第32話 『ドコに行ったんや?』
20190414公開
「よーし! もう一度やるぞオ! せーのーで、一! 二! 三! 四! 五! 六! 七! 八! 止まれ! 周囲警戒! よし! 動くぞ! 一! 二! 三! 四! 五! 六! 七! 八! 九! 十! 十一! 十二! 十三! 十四! 止まれ! 周囲警戒! よし、行けそうだな・・・」
隊列を組んだ状態での移動訓練はまずまずの出だしやった・・・
午前中に隊列を構成する人員を選抜し、並ぶ順番を決めて、何回か行進してみた。
これなら、午後からの本格的な行進訓練は意外と楽勝ちゃうんか、という楽観的な空気が流れたんも仕方が無いほどやった。
今日は第1曜日かぁ・・・
日本で言うと月曜日になるけど、看護師をしていた時には曜日よりもシフトの方が重要やったなぁ・・・
思わず現実逃避をしてしもたで。
理由は簡単や。
思ったよりも狩猟士っていうのはチームごとの行動や単独での行動に慣れきってしまっている、という事に今更の様に気付いたからや。
日本で育ったら、教育課程で団体行動が身に付くのは当然なんやけど、ここではそこまで団体行動に重きを置いた教育をしてないからなぁ。
しかも上手く害獣を狩る為にはチーム内での連携が一番重視されるから、それをバラして違う面子と組み合わせたところで烏合の衆にしかならんわな。
うーん、ちょっと日本人の感覚で考え過ぎたかな?
そう言うたら、コッチに生まれてから避難訓練もしてないな。
地震が無いから、そんな必要も無いもんな。
獣災に備えて避難訓練してもええけど、どこに避難するねん、という問題が残るしな。
うーん、今から地下室を作るのは無理か?
機会が有ったらダメ元で提案しとこか。
昼食後から始めた隊列を組んだ状態での移動訓練は、途中から困難の連続やった。
ハチキュウを召喚せずに普通に歩く速度で始めた時はまだマシやった。まだ余裕も多少は有ったんやで。
でも、実際にハチキュウを召喚して構えた途端に、それぞれのリズムが違う事が露呈したんや。
想定外やったんは2人の左利きの狩猟士の存在や。
そりゃあ、居るわな。色々試したけど、結局は構える向きが違うから上手い事いかんかったんで、ウチの後ろ、2列目やな、その位置に離しめにして配置した。
ウチが警戒出来る範囲と火力が他の狩猟士を遥かに上回っているから、密集されるよりもやり易いのも有るからな。
夕方まで続いた訓練が終わる頃には何とか見れる様になったで。
隊列をダイヤ形にするのも何とか合格点というところや。
行進速度は最終的に秒速20㌢に落ち着いた。
それくらいやったら、警戒しながらも連携して前進するのに問題無い感触を得られたからや。
1㍍進むのに5秒間。50㍍の隊列やからウチが通った場所を、4分以上してからやっと最後端が通りかかるという、カメもカタツムリもビックリな鈍足さやな。
まあ、今回の目的を考えたら、移動速度よりも殲滅力が重要やから問題無しや。
隊列訓練2日目は反射的に射撃が出来るようにする訓練に取り組んだ。
まず、狩猟士会の職員と手すきの狩猟士が手作りで作った紙製の帽子が全員に配られた。
ウチが提案して、昨日ウチらが行進訓練している間に作ってもろたんやけどな。
庇を大きく作っているから、ほぼ水平より上は見えへん様になっている。
で、それをかぶって隊列を組んで行進している後ろの方から、強肩自慢の者に第2学校の体育の授業で使う軟球くらいの大きさのボールを上空に向けて投げて貰って、地面に落ちたそれをハチキュウを撃つという練習や。
これが意外と好評やった。
落ちる場所がほとんど分からんから集中力が必要やし、実射訓練やから経験値が溜まるしな。
なによりも初めて使う高速モード弾の感触も掴めるからな。通常の連射よりも3分の1近くに連射速度が落ちる上に反動も大きいから慣れが必要なんや。
午後からは、投げて貰うボールを増やして、落ちる場所の分布も拡げた。例えば隊列のすぐ傍やったり、数十㍍先やったりと予測が付かん様にしてもろうた。これも夕方くらいには何とか合格点に達した。
引き換えに第2学校の備品のボール全てが使いモンにならん様になったけど、勘弁して貰おうか。
獣災で村が全滅する可能性を下げる為やし、隊列に参加する狩猟士の生存率を上げる為やからな。
それでも途中でボールが無くなったから泥縄式に手ごろな大きさの石を不要な布きれに包んだ的を急遽作ったくらいや。
不安が無いと言えば嘘になるけど、それでも2日間の訓練の割には戦える様になったんと違うかな?
さあて、明日からはこの島の人類の存亡を掛けた戦いの始まりや。
あれ、ウチの目指したスローライフはドコに行ったんや?
お読み頂き、誠に有り難うございます。
奇跡の7日間連続投稿・・・




