゃ。ほら、知っての通り、ワシは年寄りじゃからの」

「うーん、思ったよりも単純な理由ですね。もっと、こう、意味深な理由かと思いました」

「ピチピチなんじゃがのう」

「ここで無理して負傷者を出すのも悪手ですしね」


 確かに初めて隊列を組んだ狩りをした訳やし、体力的な疲れ以上に精神的な疲れが溜まってるかもしれんな。そういう意味では、魔法ファイノム的な面だけでなく、身体能力の面でもチート化したウチを基準に考えるのは危険やな。



「お、ここに居たか。で、どうする気だ?」


 声を掛けられたので、そちらを見ると寺田さんと2人の隊列リーダーが連れ立ってやって来ていた。


「今日の所はこれで退いて、村に帰ろうかと思っています。何か意見は有りませんか?」

「そうだな、この段階で還るのも良い判断だと思うな。今日だけで終わりそうに無いしな」

「それでは、お昼休憩が一巡したら、菱形隊列を組んだまま後退する事にしましょう。隊列変更の練習もしながら、って感じで」

「確かに隊列を組んで移動する練習を兼ねるのは良い考えだな。今日の狩りで隊列を組む事の意義が分かったから、移動練習にも力が入るだろう」

「それでは、みなさんに伝達・・・」

「ん、どうした?」



 寺田さんが声を掛けてくれるが、ウチはそれどころでは無かった。

 ズームを掛けた視界に、まさか再び見る事になるとは思っていなかった姿が入って来たからだ。


「昼休憩が終わる10分後に短笛を鳴らしますけど、ちょっとだけ用が出来たので、陣地を離れますね」

「用? こんなところでか?」

「ええ。すぐに戻ります」


 そう言って、ウチは林に向けて駆けだした。

 速度はあっという間に時速60㌔を超えたが、すぐに減速に入った。

 完全に止まったのは、その仔から20㍍ほど離れた場所だった。

 その仔イベリコは初めて見た時と同じ様に鼻先を地面に開いた穴に鼻を突っ込んで、思いっ切り鼻先を振り上げた。根っこごと放り上げられた雑草が舞い上がる。

 

「プッ!」


 思わず、ウチにしては珍しく噴き出した。

 香織カオリンが居ったら、腹を抱えて笑い転げていたやろう、絶対。

 ウチの噴き出した声に反応したのか、仔イベリコがウチを見た。

 首を傾げたかと思うと、何を考えたのかこっちにチョコチョコという感じで近付いて来た。

 まさか、と思いながら、ハチキュウを一旦消して、しゃがみながら抱き抱えられる様に手を広げると、そのままウチの腕の中に入って来た。


 うーん、これはお持ち帰りしてもいいって、ことか?

 つぶらな瞳でウチを見詰める仔イベリコとにらめっこ状態やったんは、何秒くらいやろ?



 何故か仔イベリコを抱えて戻って来たウチを出迎えたのは、何とも言えない生温かいみんなの視線だった。

 


 仔イベリコの名前は『カツ』にした。


 カツを抱えて戻って来たウチを見て、香織カオリンが腹を抱えて笑い転げたのは、当然と言えば当然の事だった。




お読み頂き、誠に有り難うございます。

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