第12話 『スカー村狩猟士会会館』
20190216公開
「しかし、2日続けて災獣の獣珠を持って来るなんて、前代未聞だよ、全く」
そう言いながらも、笑顔を浮かべてる妙齢の女性はアニエルさんや。
旦那さんは村役場で働いているから夫婦揃ってのホワイトカラーや。
ちょっと羨ましい気もせんでは無い様な気もするな。
ちなみに一人娘のエレオノールちゃんは天使の様に可愛いで。第2次学校の2年生で進学するのか就職するのか悩んでる最中や。そのせいも有るんか、偶にお母さんの職場を覗きに来るんや。
やっぱりちょっと羨ましいな。
「アニエルさんや、それで、どれくらいの値段になったんじゃ?」
木で出来た簡単な作りの椅子に腰掛けてるウチと香織他5人の新人ハンターの後ろには、ゴンザレス教士と他5人の親が立ち並び、更にその後ろには噂を聞きつけた暇なハンターたちが取り囲んでる。
ゴンザレス教士と親をわざわざ呼んだのは、ウチら7人が本成人前やからや。
1日だけならまだしも、2日続けて高額な金額を貰った子供が変な道に行かん様にする為には当然の対処やろう。
中学生くらいの子供にいきなり何十万ものお金を自由にさせたら、そりゃあ歪んで当然や。もし日本に残して来た息子の翔がそんな大金を手にしたんやったら教えて欲しいのは親として当然や。
そして、第3列から、おじいちゃんズチームのリーダーが興味満々の声で訊いて来た。
そう、ここはスカー村狩猟士会会館の受け付けカウンター。
まあ、世間的にはハンターギルドと言うた方が分かり易いかも知れんな。
狩猟士会を説明するのに一番近いのは、日本の弁護士会かな?
まあ、あっちは国家資格の弁護士の指導・連絡・監督などの業務を行うんやけど、こっちは地方で資格を授ける狩猟士に対して同じ様な事を行う半公的機関や。
ま、ウチも余り弁護士の先生と親しくした事が無いから違いなんて今一分からんけどな。
で、今、そのスカー村の狩猟士会会館の受け付けカウンターは黒山の人だかりの真っ最中や。
窓口業務の職員もアニエルさんの後ろに並んでる。
そりゃ、こんな事態(連日の災獣出現騒動とその討伐&獣珠買取騒動)やから日常業務が滞ってもおかしくは無いな。
「持ち込まれた災獣の獣珠は直径4.5㌢、4.2㌢、3.5㌢、3.3㌢でした。傷も無い事からそれぞれの買い取り価格は95ゴル6シル、77ゴル8シル、44ゴル2シル、37ゴルちょうどとなり、合わせて254ゴル6シルとなります」
後ろから「おお」という声が上がった。
そりゃあ、1日の狩りでそんな金額が出る事なんて有らへんからな。
一般的な5人編成のベテランハンターチームが害獣を狩って1日で稼げるのは良くて10ゴルくらいやろ。
1人頭2ゴル。日本円にして2万円くらいや。
一般的なホワイトカラーの4人家族で節約して暮らせば1年間で250ゴル有れば生活出来る事を考えれば、新人ハンターの臨時チームが1日で稼ぎ出した金額としては異例な数字や。
後ろに並んでる他5人の親が子供たちの頭を撫でてるのが気配で分かった。
そりゃあ、昨日に続いて、ハンターになったばかりの子供がそんなに稼いでくれたら嬉しいのは分かるけど、毎度毎度こんなに稼げると思っていたら痛い目に遭うで。
「一応、新人ハンターの教育係としての立場で発言しますが、こんな異常な稼ぎは滅多に有りません。むしろ、有る方が異常事態と言って良いでしょう」
おっと、寺田さんが釘を刺してくれた。
その通りや。
新人の内の稼ぎなんて、1日5シル有れば良い方やと思うで。
現にウチと香織の2つ上の孤児院出身の男の子もハンターになったけど、話に聞く限りでは平均したら1日に7シルくらいしか稼げて無いんと違うかな。
「普通なら災獣に遭遇した段階で狩りを諦めて、命懸けで逃げるべきです。偶々が続いただけですので、親御様はその辺りには誤解の無き様にご理解お願い致します」
おお、寺田さんがなかなか立派な口上を言ってくれた。
本当に偶々が重なっただけや。
偶々、災獣が2日続けて出現した。
偶々、ウチらが遭遇した。
偶々、ウチがその場に居った。
どれか1つでも無かったら、こんな事になってない。
むしろ、最後の偶々が無ければ、今頃はお通夜になっててもおかしくないんやで。
「今、テラダ3等狩猟士が言った内容を補足しますが、当狩猟士会の平均的なハンターに於ける1日の稼ぎは1ゴル1シル程となります」
アニエルさんも援護射撃をしてくれた。
うん、この村の狩猟士会はレベルが高いな。
一攫千金を狙わさずに地道に長く現役を続けさせるのが一番や。
ウチはハンターの良い点として、身体が動く限り続ける事が出来る事も有ると思ってるからな。
ま、怪我したりしたら潰しが利きにくいリスクも高い職業でも有るけどな。
「そう言う事ですので、お子様に無用なプレッシャーを掛ける事は慎んで頂きます様にお願い致します」
アニエルさんの言葉に、思わず拍手してしもた。
あ、外したかな?
まあ、香織が納得顔で頷いているからええことにしとこ。
その後、1人当たり36ゴル3シル7カルずつ分配して、ハンター生活2日目は終わった。
帰り道?
当然、ゴンザレス教士監督の下、牛肉を買ったで。
それも、日本でも買った事の無いブロック肉でや。しかもフィレやで。
ああ、フィレステーキはめっちゃ美味しかったで。
口に入れた瞬間には肉汁が溢れだし、脂の甘味が何とも言えん幸せを感じさせ、柔らかくてきめ細かい肉質と舌触りのまろやかさなんて、涙が出そうやったな。
昔、何とか記念日というのが流行った事が有ったけど、今日はフィレ記念日に認定や。異議は認めん。
お読み頂き、誠に有り難うございます。
ギブミーフィレステーキ(^^)/




