第36話 『東の林殲滅戦 ハンティング祭り』
20190503公開
「右23! ラプ3! 70! 右に行ったぞ!」
「デブ1! 左58! 50! 直進!」
「左81! ラプ1! 仕留めた!」
「テツ! そっちにデブ1行ったぞ!」
「見えた! 当たれ! よし、デブ1、殺ったぞ!」
「右28! ラプ3、仕留めた!」
「ラプ4! 右40! 30直進!」
「右43! 手伝うぞ!」
「右50! くそ! デブ1! 40直進!」
「右42! ラプ2! 仕留めた!」
「右50! デブ1接近! 10! やばい!」
「任せろ! デブ1! 仕留めた! あ、右48だ!」
おおう、ウチの後ろでは狩猟祭りが絶賛炎上開催中やな。
現在、林に差し込まれたウチらの隊列に対して、害獣と災獣がドンドンと突っ込んで来てる。
それに対して、戦列を組んだ狩猟士が発見次第にひたすらハチキュウの高速モード弾を撃ち込んでいる最中や。意味も無く大漁旗を立てたくなるのはなんでやろな。
左右の隊列はウチを起点に後ろに左右30度の角度で開いてる。アナログ時計なら1時間もしくは5分間の角度や。
その隊列から直角に真っ直ぐ伸びる線が一応の射線や。
さっきのアナログ時計を例に挙げよか。
半径50㍍の時計を思い浮かべて欲しい。
00分を指す長針が右後ろの隊列。1時を指す短針が左後ろの隊列になる。その間の三角形がウチらの陣地となる。
で、1時から5時を左後ろの隊列が受け持っていて、9時から12時を右後ろの隊列が受け持つ事になる訳や。
さて、ウチが受け持つのは何時から何時でしょうか?
答えは4時から9時や。角度にして150度やな。
なんか、1人で150度を受け持って、100人で210度を受け持つ事になるんやけど、言い出しっぺや無かったら不公平過ぎて文句も言いたくなるな。まあ、左利きの双子狩猟士が多少はフォローしてくれてるから実際はもう少し狭いけどな。
おっと、また森林重レックスのお出ましや。ウチだけでも林に入ってからもう4頭殺したけど、狩猟士会の予想以上に大繁殖の規模が大きかったという事やろな。
うーん、そろそろみんなの集中力の心配をせなあかんけど、どうしたもんかな・・・
みんなの声を聞く限り、もうちょい大丈夫と思うんやけど、後退のタイミングに要注意やな。
でも、『まだいけるはもうだめ』だっけ?
今来てる襲撃の波が引いたタイミングで後退しよか。
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誰だ、こんな計画を立てた奴は?
15年以上ハンターをして来たが、こんな狩りは初めてだ。今まで培って来た狩りの経験やノウハウが全く役に立たない。
今、この場で役に立つのは、とにかく自分の受け持ちエリアの害獣と災獣を撃ち続ける事だ。
もっとも、俺から見て正面から左側に関しては出る幕が無いと言っても良い。
なんせ、少女の形をした小さな怪物が、個人での受持ちと思えないほど広い範囲で、現れる害獣と災獣を漏れなく狩り尽くしているからだ。
気が付いたら、もっぱら俺は自分の右側に並んでいる隊列のフォローばかりしている。
しかし、この、隊列で迎え討つという作戦は凄く効果的と言わざるを得んな。
普通にチーム単位で林に入っていたら、全滅は確実だっただろう。
むしろ、調査に入ったハンターチームが情報を持って帰って来れた事に感嘆するくらいだ。
それと、地味な事だが、周りに状況を知らせる声掛けも役に立っている。
昨日の訓練で練習したが、なんとか様になっている。
初めの頃はぎこちなかったが、実際に狩りを始めれば必要な事だったと分かる。
右列と左列の番号を重ならない様に付ける事で混乱を減らし、かつ、どの辺りかとすぐに分かる様に考えられている。どうすれば、こんな発想が湧くのか理解出来んが。
「加山先輩がた、そろそろ疲れていませんか?」
何故か、その声は、この場に似つかわしく無い様に聞こえた。
理由はきっと緊張感が感じられなかった事か?
言われて気付いたが、そう言えば腰と肩に凝り固まった様な疲れを感じた。
「まだまだ行けると言いたいところだが、確かに疲れているな」
「タイミングをみて、一旦後退します・・・よ」
喋っている最中も少女は金属音がする銃撃をこなした。
「了解した」
「ホイッスル、いえ、短笛をいきなり吹く・・・と、みんなの集中が切れそう・・・なので、伝令役を頼んでいいですか?」
「でんれい?」
「えーと、後退するか・・・ら、その積りで、って4人のリーダーに伝えに・・・一走りして欲しいんです。ついでに怪我人が居たら・・・戻らなくていいんで・・・連れ帰る役もお願いします」
「分かった」
思わず返事がソウイチと重なった。
「さすが双子や。息ピッタリや」
小さく呟かれた声が聞こえた瞬間、何故か、見えない筈の少女の顔に笑顔が浮かんでいる様な気がした・・・・・
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まあ、無理にとは言いませんけどね。




