視線調査会(ジョシカイ)
マフメノのロネント談義が終わったが、ロウアがまだ思い詰めているとアマミルは感じた。彼女は、部長としてかどうかは分からないが、彼の気が紛れるようなネタがないか、投稿された相談内容を探し始めた。
「新しい部になって、色々依頼が集まってきたのよね。これもロウア君とアルちゃん、シアムちゃんのお陰かな~。んでね、ロウア君向けの不思議な事件も結構集まってきたんだよね」
「ぼ、僕向け……ですか?」
「そうなの」
ロウアは恐らく自分のコトダマを使うような依頼だろうと想像した。
(あぁ、そういえば……力がなくなったんだった)
しかし、今は自分の力が無くなっているのを思い出して、力を使うような依頼だったらどうしようかと考え、冷や汗が垂れてきた。
「アマミル、次の調査、これなんて、どうかしら?」
イツキナも自分のツナクトノで依頼ファイルを調べていて、何かの依頼ファイルを指でつまむと、ぽいっと部室にある空中モニターに投げ込んだ。
「ふむふむ」
そのファイルをアマミルは、ピッチアウトすると空中モニターにその内容が開封された。
<この頃、注目されるようになっているから視線を感じるようになってきました。
家でも監視されているような視線を感じます。
主に夜になると誰かが私を見ているようです。
それと朝ゴミ捨てをするとゴミを散らかった状態になっていることもあります。
少し曖昧な依頼となりますが、御部活で解決出来ますでしょうか?
=== 二階生アル ===>
「って、アルちゃんっ?!い、意外と丁寧な文章を書くのね……」
イツキナは思わず空中モニターにツッコミを入れていた。
「あっ、この前投稿したやつだっ!自分がこの部に入ると思わなかったんだよね~っ!」
アルはすっかり忘れていたのかあっけらかんとしていた。しかし、シアムはその内容を見て顔を青ざめさせていた。
「ア、アルちゃん……、こ、これって本当なの?もしかしたら大問題じゃない……?だ、大丈夫なのかにゃ……?」
「あははっ、有名になったから仕方ないかな~って。それに気のせいかもしれないじゃんっ!」
「う、う~ん……。アルちゃんは呑気だなぁ……」
アルの脳天気な性格とは逆に部員達はみんな不安を感じていた。
(気楽な性格でうらやましいなぁ……。しかし、これってストーカー被害って奴では……?この時代では何て言うんだろう……)
ロウアもこの楽観的な性格はうらやましいと思った。しかし、事は意外にも重要ではないかとも思って、アルに質問した。
「アル、この視線ってどんな感じなの?」
「なんつ~か、じ~~って見られている感じ……?夜になると感じるんだよねぇ。被害妄想かもしれないなぁっ!あははっ!……あ、あれ、みんな深刻そうにしないでよぉ……」
アルもさすがに部員達の不安そうな顔を見て不味いかなと思い始めていた。
「また、夜の事件なのね……」
アマミルは、夜というキーワードでこの前のメメルトの事件を思い出した。ロウアは続けて質問した。
「朝とは昼間は視線を感じないの?」
「うんっ!だけど、家にいないからってだけかもっ!」
「た、確かにそうかもしれないけど……。学校では感じないんだね?」
「学校だと逆に多すぎて分かんない」
「そ、それはそうか……」
確かに昼間はアルとシアムを見つめる視線は多い。夜、感じるという視線が混ざっていても気づかないだろう。
「夜の家の中だけ感じる視線か……」
ロウアはつぶやくようにそう言った。
ロウアだけではなく、他のみんなも曖昧な内容に調べようも無く困っていた。本人だけが視線を感じるだけなので、自意識過剰と指摘してしまえば終わってしまう話だった。
そんな時、イツキナが何かを思いついた。
「そうだっ!」
「どうしたのイツキナ?」
「みんなでアルちゃんのお家に泊まって視線について調べてみようよ。もちろん、アルちゃんが良ければだけどねっ!」
「おぉっ!良いじゃないっ!!お泊まり会ねっ!」
すぐにアマミルが賛成した。
「えっ?違うって視線調査よ」
「はいはいっ!イツキナせんぱ~いっ!!大丈夫ですっ!!お泊まり会、大大大賛成で~すっ!!」
アルもイツキナの提案に諸手を挙げて喜んでいた。
「久々にお泊まり会したいっ!」
大人しくしていたシアムもはしゃぎ始め、何やら本題とは違う方向に進んでいた。
「あう~~……」
ホスヰは寂しそうにモジモジとしていた。
「ホスヰちゃんもおいでっ!お父さんとお母さんにちゃんと連絡してね」
「あうんっ!やったぁ~っ!!」
無論、アマミルの誘いに喜んでジャンプするとその場でクルクルと回った。
「ハァ……ハァ……、も、もしかして、ぼ、僕らも?!」
真っ赤な目をしたマフメノは興奮気味でロウアにそう聞いた。
「男っ!」
「子はっ!」
「駄っ!」
「目~っ!!」
「めっ!」
しかし、女性五人は打ち合わせをしていたかのように連続して言葉をつなげて、小さな男の野望を切り捨てた。
「ガクッ……。でもホスヰちゃんの"めっ!"は、良かった……」
マフメノが落ち込みつつ、そのヘンタイっぷりを見せつけたので、ロウアも呆れた。しかし、自分も部員として黙ってはいられないと思った。
「だ、男子がいないと、部活動の方針に合わないのでは……。れ、霊界と、ロネントっていう名前が……あっ!」
そう言いつつも、ロウアは力を失っている自分を思い出して、しまったと思った。
「なあに?ロウア君、それはごもっともだけど、今回は駄目よ。今回は初期調査ってことね。それに最後の"あっ"て何よ」
「い、いえ……。な、何でもありません……」
部長のアマミルにそう言われたため、ロウアはそれ以上は何も言えなくなってしまった。
「マフメノ、駄目だった……」
「う、うん……。君の優しさが分かったよ……。ありがとう、ロウア……、グスッ」
何かに敗れた男達は互いの肩を抱きしめて涙に暮れた。そんな負け犬など関係なく、アルは話を続けた。
「んじゃっ、今夜、お泊まり会やって良いかどうか、お父さんとお母さんに聞いてみますねっ!」
「えっ?!きょ、今日やるのっ?!」
まさか、いきなり今夜やるとは思ってなかったロウアは、アルの気の早さに驚いてしまった。
「なあに?当たり前でしょ?男のくせに行動が遅いわね」
アマミルは当然のことだと言った風だった。
「はぁ……」
「アマミル先輩っ!お父さんとお母さんから許可をもらいました~~っ!」
アルは、いつの間にかツナクトノで彼女の両親に聞いていて、ロウアはまたも驚かされた。
「もう聞いたのっ!何という早さ……」
「バカねっ!こんなのに驚いていたら駄目よ」
「えっ、何だろ、この屈辱感……」
ロウアはすっかりうすのろ扱いだった。
ロウアはアルの行動の早さにも驚いたが、この時代のメッセージ転送能力にも驚いていた。
21世紀とは異なり、思った事をすぐに相手のツナクトノに伝える事ができ、受け取った相手はツナクトノにメッセージとして表示された。ほとんどの人がツナクトノを手の甲に埋め込んでいるから、メッセージが目の前に表示された。よっぽどのことが無い限り、そのメッセージにはすぐに気づいた。ちなみにそのメッセージは本人にしか見えないので秘匿性もあった。
「と言うわけで、今日の夜、アルちゃんの家に集合よっ!寝間着とか忘れないでね」
「お~っ!」
「はいっ!」
「あうんっ!わ~~いっ!」
アルとシアムとホスヰは、アマミルの号令に手を挙げて答えた。
「う~ん、視線調査なんだけどなぁ。目的が変わっちゃったなぁ。まあ良いんだけどね」
イツキナは開くまで調査のためだと思っているらしかった。
「そうですね。これってただの"女子会"ですね……」
イツキナのぼやきにロウアは思わず21世紀の日本語で反応してしまった。
「なあに?ショシカイってなに?」
ロウアは、アマミルに突っ込まれて説明せざるを得なくなった。
「……という意味です」
「へー、女子だけの食事会とかお茶会の事をそう言うの?初めて聞いたわ」
「は、はい……」
「ヒソヒソ……(またロウア語だよっ、シアムッ!)」
「ヒソヒソ……(ショシカイ……、格好いいねっ!)」
「私たちも寮に連絡しないとね、アマミル」
「そうね、申請書を出さないと」
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各自、自分達の両親に連絡したり準備が必要なため、一旦解散してからアルの家に集まることになった。
(困ったな、力を失った時にこんな調査なんて……。何かあったら助けられない……。あ、そうだっ!)
「アマミル先輩、ちょっとお願いが……」
「なぁに?」
ロウアは、女子会にはマフメノの嫁を同行させて欲しいと提案した。そして、自分とマフメノはロネントを通して様子を見ていると伝えた。
「おぉっ!ロウアッ!良い考えだよぉ~~~っ!」
一旦落ち込んだマフメノは大喜びだった。
「えっ?あのロネントを連れて行ってほしいの?」
マフメノのロネントを見つめたアマミルは、思い切り疑いの目でその提案を聞いていた。
「そ、そうです。ロネント部の体裁を整えた方がいいかなって……」
ロウアは、力が使えない以上、何かあったらと思って監視役としてマフメノの嫁を使うことを思いついたのだった。
「しょうが無いなぁ。まぁ、いいわ……だ・け・ど……」
アマミルはそう言うと、マフメノの嫁に搭載されている録画装置を目の前で外してしまった。しかし、その外し方がダイナミックだったため、思いっ切り壊れた音がした。
「あぁっ!qあzwsぇcrfvgbyhぬjみk、おl。p;・@:\「」」
マフメノは涙目になって何を言ってるのか分からない叫び声を上げた。
「これは外させてもらうわね。なあに?変な音がしたわね」
「はぁぁぁ、は、外してから、言わないで……下さいぃぃ……。うううぅぅ……」
マフメノは涙を流しながら嫁が壊されたという屈辱に耐えるしか無かった。そんな彼のことは気にもせず、アマミルは話を続けた。
「それよりもお菓子とか飲み物も持ち寄ってね」
「良いですねっ!」
「分かりました~っ!」
「あうんっ!」
アル、シアム、ホスヰは大喜びだった。
「あっ、でも、お母さんが夕食を準備すると話していたので、あまり多くならないようにしないと駄目かもですっ!」
どうやら、アルの両親が夕食まで準備してくれるらしかった。
「あら、ありがとうっ!そうね、夕食前はほどほどにして食事が終わったらまた食べましょうか」
「はい、そうですねっ!」
「楽しみ~っ!」
「あうんっ!あうんっ!」
「はぁ~、すっかりショシカイね」
真面目なイツキナだったが、これは遊びの会合になるなと諦めた。
「あ、そうだ。私はご飯を食べて行くから少し遅れて合流するね」
「イツキナ先輩、分かりました~っ!お母さんに伝えておきます」
完全に置いてけぼりにされた男性陣二人だったが、一人は怪しげな笑みを浮かべていた。
「ぐぇっふ、ぐぇっふ……、楽しみだよぉ~」
(マフメノ……、その笑い方、気持ち悪いんだけど……)
そんなこんなで、ジョシカイならぬ、お泊まり会ならぬ、視線調査会が催されることになった。
2022/06/10 文体の訂正、文章の校正




