追っかけ少女 ツク
ツクは学校では地味で目立たない14歳の女生徒だった。何となく親の言われるがままに勉強をしていただけだったが、ムー大陸でもトップクラスのナーカル校に入学でき、そのお陰で親の賞賛はもらった。
そんな彼女にも入学した頃は、雑談をするような友達がいた。友達と遊びに行くようにもなったが、ツクはそんな遊びをどうしても楽しいと感じることが出来なかった。
(全然、面白くない……。みんなバカばっかり……。バカみたいに浮かれて、バカみたいに声を出してっ!こんなバカ達と話すのも嫌っ!一人の方が気が楽しいもんっ!)
しばらくすると、ツクは友達からの誘いを断るようになり、そのため誰からも誘われなくなってしまい、一人ぼっちになってしまった。ツクの高慢な孤独感は少しずつ心を蝕み、周りの人間を見下すようになっていき、彼女の目はいつの間にか両端がつり上がったきつい目になっていた。
そんな孤独な彼女の趣味はロネントを作る事だった。首都ムーから外れたところにあるロネントのパーツを売っているところ、この時代の秋葉原のようなところに入り浸っては、それらを買い集め、自分独自のロネントを組み立てては満足する日々を送った。
(良いんだ……、私にはロネントがあるっ!お前を作ってるときが私の一番の喜びっ!今日は飛行装置を安く手に入れた。お前が空を飛べるようにしてやるからなっ!ふへへっ!)
そんなツクが、カフテネ・ミルのライブを見たのは半年前だった。夕飯の食事を食べているときに、ふと見たテレビに彼女達が歌っていた。
(アイドル活動とかアホか。人生の無駄としか言いようがないわ)
ツクは、カフテネ・ミルをバカにしたが、ライブでは二人が華麗に歌いながら衣装が七変化していた。お姫様のような姿になったり、街中を歩くような普通の女の子の姿になったり、絢爛豪華なドレス姿になったりしながら、ステージを駆け回ったり、空を飛び回ったりした。彼女達の可愛らしさ、歌声の美しさは、徐々にツクの心をくすぐり、ツクはいつの間にか二人の姿に魅入ってしまっていた。
「ツクったら真剣な顔で見ちゃって、カフテネ・ミルに興味があるの?」
「お、お母さん、こ、この黒い髪の子は何て言う名前なの?」
特に、カフテネ・ミルの一人、アルと呼ばれる女の子は、活発にステージを駆け回り、綺麗な黒髪が舞う度にキラキラと光っていて、彼女はすっかり魅了されてしまっていた。
「"アル"ちゃんだったかな、もう一人の猫族の子は"シアム"ちゃんよ」
「こ、この子はアルって言うの……」
「シアムちゃんは、どうでも良いのね……」
それは普通の女の子なら感じるごく当たり前の感情だった。女性が女性に憧れる、そんな感情だったのかもしれなかった。
(自分と同じぐらいの歳なのに……、輝いて……いる……、彼女は輝いているっ!!!私もあんな女の子になりたいっ!)
ツクは自然とアルという少女を追いかけるようになった。カフテネ・ミルのファンクラブには、すぐに入会し、ライブでは最前線で応援した。ライブが終われば、裏手に回り、出て行く姿を見て興奮した。
「アル様っ!!!こっち見て~っ!!!!」
すると、アルという少女は、ツクを見てニコッと微笑んだ。
「いつもありがとうねっ!」
アルはそこにいる多くのファンに答えただけだったのだが、ツクには自分だけにそう言ってくれたように感じて有頂天になった。
(キャ~~ッ!きょ、今日はアルしゃまが私に微笑んでくだしゃったっ!!!はぁぁぁぁぁ、幸せぇぇぇ)
ある日、リビングでカフテネ・ミルのライブを見ていたときだった。
「ツクは本当にアルちゃんが好きなのね」
「う、うん……」
「そう言えば、彼女はナーカル校の生徒よ、学校で見かけない?」
ツクは、アルが自分と同じ学校に通っている事を知って驚愕した。
「うそっ!アル様はナーカル校の生徒だったのっ?!お母さん、何で教えてくれなかったのよっ!!」
「いやね、私だってついこの間知ったんだから」
「一生懸命勉強してナーカル校に入った甲斐があったわっ!!だけど、なんで今まで気づかなかったかなぁ……、私のバカバカッ!!!で、でも、どこにいるのかしら……」
「あなたアルちゃんのこと"様"って呼んでるの?本当に好きなのね」
ツクは翌日からナーカル校でアルを探すようにしたが、学校にいるアイドルを探すのはそんなに時間は掛からなかった。
(い、い、いたわっ!!)
ツクは、当たり前のような通っているカフテネ・ミルを見つけて発狂しそうになった。
(キャ~~、アルしゃま~~~っ!シアムしゃまもいるっ!!す、凄すぎる、は、鼻血が……)
この時からツクはアルの後ろを付けたり、影に隠れながら見つめていたりと、完全にストーカー状態になった。ある日、いつものようにアルを遠くから見守るように眺めていると、練習中の運動部員達が大声でアルとシアムに声をかける場面に出くわした。
「アルちゃん、シアムちゃん、頑張れよ~~っ!」
「今度のライブ見るよ~っ!」
「この前のライブ中継、よかったぜ~っ!」
それに対して、二人は愛想良く応えていた。
「うん、ありがと~っ!」
「ありがとうっ!また頑張るね~っ!」
(さ、さすがアル様っ!す、素敵、過ぎるぅぅ、わ、私も声をかけてほしいぃぃ)
しかし、その時、二人と一緒に歩く右手の白い男子生徒に気づいて、一瞬で怒りが身体の中でたぎった。
「なっ、なになに……?なんじゃ、あいつはっ!!」
その男子生徒は、アル達と登校してくるのが多い事に気づいた。しかも、アルと親しげに話していたため、それを見る度に激しい嫉妬に苛まれた。
「あ、あいつめぇぇっ!アル様と親しげに話しやがってぇぇぇっ!あり得ないっ!ギリギリ……、ムカムカ……」
ある放課後、授業が終わった三人をいつものように遠くから眺めているときだった。
「今日は急いでいるんだね」
「私たちは稽古があるのだ。ライブが近いのだよ」
ツクは来月予定されているライブの練習の事だと分かって浮き足だった。
(そうかぁ、トランクト月のライブかなぁ……。楽しみだなぁ)
「またね~、イケカミお兄ちゃんっ!」
「イケカミ、またね」
「うん。頑張ってね……って、お兄ちゃん……?」
(はぁ?イケカミ?ムカつくなっ!いきなりアル様の教室に移動してくるし、何なんだっ!!あり得ない、あり得ないっ!!ギリギリ……、ムカムカ……)
ツクは不本意ながら、アルに付きまとっている男子生徒について調べることにした。
(はぁっ?!あぁ、あいつは、シアム様のロネント誘拐事件で有名になった奴かっ!!!ふんっ!シアム様を救ったのならシアム様とだけ話せば良いんだっ!アル様とは話さないでほしいわっ!)
さらに調べるとその男子生徒が二人の幼馴染みだと分かった。
(ギリギリ……。あんな奴が幼馴染みだと……?だから、ロウアって名前なのにイケカミっていうあだ名で呼んでいるのか……)
ツクは、幼馴染みらしい親しみのある呼び方なのだと思うと無性に腹が立った。
(くそう、くそう、何だよ、そのあだ名っ!!!ムカつくっ!!)
ツクはアルが学校にいない時は、ロウアにも付きまとい始めてこいつをどうにか出来ないかと思い始めていた。そして、しばらく観察していると、この憎むべき相手は、独り言をよく話していることに気づいた。誰もいないはずなのに、誰かと話をしている風だった。また、ある日は、ロネントとけんか腰で話していることもあった。
「イケカミィィ~~……、こんな気持ち悪いヘンタイ野郎がアル様のそばにいてはいけないっ!!私が守らねばっ!!!」
そんな捻くれた正義感がツクの感情を沸き上がらせていた。
2023/08/11 文体の訂正、文章の校正




