謝罪とビンタ
少女は部室に入ったが、皆に攻められるのが怖いのか少し震えていた。
「ほらほら、憧れのアルちゃんよっ!」
アマミルは、少女の気持ちを察したのか、こう言って緊張を解こうとした。するとその少女は少し顔を上げて部室の中にいるアルを見つけた。だが、顔を真っ赤にすると、またすぐに再び下を向いてしまい、また土下座をした。
「た、た、た、大変申し訳ございませんでした……。グスッ、グスッ……、ううう……。ぶぇぇぇぇん……、ギョメンナサイィィィ……、ギョメンナサイィィィ……、ギョメンナサイィィィ……。わ、わたしゅは……何てことを……。す、すぐに自首しゅましゅうぅ……、自首しゅましゅうぅ……。申し訳ごじゃいませしぇん……、申し訳ごじゃいませしぇぇぇぇん……」
ロウア達は涙で言葉も途切れ途切れな謝罪少女を見て何も言えなくなってしまっていた。
「やだやだやだ~~~っ、やめてよぉ~。ほらほらっ!」
しかし、アルはその少女のそばに向かい、背中をさすって上げた。
「ほ、ほら、立てる……?グスッ……」
アルもどうやらもらい泣きをしているようだった。彼女を立たせると椅子に座らせて上げた。
「ほら、お茶だよ、って、無いじゃんっ!イケカミ準備してよっ!」
「なっ?!何だよ、それ……まったく……」
ロウアは人使いが荒いと思ったが仕方なくお茶を入れてあげた。少女はカップに手を付けるが震えていて、うまく飲めなかった。それを見かねてアルは、更に声をかけた。
「今日は来てくれてありがとうねっ!」
「しょ、しょんなぁ……」
「ほら、見て見てシアムだよっ!知っているでしょ?」
アルがそう言うと、少女はシアムを下向きで見つめた。
「は、はい……」
シアムも優しく彼女に声をかけた。
「こんにちは、お名前はツクさんだよね?二階生だったよね」
「は、はい……」
「おぉ~っ!ツクちゃんって言うんだ~っ!」
アルが驚くようにそう言ったので、それを聞いていた部員達は一斉にずっこけてしまった。その名前は、昨日、聞いていたからだった。
「あれ、何でシアムは知っているの?」
「ア、アルちゃん……?昨日、ツクちゃんが教えてくれたでしょ?」
「そうだっけ?」
「はぁ~……、アルちゃんらしい、にゃ……」
すると、ツクは涙声になり顔を手で覆って更に恐縮した。
「ア、アルしゃまぁ、ご迷惑をおかけしましゅたぁぁ……、うぅぅぅ……、ぐちゅ、ぐちゅ……」
「やだやだやだ~~~っ、様って付けるのやめようよっ!年も近いしさ~っ!ねっ!」
「は、はい、ア、アル……しぇ、しぇんぱい」
「おぉ、先輩かぁ、良いねぇっ!さ、顔を上げてぇ」
そう言われて、ツクは初めて頭を上げて周りを見た。
そこにはアル、シアム、ロウア、そして、ご迷惑少女組と有名どころ人間が多くいて、自分は場違いにいると思い始めていた。
「わ、わたしゅは、か、勝手に思い込んで……しまい……、そ、その、ご迷惑を……」
「やだやだやだ~~~っ、もうそれは良いってっ!」
今度はアマミルがこの不安な少女を安心させるように話しかけた。
「う~ん、ツクちゃん、大丈夫よ。変な人ばっかりで驚いているのかもね」
「しょ、しょんなぁ……」
「ほら、イケカミ、お茶が冷めちゃったぞっ!」
「アル……、もう自分で入れてあげろよ……」
アルはまたべぇ~っと舌を出した。すると、ツクはロウアの方を向くと申し訳なさそうに頭を下げた。
「イ、イケカミ様も、も、も、も、申し訳ございません。あ、あの……」
「ううん?僕には謝らなくても良いんだよ?」
ロウアは何故自分にもツクが謝るのか理解出来なかった。
「あの……、その……、う、上着の、ポ、ポケットを……」
「うん?ポケット?というか僕はロウアなんだけど……」
「ヒソヒソ……(もうイケカミってバレてるよっ!)」
「ヒソヒソ……(広がりすぎてるね、自重しないとダメかもしれない、にゃ……)」
「声が大きいヒソヒソ話だなぁ……」
ロウアは呆れつつ、ツクに言われたポケットに手を入れた。
「あれ?こんな物がいつの間に……」
すると、黒い水晶玉が見つかった。
「も、も、申し訳ございません。わ、私がイケカミ様のポケットに入れました……」
「えっ、そうな……の……ん?あ、あれ……」
その黒い水晶玉を見ていたロウアは、段々頭がクラクラし始めて意識を失いそうになった。
「ロウア君っ!大丈夫?」
アマミルは、頭を押さえてフラフラし始めたロウアの背中を支えた。
「そ、それを捨ててくださいっ!!」
ツクがそう叫ぶと、アマミルはその水晶玉をロウアから奪った。そして、窓の外にそれを投げ捨てた。
「……あれ?」
すると、ロウアの意識の混濁は無くなった。それと当時に力が戻るのが分かった。
(何だ、あの玉っころがお前から力を奪ってたのか)
魂のロウアの声がやっと聞こえた。
(ロウア君っ!)
(おう、戻ったみたいだな)
(良かった……)
アマミルがロウアを心配して話しかけた。
「ロウア君、大丈夫?今、酷い顔色だったわよ?」
「アマミル先輩、ありがとうございました。あの水晶玉が、僕の力を奪っていたようです……」
「えっ?!ロウア君の力を……?」
「は、はい……」
ロウアは今まで力を失ったことをみんなに話した。
「ロウア君……」
「……はい?」
……ビシッ!!!
すると、アマミルが強烈なビンタをロウアに食らわせた。
「い、いたぁっ!ま、また、ビンタを……、な、何をするんですか、アマミル先輩っ!」
いきなりロウアの頬をアマミルがビンタしたので、一同は驚いてしまった。当のアマミルは涙ぐみながらロウアを睨んでいた。
「"また"って何よっ!初めてでしょっ!!そんなことより、なんで言わなかったのっ!!!」
「いや、だって心配させてしまうから……」
「バカねっ!私たちを信頼していないの?!」
「そ、そんなことは……」
アマミルは、ロウアが自分達に何も話してくれなかったことに対して腹を立てていたのだった。
「そうだよ。イケカミィ、私らに話してくれれば良いのにさぁ~」
「イケカミ兄さん、一人で考えすぎてはダメですよ」
「あうんっ!」
アル、シアムとホスヰも少し怒っているようだった。
「……う、うん。ご、ごめんなさい」
イツキナはこの光景を見て、違和感を感じていた。ロウアがみんなに心配をかけるのを嫌がった行為は、問題無いことだと思ったからだった。
(そうか……、私もロウア君と一緒……?友達を信じていないところもあるのかも……)
ツクは、自分が原因でとんでもない事になってしまったので、さらに恐縮していた。
「ご、ごめんなさい……。私です。私が悪いのです……」
「ツクちゃんがあの水晶玉を?」
「はい……」
ツクはあの黒い水晶玉をもらったいきさつを部員達に説明した。
「はぁ、ツナクで受け取ったら現実でももらえた?なんだそりゃ」
アルが混乱するのも無理は無かった。一体どういったわけか、朝起きたらベッドの上にVR上のアイテムが置いてあったからだった。
「そ、それをこの前の時に僕のポケットに入れたと……。あぁ、君が転んだ時か……」
「は、はい……、申し訳ございませんっ!!!」
ロウアはツクが、部室に着くなり自分に謝った理由が分かった。ツクはひたすら頭を下げ続けた。
「もう良いよ、大丈夫、大丈夫っ!元に戻ったからね」
「あ、ありがとうございます。申し訳ございませんでした……」
「ツクちゃん、そんなに謝らなくても良いのさ。所詮、イケカミだからさっ!」
「お、おい、所詮ってどういう意味だよっ!」
ロウアが突っ込みを入れた時、今まで大人しくしていたホスヰが突然泣き出してしまった。
「うゎ~んっ!!みんな大好きでっすぅぅぅ~~っ!」
「あらら、ホスヰちゃん、どうしたの?」
「いい人達ばっかりでっすっ!私は大好きですっ!うぇ~ん……」
アマミルは喜びとも涙とも付かないホスヰを抱きしめて上げた。
(確かにイイヒトばっかり集まったなぁ)
(そうかもなっ!)
久々に聞こえた魂のロウアの声も同意していた。
(ロウア君も良い奴だよ)
(何だよ、急に……、俺は科学バカだから、クールすぎるんだ。この二人にも言われてたぜ?)
(冷静すぎるところもあるけど、みんな君の周りに集まった人達だよ)
(まあ、そうだけどさ。何か気持ち悪いな……。お前どうしたんだよ?)
(何だよ、褒めてやったのに……)
こうして、ロウアは再び力を取り戻し、アルの部屋を覗くのぞき魔の事件は解決された。
(だけど、あの水晶玉を渡したのは誰なんだろう……)
2022/10/22 文体の訂正、文章の校正




