第13話 『しんりんじゅうれっくすだよ!』
20190220公開
まったり回・・・
「ミキおねえちゃん、できたよ」
そう言って、自分で捏ねたクッキーの生地を見せて来たのは、幸子ちゃんや。
日本では息子の翔と娘の夏澄を育てたけど、やっぱりこれくらいの子供の頃が一番可愛かったな。
日本なら幼稚園児に当たるサッちゃんがドヤ顔で見せてくれた生地は、前足を前で揃えながら立ち上がってるウサギに見えた。
まあ、耳が小さいのはご愛嬌やろ。
なんせ、こっちにはウサギは居らんから、見た事ないやろうしな。
ウサギって、大昔の日系人が描いた絵本に結構出て来る事も有り、知名度は高いし、子供の人気も高いんや。
「おお、なかなか可愛いうさぎさんやなぁ」
「ちがうよ、ミキおねえちゃん。しんりんじゅうれっくすだよ!」
せつこ、それ動物やない、災獣や!
昨日一昨日と遭遇した災獣の名前が『森林重レックス』や。
名前の由来は正確な事は分かってへん。
まあ、多分やけどヘキサランド原産の災獣の近似種で、森林に生息するメタボ気味なところから付けたんやろ。安直と言えば安直な名前やな。
「間違えてごめんやで。言われてみたらそっくりやな」
「えへへへ」
サッちゃんが嬉しそうに笑った。
そのサッちゃんの横から手が伸びて来た。
お、今度は愛子ちゃんが見せてくれるんか。歳が近い2人は仲良しでいつも一緒や。
昔のウチと香織の様で、見てて微笑ましいくらいの仲良しさんや。
「あいこのもみてー」
「おー、これも立派な森林重レックスやなあ」
「ええええ、ちがうよ! うさぎさんだよ!」
「ご、ごめん」
「このみみ! このみみをみて!」
「ほんとや、うさぎさんやな」
サッちゃんがアイちゃんの生地を見て、ショックを受けた顔をしてるけど、なんでや?
自分の手の中の生地を見詰めながら「そのてがあったかあ」と呟いてる。
そして、生地を弄って、もう1度見せて来た。
「ミキおねえちゃん、できたよ」
この流れはアレやな・・・
ちゃんと当ててやらんといかん流れやな。
「おお、かわいいうさぎさんやな」
「ちがううう。そうげんらぷとるだよ!」
せつこ、それ動物やない、害獣や!
今日は第4曜日で、お休みの日や。
だから、狩りもお休みで、ゆっくりと過ごしてる。
この島では暦に関してはディノ族の暦を使ってる。
1週間は4日で7週28日で1ヶ月になる。
12ヶ月で1年になるから1年は336日や。
地球の1週間7日に慣れてたから、最初の内は違和感が有ったけど、今ではこっちの方が楽やと思う。
看護師をしてたら、6連勤というのもザラやった。
しかも夜勤も有るから結構偏ったしんどいシフトになる事も有るんや。
でも、こっちやったら、3連勤が最高やからな。
第4曜日だけの楽しみの3時のおやつとして食べたけど、結構美味しかったで。
まあ、今日のクッキーは砂糖の量も多かったからな。
あ、そうそう。
今日は産休を貰ってるアラベラ教士が顔を見せてくれたんや。
地球から移住したテラ族唯一の宗教、プラント教は教士の生活や結婚に対して結構自由度が高いんや。
地球やったら、教会に住み込みやったりするんやろうけど、通いでも構へん。
だから、新婚さんのアラベラ教士も結婚した時に新居を構えて、そこから通ってたんや。
美人で若いアラベル教士を射止めたんはスカー村狩猟士会会館の職員やった。熱心にアプローチしてたから、結婚してすぐに身ごもったのは当然の流れかもしれんな。
産休を取る様に説得したのも旦那らしいわ。
ま、身重の身で10人以上の子供の面倒を見るのはさすがにしんどいから、産休を取るのは正解やな。
で、アラベラ教士が教えてくれたところによると、主婦層にもウチらが災獣を倒した話は拡がってるそうや。
まあ、このスカー村自体がハンターが作った様な村やから、そういう話は拡がり易いんやろ。
問題は、ウチと香織に仲の良い男友達が居て無いかで話が盛り上がった事や。
なんか、嫌な予感がするのは気のせいやろか?
お読み頂き、誠に有り難う御座います。




