キタクブアイドル部
翌日の放課後、アルとシアムが、何故か嬉しそうにロウアに話しかけてきた。
「イケカミィ、ご迷惑少女組にからまれているみたいだね~」
「噂で聞いた、にゃ」
「よく知ってるね……。お助け部なる部活に参加させられて、昨日はロネント部が乗っ取られてしまったよ……」
「あ~あ……、やっぱ、噂通りの"ご迷惑組"なんだ~……」
「本当だったね、アルちゃん……」
二人は、やっぱりといった顔をして残念なご迷惑少女組に関わったロウアを哀れんだ。
「てか、自分の部に戻ったんだね」
「そうだね、元に戻れて良かったっ!」
「そうなんだ。ロウア君に所属していた部活を聞いたんだよ」
「しっかし、せっかくロネントヲタクに戻れそうになったのにご迷惑少女組に絡まれるとはっ!
あっ?そうだ、中身は違うんだった」
「中身がちがう、にゃっ!」
アルとシアムは、そう言うと顔を合わせて、ニヤニヤしていた。
「な、中身って……」
ロウアは、二人に中身と言われて少し焦ってしまった。この二人に自分の秘密を話して大丈夫だったのだろうかと不安になった。
「まあ、それはいいとして、ロネント部に戻れば、アマミル先輩から逃げられると思ったんだけどね……」
やっとアマミルから逃げられそうな場所が見つかったのに、あっという間に捕まってしまったのでロウアは、うんざりとしていた。
「はぁ~、こうなったら、帰宅部になろうかなぁ……」
そして、そうつぶやいたのだが、アルとシアムは、その言葉に反応した。
「キタクブ?」
「キタクブだってっ!また、新しい言葉っ!それってどういう意味、にゃ?」
アルとシアムは多少は、日本語になれてきたのか濁音も発音していた。
「ん~、部活に入らないで家に帰るだけの人ってことだよ」
「キタクブ……、これは斬新な言葉だっ!」
「すごい、キタクブ、キタクブッ!ねぇ、アルちゃん、私達ってもしかしてっ?!」
「おうっ!そうだねっ!あははっ!私たちは部活やってないから、キタクブだねっ!」
「そうだね。アルちゃんっ!」
二人は、この時代には無い"帰宅部"という言葉を使って楽しそうだった。
「二人は、アイドル"部"なんじゃないの?」
「おぉ、アイドル部かっ!それも良いねっ!」
「アイドルって部活だったのか、にゃっ!」
「キタクブアイドル部所属のアルですっ!」
「キタクブアイドル部所属のシアムですっ!」
二人は帰宅部とアイドル部を勝手にくっつけて、キメ顔でアイドルらしいポーズを決めた。周りの生徒達もそれに見て、わ~っと騒ぎ出し、拍手をするものもいて、二人はそれらに愛想を振る舞った。ロウアはそれを見て呆れたが、楽しそうな二人を見て自然と笑顔になった。
「さて、それじゃあ、ロネント部に行くかな~、はぁ~、またアマミル先輩が居るのかなぁ……」
ロウアは鞄を持つと、重い腰を上げて部活に向かうことにした。
「そんなに嫌ならキタクブすれば良いのに~」
「そうだよ~。ロネントだなんて……」
アルもシアムもこの前の誘拐事件もあるし、ロネントを扱う部活に行こうとするロウアを少し不安に思っていた。どうやら、最初からからかい半分、引き留め半分という事だったらしい。
「今日は絶対に来いって、あの二人組に言われているんだよね……」
「そうなのかぁ……」
「イケカミ兄さん、ロネントが襲ってこない?大丈夫……?」
さっきまで楽しそうだったシアムはロネントの秘密もあり、とても不安そうな顔になった。
「大丈夫だよ、シアム。だって、ご迷惑少女組だっているんだよ?」
ロウアはそう言うと、シアムを安心させるように肩を叩いてあげた。
「ふにゃう……。気をつけて……、にゃ」
「うんっ!魔法使いだから強いんだ、僕はっ!」
「"ことたま"だもんね」
「そうそう」
シアムは、ロウアのこの時代には無いガッツポーズを見て安心したようだった。
「そうだっ!イケカミ、そのナントカタマについて今度教えてよっ!」
「分かったよ、アル」
といっても、ロウア自身も原理がイマイチ分かっていなかった。
「シアムッ!さっ、私達もキタクブアイドル部に行こうっ!」
「うん、そうだねっ!アルちゃん」
二人はそう言うと、鞄を持って教室の扉に向かった。
「じゃあね~、イケカミ~ッ!」
「またね。イケカミ兄さんっ!」
「うん、またね。って、その名前で呼ぶなって……」
「あははっ!!」
「うふふっ!」
二人は笑いながら、教室から出て行くとキタクブアイドル部の活動やらに向かうのだった。屈託の無い笑顔を見て、ロウアも癒やされ、これがアイドルなんだろうかと思うのだった。
2022/11/12 文体の訂正、文章の校正




