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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
引きこもり少女 メメルト
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音楽室にて

 四人と一体は、夜の学校の侵入に成功して、依頼の一つにあった笛の音が鳴ったという音楽室に向かった。


(泥棒だな……、完全に……)


(いっそ捕まれば面白いのに、ケケケッ!)


(ロ、ロウア君……、君ねぇ……)


 相変わらず魂のロウアは、笑いながらそう言った。


 音楽室はマンモス校であるナーカル校らしく、四つあり、それらが校舎の端に隣接して存在した。それらには特に鍵も掛かっていなかったので、四人は一つ目の音楽室に入って思い思いに調べた。


(僕の時代と少し形が違うんだけど、似たような楽器が多いんだよなぁ……)


(ほー、そうなんだ)


(興味なさそうだね)


(音楽はよく分からん)


 音楽室は、それらしく、楽器が多く置いてあった。ムー時代の楽器は、21世紀と同じような楽器が多かった。弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器と、形は違えども同じような楽器が多数存在していた。


 話は逸れるが、この時代は演奏会となれば必ずと言って良いほど歌手も加わった。つまり、オーケストラ + 歌手という組み合わせで演奏会が催されていて、さながらオペラのような様相だった。カフテネ・ミルのライブも同じように楽器による演奏と二人の歌が合わさったような21世紀からすると少し豪華に見えるライブとなっていた。演奏は、そのほとんどをロネントが行っているが、人間が演奏すれば、機械的な音とは違う味わいもあるため、有名な演奏家達も数多く存在していた。


 曲作りはさすがにロネントでは出来ないため、人間が作っていた。有名な作曲家も多数いて、演奏会では指揮をとる事もあったし、裏方に回り楽器を演奏するロネント達の制御をすることもあった。ちなみにカフテネ・ミルの曲はアルが作っていた。


 よって、ムー大陸における演奏会は、歌手一人、演奏家が数名と人間は少なく、演奏は全てロネントという場合も少なくない。これだったら、音楽を流すだけで良いのではと思われるが、やはり直接楽器の音を聞きたいというファンがいるため、このような21世紀から見れば奇妙と思えるような演奏会となっていた。


 また、機械だらけの演奏会とは逆にナーカル校のような学校では部活動として生徒達が全ての楽器を演奏する事もあった。そのため、学生が弾く演奏会が好みというファンも多数いて、コンクールのような催しも多く開かれていた。そんな生徒達のための楽器が、この音楽室には置いてあった。


「(私たちみたいに侵入した人の悪戯かと思っていたんだけどいないわね)」


 アマミルは小声でそう言った。


「(そうね……)」


「(でも、やっぱり不気味よね……)」


 静まり返った音楽室は、夜の漆黒に包まれていた。月明かりは、侵入した四人と一体と、そして楽器を照らしているだけだった。


「(特に何も無いようですよ)」


「(そうね……。ここは出ましょうか)」


 ロウアとアマミルがそう話して、四人が外に出ようとしたときだった……。


 ポロン……。


 何かの楽器がいきなり鳴り始めた。


「!!!」


 一同は、その音で驚き、身がすくんだ。


「ちょ、ちょ、ちょ、イツキナや、やめてよ。い、今楽器に触ったでしょ……?」


「わ、私じゃ無いわよ。マフメノ君じゃないの……?」


「ぼ、僕じゃありません……。ロウア?」


「僕も、ち、違います……」


 誰も演奏していない事が判明すると、四人はそっと後ろを振り向いた。すると、そこには弦楽器を手に持って楽器を演奏しようとする人がこちらを背を向けて椅子に座っていた。その姿は暗闇の中にうっすらと見えているだけなので、本当に楽器を持っているのかも分からなかった。だが、いつからそこに居たのか誰も分からず、皆、背筋が凍った。


「ひ~~っ!!!」


「いやいやいや、さっきいなかったじゃないですかっ!!!」


「バカねっ!い、いたのよ、きっと……。ロ、ロウア君、は、話しかけてっ!」


「えぇっ!」


「は、早くっ!!!」


 ロウアは、仕方なく恐る恐る暗闇にいる人物に近づいた。


「あ、あのぉ……」


 ロウアが声をかけようとしたとき、マフメノは何かに気づいた。


「あ、あれ?ちょ、ちょっと……」


 マフメノが話そうとしたことに気づかず、ロウアは徐々に演奏者に近づいていった。


「こ、こ、こんばんは……。ど、どなた、で、で、でしょうか……?」


「!!!」


 その演奏者は、ロウアの声にビクッとして、音楽室の裏の出口から出て行ってしまった。だが、その逃げ方は、二足歩行では無く、四つ這いだったため、四人は更に凍り付いてしまった。


「ガガガ……、ガシェ~……」

「ちょ、ちょっと、イツキナッ!あんた、大丈夫なの?」


 イツキナは意味不明な叫び声を上げて今にも倒れそうだった。アマミルはそれを心配していたが、マフメノは意外にも冷静にロウアにその正体を説明した。


「ロウアァ、あれ、用務員ロネントだよぉ……」


 マフメノが自分の嫁さんに表示された情報をロウアに教えてくれた。


「えっ?ロ、ロネントなの?」


「ごめん、さっきまで動きを追っていたんだけど、教室に入ってから油断してた……」


「ということは、演奏用ロネントが演奏していたということ?」


「た、多分……」


「バ、バカねっ!演奏ロネントがこんな時間に動いている分けないでしょっ!しかも、勝手に動くなんてっ!」


 ロウアはアマミルが話した事が気になった。


(勝手に動いた?自分から動くロネント……)


 ロウアはシアムを誘拐したロネントが自分の意思で動いていたのを知っていた。


(いや、あれはバックに誰かいたはずだぜ……?おい、それよりもイケカミ、ロネントが逃げちまうぞ?俺が追いかけてやる、追いかけて来いよ)


 魂のロウアは、逃げ出したロネントを追いながらそう言った。


「うんっ!僕も行くっ!」


「な、なぁにっ?!ロウア君、どこに行くのよっ!!」


 ロウアは急いで教室を出てロネントの後を追っていった。だが、その足は恐ろしく速くて人間の足では追いつきそうもなかった。


「お、追いつかない……。少し力を使うっ!」


 ロウアは後ろから誰も追ってこないのを確認すると力を使って空中を飛んで追いかけた。


(……こんな事、前にあったなぁ……)


(ん?そうなのか?お、いたぜっ?)


 ロウアは、追いかけながら、自分を狙っているかも知れないと思った。だが、それなら自分達が教室に入った時に狙っても良かったはずだった。しかも、あのロネントは、自分が声をかけた時、明らかに驚いていた。ロネントが驚く仕草をするのもロウアは気になっていた。


(おい、今だぜっ!)


 魂のロウアの掛け声と共に、ロウアは"そいつ"が角を曲がる直前に足を掴み、ついで身体に乗っかり動けないように上に乗っかった。

「ハ、ハナシテ……。ワタシハ、タダ、演奏してみたかった……ダケ……ナノ……」


(お、おい、こいつ……。用務員ロネントだぜ……)


「えっ?!演奏用ロネントじゃないのか……」


 月明かりで見てたロネントは、魂のロウアが言った通り、昼間の学校を掃除している用務員ロネントだった。ロウアは、どうして用務員のロネントが楽器を奏でようとしたのだろうかと思った。彼はさっきロネントが言った、演奏してみたかった、という言葉を思い出した。


「き、君は意思があるのかい……?」


(まさかっ!アホかっ!)


 このロネントは、明らかに自分の"意思"を持っていた。


「ヨ、用務員……、ロネント……。ワタシハ、ロネント……、ロネントになってシマッタ……。

ウゥゥ……。……ワ、私ハ、何故、何故、ココニイル……?ウゥゥ……」


「な、泣いている?君は泣いているのかい……」


 ロウアは、このロネントが何を話しているのか分からなかった。しかも、ロネントは泣いていた。無論、実際に目から涙が流れているわけではなかった。機械音声の声が泣いているように聞こえているようだけかもしれなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ロ、ロウア君、良く追いついたね……」

「足速いなぁ……」


 アマミルとイツキナは、ロウアに追いつくとその光景に驚いていた。マフメノは、未だ後ろの方を息を切らせながらこちらに向かっていた。


「なぁに?それってロネントよね……。用務員ロネントが演奏していたということ……?」


「アマミル先輩、そうみたいです……」


 ロウアがアマミルと呼ぶと、急にそのロネントがアマミルの名前を叫びながら暴れ出した。


「あ、あまみる……?あまみる……。あまみる~~っ!!!あぁぁ……」


「どうしたのかしら……。何故私の名前を……?」


 これには当のアマミルも理解出来ずにいた。


「あま……、あまみる……、ゴメンネ……。ゴメンネ……」


 更に用務員ロネントは、急に謝りだしたので、一同は理解が追いつかなかった。


「えっ?えっ?」


「ゴメンナサイ……、ゴメンナサイ……、ゴメンナサイ……、ゴメンナサイ……」


 ひたすら謝っているロネントだったが、ロウアはあることに気づいた。


「あっ……!」


 その頭の後ろからうっすらと光るものがあった。それはまさに人間が持つようなオーラだった。


「ま、まさか、そんな……、あり得ない……」


(こいつ、生きてる……)


 ロウアは何故、ロネントがオーラを持っているか理解できなかった。魂のロウアもロネントが生きてる事に驚愕した。


「なぁに?どうしたのよ、ロウア君……」


「き、君は、だ、誰なんだい……?」


 ロウアはこの不思議なロネントに人間に話しかけるように聞いた。


「……ワタ、ワタシハ、ワタシハ、が、がくががっがあが……せ、せいぎょ不可……」


 ロネントは理解できない言葉を話すと、しばらくして、自分の名前を言った。


「め、めめ、メメルト……。ワタシハ メメルト……」


「メメルトッ?!今、メメルトって言ったのっ?!」


 アマミルはその名前を聞いて顔が青ざめ、愕然と立ち尽くした。イツキナも、その名前を聞いて凍り付くように佇んでいた。


「そ、そんな……。メメルト……なの……?あなた本当にメメルトなのっ!?」


「ワ、ワタシハ、メメルト……、タスケテ……」


「あぁ、あぁ、あぁ、メメルトォッ!!!嘘よ、嘘よ、何でロネントがメメルトなのよっ!!!」


 アマミルはその場に座り込んで泣き叫んでしまった。


「ワタシハ メメルト……、ケセロに……コロサレ……タ……」


「ケセロ?ケセロって誰なのっ!?」


 アマミルはロネントが話したケセロという人物について問いただした。ロネントは、アマミルを見つめた。


「あなた、アマミル……?アマミル……、またアエタ……」


 その表情は変わらないが驚いているようにロウアには思えた。


「そうよっ!あなたと同じ部屋だったアマミルよっ!!

どうして……、どうしてあなたは……死んで……、しまったのよ……。

そ、それにどうして……ロネントに……?」


「えっ?同じ部屋?」


 ロウアは、アマミルがこのロネントが名乗るメメルトという人物と同じ部屋だったと聞いて驚いた。


「そう……、メメルトは、寮で私と同じ部屋だった子……。ツナクのゲーム中に死んでしまったの……」


「そ、そんな……。に、人間の魂がロネントに宿るなんて……」


「私が話せる時間はアトスコシダケ……。ワタシハ サイゴニ オコッタコトヲ 話す……」


 ロウア達は頭の整理が出来ずに居ると、自分をメメルトと名乗るロネントは、片言ながらロウア達に自分死んだときのことを話し始めた。


2022/11/13 文体の訂正、文章の校正


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