第37話 『東の林殲滅戦 休息と推測』
20190505公開
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「悪い、水が余っていたら貰えんか?」
俺の右隣で昼食を食べていたハンターが声を掛けて来た。
名前は覚えていないが、確か5つか6つ年上の4等級のハンターだった筈だ。
トントン拍子に3等級に上がった俺とソウイチにとって、年上なのに等級が下のハンターは珍しくない。
「いいですよ」
そう言って、まだ半分以上残っている水筒を手渡す。
「悪いな。恥ずかしながら緊張の余り、来る途中でかなり飲んでしまってな」
「ああ、それ、分かります。俺もいつもならもっと残っていますから」
「ニシオカさん、俺も同じです。いつもの狩りの時よりも水を飲んでしまいましたよ」
左隣で先に昼食を食べ終わっていたソウイチが会話に入って来た。
こういうちょっとした社交的なやりとりはソウイチの方が上手い。そういう事も有り、俺たち兄弟のチームはソウイチがリーダーを務めている。今も、俺が覚えていなかった相手の名前を知っていた。
「そうか、お前達でも緊張してたんだ・・・」
ニシオカさんが意外そうな表情を浮かべて、俺たちを見た。
「緊張していなかったのは彼女くらいでしょう」
ソウイチはそう言いながら、視線を動かした。
その先には、昼休憩の時間にも拘らず、立ったまま、じっと林を見詰めている少女の姿が在った。
隣にはカワサキさんが立っていて、何かを話していた。
「『災獣殺し』の嬢ちゃんか・・・ 確かに、あの子なら緊張し無さそうだな」
一口だけ水を飲んで、水筒を返してくれながらニシオカさんも視線を少女に向けた。
「最初に東の林の害獣と災獣を殲滅させようと言い出した時には只の考え無しかと思ったが、とんだ化け物だったな」
「そうですね。正直なところ、ハンターになった初日から災獣を狩ったという噂を聞いても信じられませんでしたが、実際に狩りをしている姿を見ると、とんでもないハンターですよ」
「ああ、そうか、お前達は彼女の後ろだったな。林に入るまでにも災獣を殺ったらしいけど、実際の所、どれだけ凄いんだ?」
多分、ニシオカさんは列の後方に配置されているのだろう。
直接、彼女の狩りを見ていないのなら、興味を抱いても不思議では無い。
気が付くと、警戒の為の立哨を終わらせて、思い思いに休んでいた周りのハンターが俺たちの会話に興味を示していた。
「うーん、配置の関係で俺よりもソウジの方が分かるでしょう。どうだった、ソウジ?」
水筒の水を飲んでいた俺は、わざとゆっくりを飲み下しながら考えをまとめた。
「彼女の高速モード弾は明らかに俺たちよりも高速ですね。なんせ、音が違います。害獣や災獣を発見する目も凄いし、照準を合わせるのもとんでもなく速いし、命中率も100%かそれに限りなく近いです。でなければ、とてもでは無いですが1人であれだけの角度を受け持てません。第一、あの身長ですから俺たちよりもハチキュウを振り回すのは難しい筈ですし、俺たちよりも大きな反動をものともしていない理由なんてさっぱり分かりません。要は化け物って事です」
さすがに言葉が過ぎる気もするが、正直な気持ちだ。
「それと、彼女の狩りはハンターと言うよりも、ジエータイの戦い方に近い様な気がします」
俺の言葉は周りのハンターにすぐには理解して貰えなかった。
まあ、当然だろう。
誰もジエータイの戦いを見た事が無いのだから。
当然だが、俺も見た事は無い。
そして、この見解に至ったのは、実際に狩りをした後だった。
ところどころで感じていた違和感を、この見解では解決出来る。
「分かり難いですよね。こう言い換えた方が分かり易いでしょう。『プラント様が遣した援徒』の戦い方に近いと・・・」
俺の言葉を理解したハンターの表情が変わった。
自分達日系人の始祖に関する話だ。それぞれの家には大なり小なり、伝承が残っていてもおかしくない。
一部の家系は特に敏感に反応してもおかしくない。
「ソウイチ、うちに古い本が有っただろ? ほら、死んだお爺ちゃんが大切にしていた本だ」
「あ、ああ。俺は読んだ事が無いが」
「あれは俺たちの御先祖様の3代目が『プラント様が遣した援徒』だった初代様から聞いた話をまとめた本だよ。まあ、何度も何度も書き写したものみたいだからそのものじゃないけどな」
ふと、気が付くと、俺たちの周りに20人くらいの人だかりが出来ていた。
「それで、その本の中身と彼女がどう結び付くんだ?」
今、訊いて来たハンターの初代様は確か俺たちの初代様と同じ境遇だった筈だ。
「知っている人も居るかも知れませんが、我がカヤマ家の初代様は第2次召喚でこの星にやって来ました」
この事の意味は、初代様がジエーカンだったという事だ。
プラント様による2度目の召喚でやって来た30人の援徒全員がジエーカンだったのだから。
「だから、その本に書いてあった事は、『テラ族とディノ族の戦い』に触れた話が多いんです。そこに出て来る言葉を彼女が使ったんですよ。具体的には、『存亡を賭けた戦争』という言葉です」
本では、その他にも『イーストランド防衛戦』や『市街地戦闘』など、沢山の言葉が出て来たが、『狩り』という言葉は1度も出て来なかった。
「俺は、彼女が援徒だったとしても驚きませんね」
みんなの視線が少女に向かった。
視線の先には、彼女を囲む様に4人のベテランハンターが居た。
カワサキさんの他にもテラダさんなどの4人の隊列リーダーが彼女と議論をしている。
4人に比べると一際小さい少女なのに、存在感が1番大きく感じるのを不思議に思えなくなっていた。
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お読み頂き、誠に有り難う御座います。




