第21話
20190318公開
何故、軽装甲レックスと呼ばれるようになったか? というと、実は重装甲レックスという災獣の存在が確認されてるからや。
この島に進出した人類はまだ生きた重装甲レックスと遭遇してない。
これまでに白骨化した2体の死骸を発見しただけや。
調査の結果、傷が無かった事から老衰か病気か飢餓で死んだと見られている。
体高は2㍍近く、細身ながらも尻尾を含めた体長は6㍍を超える大型と言っていい災獣や。
最大の特徴は身体を覆う装甲状の皮や。
例えるなら亀の甲羅がもっと自由に動く感じか?
鋼鉄製のツルハシを使った強度実験では、傷は付くけど、割る事は不可能やった。
ハチキュウでの試射実験でも撃ち抜けず、生きた重装甲レックスへの対抗手段は無いと言って良いくらいや。唯一撃ち抜けるとしたら、身体の下に潜り込んで装甲状になっていない腹部を狙うというイチかバチかという方法くらいしか無いと言われてる。
もっとも、装甲状になっていなかったと思われる腹部の皮が白骨死体に残っていないので正確なところは分からん。
重装甲レックスに対して、1回り小型で同じ様な皮を持ったのが軽装甲レックスや。
こちらは厚さ4㍉相当の鉄板と同等の強度の装甲皮を身に纏ってる。
ウチも星系間移民船から脳の記憶域に直接インプットされた知識でしか知らんけど、ハチキュウで使っている89式5.56mm普通弾モドキはあくまでも対人用の小口径高速弾や。
3㍉の鉄板やったら貫通するらしいけど、軽装甲レックスの皮が進化して纏う様になった装甲はそれを上回る強度を持ってる。
垂直に撃ち込んでも貫通出来ないのに、動物である災獣の身体は当然ながら平坦では無く丸みを帯びているから、大概の弾は垂直に当たらんと軽く弾かれてしまう。
では、どうやって殺すかと言えば、ひたすらセンサー類が集中する顔面を叩くしかない。
4つ有る目を潰せば、自然界では長く生き残れないし、その内に衰弱した所を接近して目から脳に到達する1発を叩き込める。
集中射の最中にも偶然飛び込むかもしれんしな。
まあ、正直なところ、テラ族最大の火力のハチキュウにとっては厄介としか言いようの無い災獣や。
そして、ウチが星系間移民船から使用許可を勝ち取ったハチキュウの高速弾というのは、日系人の始祖のコピペ召喚者たちが編み出した反則技や。
運動エネルギーは速度の2乗で上がるから、1.4倍強の速度で撃てば運動エネルギーは2倍になる。
コピペ召喚者たちは、災獣を相手にする際には初期を除いて、この高速弾を多用したと星系間移民船の記録に残ってる。
まあ、いくら運動エネルギーが2倍になっても、ハチキュウには徹甲弾が制式化されてなかったんで、対人用の89式5.56mm普通弾モドキで軽装甲レックスの装甲皮を完全に撃ち抜けるかはやって見んと分からん。
だから寺田さんたちの協力が必要になる訳や。
それと高速弾のもう1つの効果は、弾着までの時間が短くなるという点や。
89式5.56mm普通弾の初速は秒速920㍍や。
100㍍先の標的に到達するのに0.108秒掛かる。
軽装甲レックスは今のところ馬車から大体100㍍離れたところを時速36㌔くらいでグルグル走っているけど、弾着までに1㍍ほど移動している訳や。
ここからやと最短で200㍍というところやから弾着まで2㍍移動してる計算や。
高速化で弾着までの時間が短縮されるので、未来修正量って言う移動距離の見越し分を少なく出来る。
ただ、問題も有る。
チートのペナルティでは無いけど、連射が利かん様になる。
速度を上げた分の3乗の時間が処理に必要になる。
体内のピコマシンをどれだけ効率よく使えるか? の指数にipクラスというのが有る。
この時代では廃れているからほとんど隠れパラメーターやけどな。
現在はどうやらip5s級が多い様やけど、そのクラスであればハチキュウの連射速度を再現出来るギリギリのスペックになる。
1.4の3乗は2.7になるから、連射しようとしても1秒間に3~4発しか撃てん様になる。
それでも、弾かれていた銃弾が効くかもしれんのやから高速弾を使えるメリットは有る筈や。
ウチか?
転生者という事も有り、立場が特殊な為に最新かつ贅沢な処理を施されているウチのip級はかなり特殊になってる。
ipSEadっていうんやけどな。筋力とかの体力面はほぼip5s級と同じなんやけど、処理速度がトンデモナイコトになってるで。
「なんだったんだ、今のは?」
「これって、プラント教の神様の事なのか?」
「狩猟士3等級ならここに居る全員だな?」
「その神様直々に起こした奇跡って事で良いのか?」
「高速弾って書いていましたよね? ハチキュウにそんな機能が有りましたっけ?」
「だが、その前の文章に気になる言葉が無かったか?」
「いんや、そんな話は聞いた事が無いぞ」
「権限者の要請って書いていた様な?」
「あ・・・」
それまでてんでバラバラに喋ってた寺田さんたちが、一斉にウチを見た。
そんな表情でいきなりこっちを見んといて欲しいな。
ちょと、ビクってしたで。
まあ、表情には出ないんやけどな。
「まさかと思うが、オクダのしでかした事なのか?」
「何のことですか?」
ここは取敢えずしらばっくれとこか。
一応、ウチは5等級の狩猟士やから、さっきのメッセージが来てなくてもおかしくない。
偶々、偶然のタイミングで許可が下りた、という事にしとこ。
「いや、今さっき、プラント7という差出人から通知が来て、権限者の要請という事で、高速モードだか高速弾だかの許可が下りたって文字が見えたんだ。何か知らないか?」
「権限者? 見えなかったですよ? 皆さん大丈夫ですか?」
心配そうな表情をする努力をしたけど、非力なウチの表情筋が応えてくれた気が全然せんな。
「いや、その表情なら来てないんだろう。いや、それなら良いんだ」
「あ、でも、他の方には内緒ですが、高速モード弾なら使えますよ」
「え?」
「今まで使った事は無いですけど。連射は利かなくなるけど威力が上がる筈です」
「なんでそんなのが使えるんだ?」
「うーん、なんででしょ?」
「どうせ、訊いても答えてくれんか・・・ ところで、さっき言っていた試したい事とやらはどうだったんだ?」
「あ、それなんですけど、ダメみたいです。実はウチだけでなく皆さんがMINIMIを使える様にならないかと思って、プラント様にお祈りをしたんですけどね。使えるようになったら、囮役をするんで皆さんで仕留めて貰う罠を仕掛けようと思ってたんですけど、残念です」
「それなら、高速モード弾とやらでやって見ようか? だが、囮役は俺がする」
寺田さんのハンサム発言だが、どうしよう・・・
うん、任せよう。
「分かりました。では、作戦の立案も任せます」
さすがに3等級の狩猟士ばかりが集まっているだけあって、作戦はあっという間に決まった。
それぞれが割り振られた配置に移動するのに2分。
2頭の軽装甲レックスの位置関係を見計らって寺田さんが囮をする為に飛び出したのは更に1分後だった・・・
お読み頂き、誠に有り難うございます。
ちなみに、この小説にはプロットというものがほとんど存在しません(^^)
書き始めてから考えるという綱渡りでお送りしています(^^)/




