第34話 『東の林殲滅戦 開始』
20190416公開
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「ソウジ、気負うなよ。いつもの調子でやれば、大丈夫だからな」
そう言って声を掛けて来たのは双子の兄貴のソウイチだった。
俺たちはいつもなら10歳下の、これも双子の弟妹とチームを組んでいる。
自分で言うのも何だが、俺たちのチームは若手の中ではかなりの有望株と見られている。
兄妹で組んでいるせいも有り、息が合うから狩りの成果も多い。
それに、俺とソウイチはハンターの適性が高かった様で、とんとん拍子に等級を上げる事が出来た。ハンターになって15年で3等級の資格を取れたのだから、公平に見ても才能は有ると思う。
今回行われる東の林の狩りに参加しているチームメンバーはソウイチと俺の2人だけだ。弟妹の2人は今日は村で万が一の警戒任務に就いている。
「そういうソウイチこそ、下手を打つなよ」
今、俺たちは縦に2列に並んで東の森に向かっている。
先頭を行くのは、最近ハンターになったばかりの女の子だ。
なんせ、まだ片手で数えられる回数しか狩りに出ていないと聞いている。それだけなら本当のヒヨコハンターだ。
外観上の特徴としては、顔は整っているのに表情が変わらないせいで、損をしている気がする。笑えば、きっとモテる女の子と言って良いだろう。
で、身長が低い。140㌢有るか無いかくらいだろう。13歳なんだから当然と言えば当然なんだが。ピンク色のリボンでまとめたポニーテールが年齢相応という感じを醸し出している。今もポニーテールが歩く度にゆっくりと揺れている。
俺もソウイチも、この少女と同じ年齢の時は先輩ハンターの後ろをくっついて歩いていた記憶が有る。
俺たちがラプトルを初めて仕留めたのが3回目の狩りの時だった。それも指導員の先輩ハンターがお膳立てしてくれての猟果だ。
今思うと、あと1歩まで追い詰めながらも運が悪くて2日間も成果が出ていなかったから、わざわざ上手くラプトルを狩る機会を与えてくれたんだと思う。
もっとも、初猟果に3日も掛かったというのが遅いかと言えば、むしろ早い方だ。
中にはどうしても狩れなくて、先輩ハンターが一緒に付いて来てくれる最後の3日間を病人の様な顔で過ごしたヤツも見た事が有る。
それなのに、目の前の少女は狩りに出た初日からとんでもない成果を叩き出し続けている。
初日から害獣でなく、チームで相手をしなければ命を落とす災獣を狩って見せたのだ。
要するに何が言いたいかと言えば、小さな少女という外見と中身が全くの別物だという事だ。
第一、これから行う大規模な狩り(少女曰く『存亡を賭けた戦争』)は彼女の発案だ。
ハンターを並べて害獣と災獣を同時に相手にするなんて発想は普通は出て来ない。
狩りと言うのは、痕跡発見、追跡、発見、位置取り、射撃という具合に流れが有る。
それを発見、射撃という2段階だけで済まそうというのだから、明らかにハンターの考え方では無い。
『よいかな、お主らに忠告しておきたいのは、お嬢ちゃんが何をしても平常心を保て、という事じゃ。お嬢ちゃんが常識では考えられん事をしでかしても、そういう現象だと思って深く考えるな、という事じゃ』
昨日の遊びの様でありながらも実戦に役立ちそうな訓練を終えた帰り、大先輩のカワサキさんに言われた言葉だ。
只でさえ、害獣と災獣が溢れそうになっている東の林に入る事は重圧なのに、そんな事を言われれば更に重圧が掛かる。それでも言っておかなければならないのだから、余程の腕なんだろう。
兄弟揃って左利きという理由で、特等席で噂の腕を見れる事は幸運と言って良いのだろうが・・・
東の森まであと300㍍ほどという地点に差し掛かった時に、いきなり甲高い音が鳴り響いた。
訓練初日の後半から使われる様になった少女だけが使う短笛の音だ。口に咥える数㌢くらいの笛なんだが、驚くほど遠くまで聞こえる。
彼女の地声が小さい為に声での指示が遠くまで届かないから使う様になったが、あんな笛なんて誰も見た事が無い。
短音3回だからこれから指示を出すという合図だ。後ろの方で中継役と隊列リーダー役を兼ねるベテランハンター4人が大きな声で『指示が来るぞー!』と言っている。
次に長音が来たのでこれからの行動に対する備えをする。後ろでは『ぜんたーいぃぃ』という号令が重なった。
短音2回、停止の合図だ。
3秒程の時間を置いて、長音、長音、短音が鳴り響いた。隊列開け、の合図だ。
20秒後、長音の後に短音3回の短笛の音が鳴り響いた。構え、の合図だ。
一斉にハチキュウを構える音と気配がした。新たに使う様になった高速モード弾は反動がきついので、ハチキュウの銃床をしっかりと左肩に押し付ける。
この段階で作戦は開始になる。緊張で喉が渇く。
そして、5秒後、長音の後に短音1回、前進の合図だ。
逸る気持ちを落ち着けて、ゆっくりと脚を交互に出して前進を始めた。
警戒の為ハチキュウを構えたまま、ゆっくりと全体が進む空気を感じた。
この状態で行進する際は自分が割り当てられた方向だけを警戒すれば良い。
最初は不思議だったのだが、どうしてなのかを聞くと納得の理由だった。
いつもの様にそれぞれが広い範囲を警戒すると、重なる部分と重ならない部分が一瞬一瞬で出てしまう事を避ける為だそうだ。これもハンターの発想じゃない。
ただ、接触が始まれば30度の角度内に限って各自の判断に委ねられる。
ある程度の自由を持たせる事で判断の硬直化を避ける為と、射線を重ねる狙いだ。
前進を始めて10分ほど経った時に、いきなり前方2㍍から金属音が鳴り響いた。
反射的に少女の方を見たら、彼女が撃っているハチキュウの発砲音だった。
次に視線を前方の林に向けると、森林重レックスが2頭に森林ラプトルらしき害獣が5頭、合わせて7頭が林から飛び出してこちらに走って来ている姿が目に入った。
入ったのだが、その瞬間に左端を走っている森林重レックスの巨体から力が抜けて、そのまま前足の膝を折って跪いてしまった。2秒後には真ん中を走っていたもう1頭の森林重レックスが後を追う。
途端に金属音が止まり、一瞬の間をおいて、今度は5回、単発での発砲音が鳴り響いた。
災獣2頭と害獣5頭が10秒も掛からずに狩られた瞬間だった。
想像も出来ない結果に、思わず「マジかよ・・・」と呟かれた声が聞こえた。
ソウイチの声だった。
その声は後方に伝播していった。
だが、本当にゾッとしたのは彼女が長音の後に短音1回の笛を吹いた直後だ。
指示も無く思わず立ち止まっていた事に気付くと共に、少女との距離が発砲前から更に2㍍離れていた事に気付いたからだ。
彼女は150㍍以上先の災獣と害獣を撃ち殺しながら、前進を止めていなかったのだ・・・
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お読み頂き、誠に有り難うございます。
どうやら、連続更新に多大な貢献をしてくれた妖精さんはどこかに旅立ってしまいました。
妖精さんが居なくなって初めて分かったのですが、どうやら名前は執筆衝動さん、というらしいです。
妖精さんが居ない今、更新に時間が掛かる様になるのは仕方の無い事ですよね(^^)




