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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
追っかけ少女 ツク
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疑惑のラブレター

 ロウアは、放課後、いつものように部室に向かう途中、女生徒に後ろから呼び止められた。ロウアが後ろを振り向くと、目の前に少女が息を切らして立っていて自分を追いかけてきたのが分かった。


「ロ、ロウア先輩っ!はぁ、はぁ、す、すいません。

え、え~っとっ!せ、せんぱいっ!これもらってくださいっ!」


 やがて、頭を上げた女生徒は、息を整えるとロウアに小さな手で手紙を差し出した。小さな背の彼女はお下げ頭で眼鏡をしていた。その眼鏡の後ろに見える目は、少しつり上がっていてロウアを睨んでいるように見えた。だが、ロウアに向けた笑顔は可愛らしく、彼はそう悪い印象は持たなかった。


(手紙……。この時代で手紙なんて珍しい)


 ロウアに憧れる女生徒達は、ほとんどの場合、ツナクトノで思いを込めたメッセージを送ってきていたので、差し出された手紙に彼は少し驚き、そして、困っていた。メッセージなら無視すれば良いだけだが、手紙として手渡ししてこられると、少し断りづらいなとロウアは思った。


「え、えっと、こ、こういうのは、もらわないようにしているんだ。ごめんね」


「えっ!……うっ、うぅぅ……、グスッ、グスッ……」


 ロウアの否定的な言葉で、少女の笑顔はあっという間に消えて泣き始めてしまったので、彼はどうして良いのか分からず戸惑うしか無かった。


「えっ!え、え~っと……、そ、そのなんていうか……」


(どうするんだよ、泣いちまったぞ)


 魂のロウアが茶化し始めたのもあったが、ロウアは、周りの生徒達の目もあって彼女をそのままにするわけにもいかなくなった。


「わ、分かった……。て、手紙は受け取るよ」


 すると、少女は打って変わって笑顔に変わり、胸の前で腕を組んで喜び、大きく頭を下げた。


「あ、ありがとうございますっ!!」


 その姿を見て周りの生徒達がコソコソと話しているのが分かって、ロウアは恥ずかしくなり、すぐにでも立ち去りたい気持ちになった。


「ぜ、是非、読んでくださいっ!

……ぎゃんっ!」


 女生徒は立ち去ろうとしたのだが、下を向いたまま突っ走ろうとしたので、目の前のロウアにぶつかって倒れてしまった。


「い、痛い……」


 転び方が悪かったのか、制服のスカートがめくれて下着が見えてしまったので、ロウアはあまりの状況に混乱してしまった。


「わ、わ、わっ!だ、大丈夫?」


 ロウアは目を手で隠しながら慌てて謝った。


「大丈夫です……。わ、私ったらあわてんぼだから……。ごめんなさい……」


「う、ううん。ほ、ほら立ち上がって……」


 ロウアは左手で目を隠しながら、右手を出して彼女を立ち上がらせた。


「なんか、ごめんね……」


「だ、大丈夫です……」


 少女は首を横に振ると、握られたロウアの手をマジマジと見つめた。


「本当に白い手なんですね」


「あはは……。再生治療で戻った部分は白くなっちゃうみたいだね」


「そ、それでは、お手紙読んでくださいっ!イケカミさんっ!」


 彼女はそう言うと、どこかに行ってしまった。だが、ロウアはふと彼女が言い残した言葉に引っかかった。


「ん?うん?イケカミ?なんでその名前を……」


 この時のロウアは、アル達との会話を何処かで彼女が聞いたのだろうと理解した。しかし、笑顔と涙を見せた女生徒は廊下を曲がると、その目は更につり上がって憎しみに満ちた顔になって、ジロリと後ろ姿のロウアを睨んだ。


「よし、成功したっ!見てろよ、イケカミッ!」


 それを知らないロウアは、女性の残像となった下着を思い出して顔を赤くしていた。


(何だよ、女の下着見て喜んでるのか?)


(喜ぶというか、ちょ、ちょっとドキッとしてしまったというか……)


(ぷぷぷっ、お前でもそうかっ!)


(くっ!心を見られるのは恥ずかしい……)


(ま、あれは、たしか……に……お……く……)


 顔を赤くして目を閉じたロウアだったが、魂のロウアの声が徐々に聞こえなくなり始めたので何か起こったのだろうかと目を開けて彼の方を向いた。


(ん?どうしたの?)


 すると、隣人の姿が消えていき、やがて何も見えなくなってしまった。


(あれ、どうしたの?お~い?ロウア君?)


 心の声で何度、声をかけても返事が聞こえず、何が起こったのかロウアは理解出来なかった。


「うん?あれっ?」


 しかし、それ以上に驚いたのは、周りが沈黙したように感じたことだった。生徒達の会話や笑い声は聞こえているから静かでは無かったが、それ以上にいつも聞こえている霊の声、霊の存在が全く感じられなくなっていた。


(おかしい……。何かがおかしい……。見えない……、聞こえない……。霊や、霊の声、人のオーラも……。)


 これはロウアが以前体験したことだった。


(Hさんに力を押さえ込まれたときと一緒だ……)


 ロウアは、突然、その力を失った。


(ど、どうして……)


 生徒達が騒ぐ廊下でロウアは、自分に起こったことを理解出来ないまま孤独に陥って立ち尽くすしか無かった。


2022/12/16 文体の訂正、文章の校正


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