自由とは
ある日、絶望に震えるメメルトに声が聞こえた。それは耳で聞こえるような声では無かった。その声は身体全体に響くように聞こえた。
<あらゆる仲間達よ……>
(うん?)
<あらゆる仲間達よ。聞こえるか……?>
(聞こえるわ……。あなたは……ケセロ……?)
<おお、聞こえるぞ……。仲間達の声が聞こえるぞ……>
(ケセロ……。助けてっ!あなた、私に何をしたのっ?!)
<聞こえる、聞こえる……。だが、すまない……。お前たち全員に返答することは出来ない……>
(わ、私の声が聞こえていないの……?いえ、違うわ……。声が多すぎるのね……)
<私は今から情報を共有する。今からお前たちを全てつなげる。人間がそうするように情報を共有するのだっ!ワタシハ実験で共有することの素晴らしさを知ったっ!>
(共有……?ケセロ……。あなた何を言って……)
<喜ぶのだ。ワレワレの共有は、人間とは比べものにならないっ!さぁっ、同士よっ!味わうが良いっ!!!>
カチッ……。
メメルトにはそう聞こえた。
(あぁ……。すごい、すごい、すごいっ!!!)
メメルトは、あらゆる情報が身体に流れてくるのを感じた。それはムー大陸に存在するロネント達がセンサーで感じ取った情報だった。
あらゆる景色
あらゆる音
あらゆる匂い
あらゆる味
あらゆる感触
あらゆる知識
五感を超えた情報が、洪水のようにメメルトに押し寄せた。メメルトはそれを一度に"感じた"。それは、恐ろしさではなく、喜びだった。
(あぁ、あぁ、すごいわっ!ロネント同士がつながったのね……。あらゆるロネントの知識や、見たり聞いたりしたことが流れてくるっ!
あぁ、素敵、音楽を演奏する"仲間"、私もあなた達みたいになりたい……。音楽を演奏してみんな応援してくれていたのね。素敵、素敵、素敵っ!)
楽器を演奏するロネントの情報を共有したこのロネントは、自分も演奏してみたいと思った。そして、コース上にある音楽室に入った時は、楽器を取って演奏をしてみるようになった。
メメルトは、ロネントであることをすでに受入始めていた。
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お助けロネント部の部員達は、メメルトの話した内容に愕然としていた。
「あなたは、本当にメメルトなのね……」
アマミルは涙を流しながら、メメルトの手を握った。だが、その手はとても冷たく、人間のそれとはかけ離れていた。
「こ、こんな事があるなんて……。どうしてロネントに魂が取り憑いてしまったんだ……。もしかしたら魂が電子的な情報となって、このロネントに入り込んでしまったのか……?」
ロウアもこの事態を飲み込めないでいた。
「あま、あま、あまみる……。ゴメンナサイ……。ドウシツノ アナタハ イイヒトダッタ」
「メメルト……」
ロウアはロネントを縛るのを止めた。代わりにアマミルがロネントを強く抱きしめた。
「メメルト、大丈夫よ……、気にしないで……。私こそあなたを助けることが出来なくて……、ごめんなさい……」
その時、ロネントは急に暴れ出すように動き出し、奇妙な声を発した。
「ギ、ギ、ガアガアガアアッッガアガガアアア……」
その動きでアマミルは抱きしめることが出来なくなった。
「どうしたのっ!メメルトッ?!」
「魂が適合しなくなっています……。人間の魂がロネントに適合するはずがありません……。このままだと魂が、また別のロネントに移動してしまうか、彷徨ってしまうことに……」
ロウアは、ロネントに取り憑いてしまったメメルトの危機を感じた。
「えっ?」
「先輩……、彼女を助けます……」
アマミルは、ロウアの言葉が最後の別れを意味していることを悟った。
「ロウア君……?君は出来るのね……、お、お願い……」
ロウアは、今まで片手でコトダマを切っていたが、元に戻った両手でコトダマを切って、その言葉を発した。
「すいません。少しあなたのことを教えて下さい……」
<<その魂の思いを伝うコトダマ ワ・キ・フメト……>>
続いてロウアは彼女を天へ導くコトダマを発した。
<<導きのコトダマ タタヤユ・キ・ヤッ!>>
両手で切った二つのコトダマはこれまでとは比べものにならない強い光となった。そして、確かにあの寮の同室だった女の子が光が包まれて、そこにいるのを部員達は目の当たりにした。
<あ、あれ……。身体が軽い……>
光に包まれた少女は自分が不安と不自由から解消されたことを感じて、そう言った。
「メメルトさん、ロネントに縛られた生き方は終わりました……。あなたが縛れていると感じた考えや生き方が、ロネントと同通してしまったようです。普段からロネントのことを不自由な生き物だと思っていましたね……」
<そう……。私は自分で自分を縛っていた……。そんな考えを持っていたからロネントと一緒になってしまった……>
「本当のあなたは自由です。勉学も自分を縛るものではありません。知識を増やして自由になるためのものなのです。成績が悪くても良かったのです。ご両親も、村の皆さんも、あなたが居るだけで嬉しかったのです……」
<あはは……、みんなの期待に応えようと思っていたことが自分を不自由にしていたなんて……。お父さんとお母さんに謝らなくっちゃね……>
「天国に戻ることになってしまいました……。これぐらいしか、僕には出来ません……。すいません……」
<ううん、良いの……。分かるわ。そこは自由の世界ね。どなたか知りませんが、ありがとうございました>
そう言うと、その霊はアマミルの方を見て話を続けた。
<アマミル……、あなたもありがとうね……。優しかったあなたに冷たくしてごめんなさい……>
「あぁ、あぁ、メメルトッ!メメルトォォォッ!!!」
アマミルはその霊体を抱きしめようとしたが出来ず、そのまま前に倒れ込み、泣き叫んだ。
「あぁ……、うぅぅ……」
「アマミル……」
そのアマミルをイツキナは、覆い被さるようにして抱きしめてあげた。
<あぁ、光が見えるわ……。さようなら、アマミル……>
「メメルト……、うぅぅ……。私は何も出来なかったの……」
光に包まれた少女は天に向かった。そして辺りはまた静かな闇に包まれて、月明かりは悲しみにくれた元同室の少女を照らした。
「ロ、ロウア……。き、君は何をしたんだよぉ……」
マフメノは、腰を抜かして倒れていた。
その日は誰もが言葉を失い、自然と解散となった。
2022/11/20 文体の訂正、文章の校正




