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第28話 『帰れる場所』

20190410公開



 ウチが目を覚ましたんは、朝日が昇るのとほぼ同時やった。

 なんで分かるかって?

 第2次成人したばかりの新米狩猟士ヒヨコハンターで尚且つ女の子という理由で、馬車の荷台で寝かせて貰ったけど、ちょうど朝日が当たる位置に顔が有ったからや。

 うーん、と伸びをした後で周囲の気配を探ると、ウチ以外にも早起きの人たちが結構居てる様で、あちこちで朝の挨拶を交わす声が聞こえた。

 声は明るい。

 きっと、かなりヤバい所まで追い詰められながらも、最後はウチのゴリ押しの医療補助魔法ヒールで死者を出さなかった事が大きいんやろ。

 誰か1人でも死んでたら、こんな空気にはならんかったやろ。

 

 それと、倒した2頭の軽装甲レックスの獣珠テソロの売却益を全員で分配する事にしたからやな。

 お爺ちゃんズチームのリーダーの川崎さんに、昨晩の夜警が終わった後にウチが倒した軽装甲レックスの売却益をみんなに分配したいと伝えたところ、7人で倒した軽装甲レックスの分も合わせる事がすぐに決まった。

 だから夜警の交代時に伝言ゲームの様に伝わったんやろう。

 損傷した防具を買い替える足しに少しはなるんちゃうかな。

 ああ、軽装甲レックス討伐に参加したという箔が付くのも大きいか。

 実際に対峙した事が有る人間は少ないから、貴重な体験やしな。


 

 馬車の荷台から降りたら、ちょうど寺田さんが通り掛かった。


「おはようございます」

「ああ、おはよう。よく眠れたか?」

「ええ、グッスリと眠れましたよ。若い身体は疲れが抜けるのが早くて助かります」

「本当に」

「ピチピチです」


 敢えて被せたら、寺田さんは苦笑いを浮かべた。

 その顔は疲労の色が濃い。

 目の下にはクマも浮いてる。

 こりゃあ、昨日はほとんど寝てないな。

 おおかた大獣災の対策でも話し合ってたんやろ。


「あと1時間ほどしたら出発だ。顔を洗ったら準備をしておいてくれ」

「了解です、教官」


 なんか微妙な顔になったけど、気が付かんかったふりをする。

 まあ、これだけ連続で災獣を狩ってる人間に教官と呼ばれるのはおもはゆいやろ。

 でも、戦闘力はともかく、知識が乏しいんは事実なんで、まだまだ教えて貰わんとあかんからなあ。

 ちゃんと残り7回は教育して貰うで。


 顔を洗った後(こういう時に魔法ファイノムは便利や。水源の無い平原でもどこでも顔を洗えるからな)、昨日力技の医療補助魔法ヒールを掛けた人の具合を確認して追加で掛け終わる頃にちょうど出発の時間になった。

 途中で2頭の軽装甲レックスの獣珠テソロの回収をするチームと、そのままスカー村に戻るチームに別れた。

 ウチは医療補助魔法ヒールが1番強力という理由で重傷者と共に村へ直帰のチームに組み込まれた。

 ラッキーや。

 それだけ早く香織カオリンに会えるって事やからな。



 スカー村の門の前には人だかりが出来てた。

 ちょっとビックリしたのはゴンザレス3等教士を筆頭に、孤児院のみんなが迎えに来てた事や。

 なんか、最終回っぽいと思ったんは内緒や。



「ごめんやで、まだウチには帰れるとこがあるんや。こんな嬉しい事はないで。分かってくれるよな? ダリオにはいつでも会いに行けるから・・・」


 思わず、口ずさんでしまったけど、勝手にダリオを殺してしもうたわ、堪忍やで。


 こうして、ウチの頭の中では感動的な名シーンが繰り広げられていたけど、実際には抱き付いて来た香織カオリンに押し倒されて、マウントを取られながら泣かれてしまうという締まらない絵柄やったんは内緒や。



 帰還した日とその翌日と2日続けてウチら新米狩猟士ヒヨコハンターの狩りは中止になった。

 ウチが爆発させた『大獣災が1ヶ月以内に発生する』という爆弾が原因やろうな。

 寺田さんがわざわざ教えに来てくれたけど、大獣災の兆候を確認する為にスカー村の狩猟士会ハンターギルドは全力で動いてたからな。

 元々休みやった第4曜日を孤児院の子供たちとのんびりと過ごしていたら、現役全ての狩猟士ハンターに召集が掛かった。

 まあ、用件は分かってる。

 大獣災の兆候が明確になったんやろう。


 おお、全狩猟士ハンターオールキャストが揃うと、さすがに壮観やな。

 ロビーからはみ出そうや、ていうか、ウチら新米狩猟士ヒヨコハンターは実際に半分はみ出てたで。

 豊田さんと同じくらい熱心なプラント教徒で、スカー村の狩猟士会ハンターギルド会長ギルドマスターの里見さんが、教会でも見せた事の無い様な真剣な表情で状況を語り出した。


「みんなも知っての通り、ここ最近連続で災獣が狩られた。明らかに異常な事態が進行しているという判断の下、徹底的な調査をしたが、その結果が出た」


 里見会長は一旦、言葉を止めた。

 誰も口を挟まないし、誰も私語をしてない。

 目に見える様な気がする程の緊張感が沈黙を伴ってロビーを覆う。 


「結果は、1ヶ月以内に大獣災クラスの獣災が起こる可能性が高いと判断せざるを得んというものだ」


 さっきまでの沈黙が破られた。

 原因は、みんなが止めていた息を吐いた音だ。

 だが、すぐに沈黙が戻った。


「幸いな事に、西の狩場は平穏だ。まあ、平穏と言っても、儂が今から狩りに行っても、軽く2、3頭くらいなら狩れる位には害獣は多いがな。問題は東の林と北の森だ。かつてない程の数のアロやラプトルがウーやイベリコを狩りまくっている」


 あの、剽軽者ひょうきんものの仔イベリコが生き残れる確率は限りなくゼロに近い。

 可能なら保護しに行きたいところやけど、許可は出んやろうな。



お読み頂き、誠に有り難うございます。

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