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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
追っかけ少女 ツク
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マフメノの夢の跡

 ロウアが予想したとおり、女性陣は学校の先生がどうのとか、あの女性が誰々と付き合っているとか、お菓子とお茶を飲み食いしながら話すだけの単なる女子会になっていた。


「女子って、こんなことを話すんだね」


「う、うん……」


 男性陣は完全に忘れられていて、ロウアとマフメノはラジオを聞いているだけのような寂しい状態になっていた。


「こっちも恋バナとかする?」


「え、えぇ、恋バナ……?」


 ロウアは自分が恋なんてしたことあったのだろうかと思ってしまった。そんなことを考えたこともなかったし、そんな時間もなかったような気がしていた。しかし、ムーに来るまでに女生徒の知り合いは多かったなと思った。


(ほとんど霊体だったけど……。香織さんは生きていたか……。多分、アマミル先輩が香織さんの前世……)


「……ロウア?どうしたの?急に物思いにふけちゃってっ!」


「……ん?!あ、な、何でもないよ……」


-----


 すると、アルの母親が一階から声をかけてきたのがロウア達にも分かった。


「アルッ!ご飯よ~っ!お友達もどうぞ~っ!」


「は~いっ!みなさん一緒に行きましょうっ!」


「アルちゃん、ありがとう……、でも、何か悪いわね」

「……だね、いただいちゃって良いのかねぇ、私らなんも持ってきてないぞ」


「やだやだ、アマミル先輩もイツキナ先輩も気にしないでくださいよ~っ!」


「今度、何か持ってくるわね」

「だねえ」


「さぁ、さぁ、気にしないで行きましょ~っ!」


 アルはそう言うと気を遣っている先輩の二人の背中を押して入口に押しやった。


「アルちゃんのお母さんが作った夕食って久々で嬉しい、にゃっ!」

「あうんっ!私も楽しみでっす」


 女性陣がワイワイと一階のダイニングに降りて行くのを見届けると、アルはマフメノの嫁に近づいてきて鋭い眼差しで睨め付けた。


「イケカミ~~~ッ!いい?ぜ~~~たいに部屋の中を見るなよ~っ!調べるなよ~っ!ぜ~~ったい、ぜ~~ったいだぞっ!!」


 アルは完全にロウア達を信じていないらしく、わざわざ残ってまで忠告したのだった。


"わ、分かったよ……。だけど何で僕だけに言うのさ……。"


 ロウアはロネントを通して腹を立てた。


「君がヘンタイだからに決まってるだろぉ~っ!」


"ヘンタイって……なんでそうなるのさ……。全部、間違いだったじゃないか……"


「やだやだやだっ!ほら、覚えてないっ!!ほら、駄目カミッ!シアムの耳を触ったり、ホスヰちゃんの家に一人で行ったりとか怪しげな事していたでしょっ!!」


"た、確かに無作法だったところもあるけど……"


「火のない所に煙は立たないって言うでしょっ!」


"何だか使い方が違うような気がするけど、何となく伝わるところが嫌だなぁ……。というか僕の時代と同じ格言で説教するなよ"


「そんなの知らな~いっ!と・に・か・くっ!厳重注意なんだからっ!そこから嫁ちゃんを動かしたら駄目なんだからねっ!!」


"はいはい……、分かったから食事にいってらっしゃい……。"


 ロウアは、もうどうでもいいやという気持ちになっていた。


「もうっ!本当に動かないでよねっ!!!」


"分かったって……"


 アルは、これでもかと念押しするとそのまま一階に降りていった。


-----


「はぁ~、何なんだよ、アルはっ!僕を疑いすぎだよ……、ねぇ、マフメノ?」


 ロウアはやれやれといった顔でマフメノにそう話しかけた。


「キタキタキタ~~~~~っ!!!僕はぁこの機会を待っていたんだぁ~~~っ!!!」


 マフメノは怪しく目を輝かして沸き上がる血液を押さえ切れないようだった。同情を求めたロウアだったが、マフメノが良からぬ事を考えているとすぐに分かって、これはヤバいと思った。


「む、むむむ……。さっきは涙を流して反省していたいなかった?」


「それとこれは別なのだっ!」


「えぇ……、何故に別になってしまうのか……」


 ロウアががっかりしていると、マフメノはヘッドホンとサングラスが一体になったようなヘッドセットを取り出した。


「じゃじゃ~んっ!」


「な、何それっ?!」


「これを使えばぁ、僕は嫁と一体化するのだぁ~っ!」


「ううん?何に使う道具かと思ったら、一体化?……あぁ、そうか。嫁さんと視界を共有出来る道具か」


 ロウアは21世紀のVR装置を思い出して、何に使うのか想像が出来た。


「そそっ!共有出来るのは、それだけじゃないけどねっ!」


 マフメノは、興奮気味で早速そのヘッドセットをかぶると、周りを見回すように頭を回した。それと連動するように嫁もアルの部屋で部屋中を見回していた。


「んんん?何をしているの?」


 このヘッドセットは、どうやらロネントの視覚、聴覚だけではなく、身体の動きも連動させる事が出来るようだった。マフメノがロウアの家を歩き回ると、それと連動してアルの家の嫁も歩き回った。それがロウアにも分かって狼狽した。


「さっき、動くなって言われたんだけど……」


 しかし、マフメノはそんなことは全く聞いていなかった。


「ぐ、ぐぇっふ、ハァ……、ハァ……、すごい、これが女子の部屋だぁっ!し、しかもあのカフテネ・ミルのアルちゃんの部屋だぁ~~~~っ!!うおぉぉぉ~~~っ!!良い匂いだよぉ~~~~っ!!!ス~ハァ~、ス~ハァ~」


 ロウアは、マフメノがあまりにも楽しそうなのであきれ返ってしまい、怒る気が無くなってしまった。


「匂いも分かるのか。もしかして、味覚や、触覚も分かるの?」


「あぁ、すごいっ!これがアルちゃんのベットかぁっ!えっ?何か言った?」


「聞いてないのね……」


 ロウアは、この時代のテクノロジーに感心したが、マフメノは全く聞いていなかった。


「こ、このタンスを開くともしかしてぇぇぇ……?」


 ロウアの部屋とは違い、洋服などをしまうタンスが部屋に配置されていて、それを見つけるとマフメノはさらに興奮して開こうとする仕草をした。これには、さすがにロウアも止めるしかないと思った。


「それは駄目だって……」


「ふぅ~、さすがにそれは僕でも出来ないよぉ……」


 ロウアは、こんな畜生でも理性はあるのだと思って安心した瞬間だった。


「……と、見せかけてっ!!!」


 だが、畜生は、所詮、畜生だった。ロウアはマフメノが思い切りタンスを開くのが分かって、これは不味いぞと焦った。


「なっ!や、やってしまった……」


「ぐぇっふ~~~っ!うお~~~っ!!これがアルちゃんのタンスの中ぁ~~って……、あぁ、あぁぁぁ~~……?!」


 すると、ロネントと共にヘッドセットを付けているマフメノが倒れたのでロウアは何かに襲われたが分かった。もしかしたら、アルの言っていた視線の犯人ではないかと思って警戒した。


「お、おいっ!マフメノ、何があったっ?!……マ、マフメノ……?」


 ロウアは必死に声をかけたが、マフメノが全然、動かないので心配になり、ヘッドセットを取ってあげた。しかし、ロウアの心配をよそにマフメノは涙を流しているだけだった。


「ロウア……、これが現実か……。これが現実なのかぁぁっ!!!」


「な、何故に泣いている……」


 何があったのかと、ロウアはマフメノのVR装置を自分がかぶり、アルの部屋を見ることにした。


「あ、あれ……?」


 すると自分の周りが、洋服やら、寝間着やら、文房具に、ぬいぐるみに、果てはゴミ袋だらけになっていた。つまり、タンスにはこんな見てはならないものが詰まっていて、マフメノがそれを開けたから、これでもかと洪水のように襲ってきたのだった。


「……ぷっ、あははっ!」


 ロウアは21世紀でアルの来世の姿だった"とっきょ"の部屋を見たのを思い出して思わず笑ってしまった。全く同じ状態だったからだった。とっきょの部屋は散らかっているだけだったが、アルは友達が来るというので部屋中にまき散らされていた物をタンスに押し込んだようだった。


「ロウアァ……、僕は女子に何を期待していたんだろう……。これがあのアルちゃんの部屋なんて……。う、うぅぅ……」


 マフメノは自分が描いていたアル像が崩れてしまったことに対して泣いていたのだった。


「まぁまぁ……。女性だからって部屋が綺麗ってわけじゃ無いって。……う、ううんっ!?あ、ああぁ、qうぇrちゅいおぱsdfghjklzxcvbんm……」


「どうしたのぉ、ロウア?最後、何を言っているか分からなかったんだけどぉ……」


----


 アルの部屋にいるロネントと一体となったロウアは、ふと扉の方を見るとアルが腕を組んでこっちを睨みながら立っているのに気づいて、この言い訳の聞かない状況に慌てふためいた。


"ち、違うっ!違うっ!!!えっと……、部屋が汚れているから、みんなが来る前に急いで掃除したんだよねっ!ゴ、ゴミはちゃんと捨てた方が良いよっ、じゃなくて、見てないからっ!し、下着も洗濯した方が良いよっ、じゃなくて、見てないからっ!あぁ、タンスにしまうのを忘れていただけかなぁ~~?ねっ?ねっ?ねっ?"


 マフメノの嫁は、ロウアのヘルメットを通して、ロウアのうろたえた動きをそのまま伝えていた。


「やだやだやだ~~~っ!!!!何がねっ、ねっ、ねっ、よっ!!!そんな説明は不要っ!!下着も見るなぁ~~~~~っ!!!バカッ!!アホッ!!ダメガミッ!!やっぱ、エッチでヘンタイじゃんっ!!!!右腕と一緒にまたどっか飛んでちゃえぇぇ~~~っ!!」


"や、や、止め……"


 ……バキボキッ!!


"グギッ……"


-----


 急にロウアの首はこれでもかってぐらいあり得ない方向にねじ曲がったので、マフメノは何が起こったのか理解出来なかった。


「ロウア、ど、どうしたの?い、今、首があり得ない方向に曲がったんだけど……。そ、それに画面が映らなくなったよ?」


「あぁ、あぁ……、イタタタ……、もうね……。こればっかりだ……」


「???」


「き、君の嫁は破壊された……。く、首が痛い……」


「はあ?!何だって?」


「アルに見つかった……」


「ぐわぁぁぁぁ……。何てことだぁ、風呂上がりの女性を見る機会を失ったぁ~~~っ!!!」


「そ、そこか~い……」


 マフメノの嫁は、アルによって見事に首を180度回転させられて見るも無惨な状態となり、リンクした状態のロウアの首も一緒にねじ曲がったのだった。ついでに通信も何故か出来なくなってしまったため、男性陣はどうにも出来なくなってしまい薄暗い闇が部屋を覆った。


 二人に暗雲が立ちこめて沈黙がしばらく続いた後、しばらくしてマフメノが寂しそうにこうつぶやいた。


「帰るね……」


「う、うん……」


 そう言いながら、残念ながら帰って来ないだろうとロウアは思った。


「僕の嫁は帰って来るかなぁ……」


 マフメノは、ロウアの玄関でこんなことをつぶやいた。


「……ど、どうだろう」


 ロウアの返事を聞くまでもなく、マフメノは彼の家を後にしてトボトボと帰宅していった。彼を見送って、自室に戻ったロウアは不味いことになったなと思った。


「アルを怒らしてしまったのは置いとくとして……。いや、置いといちゃ駄目な気もするけど……。しかし、これは不味いことになったなぁ……」


 ロウアは、彼女達がピンチになったことを知る術がなくなってしまった。


-----


 誰も居なくなったアルの部屋では、それらの出来事を観察する者がいた事をロウアは気づかなかった。


「おのれぇ、イケカミ……。アル様の部屋を覗くとはぁぁ……!ゆ、許せない……、ギリギリ……」


 それは自分の指の爪を噛んで歯ぎしりをした。


2023/08/04 文体の訂正、文章の校正

修正すると文字数が爆上がりです。

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