第31話 『一番槍は誉れ』
20190413公開
「まずは東の林の害獣と災獣を殲滅しましょう」
ウチの発言を聞いた先輩の狩猟士のみなさんは呆気にとられた。
ウチの横に居る香織でさえ、頭を抱えてる。
いや、ほら、大丈夫。案ずるは産むが易し、って言うやろ?
「それはまた過激な意見だな」
里見狩猟士会会長が何かを耐える様な顔で答えた。
お爺ちゃんズチームのリーダーの川崎さんも苦笑を浮かべてる。
寺田さんの表情はこっちからは見難いけど、口が開いてる様に見えるな。開いた口が塞がらないってことか?
「そうですか? 各個撃破のチャンスだと思うんですけど」
ここまで来たら、遠慮は要らんやろ。
むしろ、ここは星系間移民船がウチに植え付けた地球で蓄積された知識を出し惜しみすべきやない。
まあ、プロの軍人さんやないから完全に理解出来てるとはよう言わんけど、概略だけでも分かってれば、それなりに有効やろ。
「まず、東の林の害獣と災獣の脅威を取り除く事で、獣災本番では北の森から溢れ出て来る害獣と災獣に集中出来ます。戦力の集中に合致すると思いますけど?」
きっと元の計画でも間引く所までは考えていた筈や。
そうする事で獣災時の負担を減らすって寸法や。
でも、それでは中途半端や。結局は2方面作戦になってしまう。
なんでそんな中途半端な計画になるかと言えば、人間の手が入っているとはいえ、平原よりも見通しの悪い林の中で災獣を狩る事に不安が有るからや。
ハチキュウの有効射程距離は400㍍から500㍍ってとこや。
まあ、実際は300㍍くらいと思った方がええけどな。なんせ弾頭が軽いから失速が早いし、速度が落ちたら威力が一気に落ちるからな。
それでも300㍍も離れてたら向かって来られても20秒は狙える。
それに対して、林の中では良くて100㍍くらいしか見通し利かん。
遭遇後は3分の1しか対処の時間が無い訳や。
ましてや、見通しが10㍍も無いなんて場所はなんぼでも在る。
そう考えると、害獣と災獣が溢れそうになってる林の中に入るのなんて危なくて仕方ないやろ。
だから、選抜したベテランチームを使って間引きさせるくらいしか手が無いと判断するのも当然やろ。
「言いたい事は分かる。だが、実際に殲滅しようにも危険過ぎる」
「北の森から溢れた害獣と災獣と同時に東の林から溢れた害獣と災獣をも相手にする方が、もっと危険だと思いますよ。というよりも、そうなれば破綻する未来図しか見えません」
「そこまで言うなら、何か方策が有るのか?」
「上から見たら三角形の形になる様に狩猟士を並べて、林に突きこんで行くというのはどうでしょう?」
ウチの言葉を1発で理解出来た人は居なかった。
なんせ、こっちでは地球と違って基本的にチーム単位でしか戦わない。
だから100人単位で連動して戦うという発想が出難い訳や。
有っても、チーム単位を陣形的に配置する程度やろう。
でも、ウチが東の林で使おうと考えてるのは戦列歩兵的な運用や。
地球では銃火器や大砲の発達で廃れた兵隊さんの運用方法に戦列歩兵というのが有った。
銃を持った歩兵をズラッと横隊に並べて火力を集中的に投射するというやり方や。
移動や陣形の変更も訓練されているから使い勝手も良くて、一時期はもっとも優れた運用方法やったけど、機関銃とか鉄条網とか塹壕とかが一般的になると被害ばかり増えてしもうて廃れたんや。
でも、害獣にしろ災獣にしろ、遠距離攻撃の手段を持っていない。
ならば、戦列歩兵の復活は有りと違うか?
まあ、林の中を横列で進むなんて、回り込まれて横撃やバックアタックを受けるだけやから、楔の形に並べてるけどな。
そうやな、楔の最先端から最後端までは50㍍くらいで、楔の角度20度から30度ってとこかな?
参加する狩猟士の人数は100人くらいか?
その楔を林にグイっと差しこむ訳や。全ては差し込まん。最後端までや。
それでも喰いついて来るんちゃうかな?
まあ、喰いついて来なかったら、ダイヤの形に隊列を組み替えてして更に深く差し込むか?
喰いついて来た害獣と災獣を戦列の火力ですり潰す感じかな?
対災獣まで対応可能な高速モード弾を撃てる3等級狩猟士と、対害獣を担う4等級狩猟士を交互に配置すればええやろ。
残念ながらウチは5等級やから参加出来んな。仕方ないな。
でも、医療補助魔法要員としての参加は有りやな。
「では、発案者のオクダ5等級狩猟士を最先端に配置する事にする。明日は戦列の組み方と移動の習熟に当てて、明後日は実戦的な訓練を行い、明々後日から『東の林殲滅作戦』を実施とする」
あれ、気が付いたら、ウチが一番の貧乏くじを引いてる?
はあぁぁ、しゃあないか。
元々その積りやったし。
一番槍は誉れ、やしな。
あ、これは口に出したらアカンヤツや。
出したが最後、サムライガールとか意味分からん二つ名が増えてまうで。
お読み頂き、誠に有り難うございます。
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