第25話 『マッドサイエンティスト』
20190405公開
「うーん、人口の灯りが全く無いのに、星明りだけでこんなに明るく見えるのはええんやけど、これは想像していたよりも首に負担が掛かるで・・・」
思わず独り言が出てしまったけど、勘弁して欲しい。
ウチの右目の視界は現在、絶賛緑色に染まってる。
理由は、ウチが個人用暗視装置のJGVS-V8を右目に装着してるからや。
いや、正確には、JGVS-V8+88式鉄帽+バランス取り用鉄帽覆い+3点式あご紐の豪華4点セットを装着中や。
目の前に暗視装置本体が突き出てバランスが悪過ぎるから、後ろにバラストを入れたバランス取り用鉄帽覆いを付けてても、その分重くなるんやから結局ウチの細い首への負担は増える訳や。
本体だけを手で持って覗く様にして使う事も出来るけど、それをしたらいざハチキュウを使おうとした時に暗闇に戻ってしまう。
まあ、文句を言いながらも装着してるんは、絶大な効果が有るからや。
なんせ、肉眼のままの左目では暗闇が広がっているとしか言えんのに、右目には緑色に染まりながらも雑草が生えた地面や小岩や地平線までもがバッチリ見えてるんやからな。
ちょっと視線を動かして北の森の方を見たら、ちゃんと木々が生えている森が広がっているのが分かった時には思わず、おおう、って声を上げてしまった程や。
「また変なモンを被っているな、オクダ・・・」
初めて夜警当番をするウチの様子を見に来てくれた寺田さんが、声を掛けてくれた。
まあ、心配して声を掛けたというよりも呆れて声を掛けた様に思うんはウチの被害妄想やろ、きっと。
「これも内緒にして欲しいんですけど、めっちゃ明るく見えるんですよ、これ」
「いや、内緒も何も、もはや隠す気ないだろ・・・」
「いえいえ、皆さんにはどうぞご内密に」
「ご内密にって、本当に13歳か?」
「はい、ピチピチです」
寺田さんは長い、そう、時間にして15秒を超える溜息を吐くと、気を取り直したのかいつもの声音で訊いて来た。
「それで、異常は無いか?」
「異常が無いと言えば無いんですが、動きは有りますね」
「うん? どういう事だ?」
「結構な数の草原ラプトルを見掛けていますが、或る一定のラインで引き返していますよ。多分、軽装甲レックスが周回した跡か臭いに気付いて引き返してるんでしょう」
「おい、それが本当なら、この暗闇の中、100㍍以上先の動きが分かるという事だぞ?」
「そうですよ。さっきも言いましたが、これって便利なんですよ」
そう言って、JGVS-V8本体を上に跳ね上げて、アタッチメントから外して寺田さんに手渡した。
「うお、なんだこれ? 変な色が付いてるが、メチャクチャ見えるな」
使い方を簡単に説明した後、早速接眼部を右目に当てた寺田さんが驚いた声を上げた。
「そうでしょ? まあ、これを召喚出来るテラ族はほとんど居ないみたいですけどね」
「少なくとも俺はこんなのを召喚出来る魔法を聞いた事は無いな。それにしても、これが有れば夜警が楽になるな」
「そうなんですけどね。他の人が召喚出来ない理由が分からないんでどうしようもないんですよね」
まあ、可能な限り嘘をつかずに説明をしようとすれば、こういう言い方しか出来んわな。
ウチが召喚出来る理由は分かってる。
2人目の転生者だからだ。
ウチからしたら2世紀後の未来人が建造した星系間移民船にとって、ウチは唯一のオリジナルの人類となる。
これは、星系間移民船にとって、自身で運んだ人類の末裔とも、コピペ召喚した日系人の子孫とも違う意味合いを持つ。
星系間移民船に命令を下せる唯一の存在と言う意味合いや。
勿論、建造時に埋め込まれた優先順位には入ってない。そりゃあ、転生者なんて現象が有り得るなんて、人類史の頂点を極めた未来人にも分からん事や。
本当なら、星系間移民船に命令を下せるのは20光年先の太陽系の人類の子孫だけや。
でも、残念ながら人類は星系間移民船が行った数千年に及ぶ旅の途中で衰退か滅亡したみたいや。
太陽系に向けて、移住可能な惑星を発見した事や数千年の間に開発した技術や宇宙に関する新発見を報告しても、返答は帰って来なかったらしい。
もし、ウチが星系間移民船やったら、さすがに気落ちするな、きっと。
でも、星系間移民船は或る意味偉かった。
なんと、衰退か滅亡する前の人類に連絡を取る手段を模索したんや。
結局のところ、ドンピシャの時代との連絡は無理やった。
でも、副産物は有った。
或る時代の、或る地域の、ごく限られた範囲内ならば情報を採取出来る事が分かったんや。
その努力と言うか、研究結果は意外な形で報われる事になる。
ヘキサランドに移住した人類が『大獣災(日本で言う大震災みたいなもんやな)』で滅亡する危機を迎えた時に、採取した情報を基に再構築した人間をカスタマイズして助っ人としたんや。
結局、2回行われたコピペ召喚に依り、90人の日本人がこの星に強制的に誕生させられた。
これが、この星に日系人が住んでる理由や。
25話までお読み頂き、誠に有り難うございます。
時間が余っている方だけで結構ですので、
25話到達御祝儀として
ポチッと評価して頂ければ幸いです(^^)/




