ロネント部の危機
ロウアは、シアムがアマミルを引きつけているうちに、取りあえず、元の部活であったロネント部に向かった。ドアを開くと、マフメノさんが作っていたロネントが立ち上がってこちらを待っているかのように見ていたため、ロウアはギョッとして警戒した。
「ま、まさか……」
昨日、ロネントを操っていた者が自分を待ち構えているのではないかと思い、ロウアは体制を整えたのが、それは空振りで終わった。
「オカエリ、ロウア」
マフメノのロネントは、部屋に誰かが入ってきたから、立ち上がって挨拶をしただけだった。
「ふぅ……、驚いたよ……。え~っと、君は大丈夫だよね?」
ロウアは半分冗談でそう言いながら、ロネントのおでこをコツンと突いた。すると不気味な声が返ってきたのでロウアは背筋が凍った。
「イイヤ、大丈夫ではない。お前のそばにいつでもいることをワスレルナ」
ロウアは、どこかで殺人鬼がロネントを通して自分を狙っているということが再確認されて、身構えざるを得なかった。
「ワレワレはドコニデモイル。ロネントがいればお前を見テイルト知レ」
「ふざけるなっ!お前は俺達には手が出せないだろっ!」
「だから監視シテヤル。オマエタチが何かをしないようにナ」
「それはこっちの台詞だ」
「ワスレルナ、ワレワレはドコニデモイル、ドコニデモイル、ドコニデモイル……」
そう繰り返すロネントをロウアは睨め付けると、自動扉が開いてマフメノが入ってきて緊張の糸が切れた。
「あれ、僕の嫁が立ち上がっているよ。ロウア、何かしたのかい?」
マフメノは自分のロネントが自動的に立ち上がっているのを見て驚いた顔をしていた。
「いや、な、何もしてないよ」
「勝手に動くなんてすごいな、僕の嫁はっ!」
「そ、そうだね。良く出来ているね……」
結局、最初の挨拶も殺人鬼がロネントを動かしたことが分かった。
(遠くからロネントを動かしたのか……)
(そうみたいだな、こんな低レベルのもんまで動かすとはなかなかやるぜ)
(褒めるところなのか……)
ロウアは呆れた。
(ねぇ、マフメノには、ロネント同士の会話について話したの?)
(いや、こいつには話していないな。感づいているかもしれねぇが)
(なら、よかった)
ロウアは、マフメノまで守るとなると大変になると思ったが杞憂に終わって良かったと思った。
「よっこらせっと、ふぅ~」
マフメノは、相変わらず太った身体を揺らしながら椅子にドテッと座るとロウアに話しかけた。
「あっ、そうだぁ。自分の記録は調べられたかい?」
「うん、調べられたよ。少し思い出すことが出来た。ありがとうね」
「いえいえ、どうしたしまして……って、君がお礼を言うなんて……。
記憶消去のレア体験はすごい威力だね。ちょっと怖いかも……」
「そ、そう?あははっ」
話し方とか、身振りを気にしていなかったロウアは、焦ってしまった。魂のロウアは他人にお礼を言ったことなど無い残念な性格だった。
「ロネントのことも思い出さないとなぁ、色々と教えてもらえ……」
ロウアがマフメノにそう話しかけると、扉が勢いよく開いたため、二人は驚いて振り返った。するとそこには、自動扉を無理矢理、手で開けたアマミルがじろっとロウアを睨んでいた。
「ロウアッ!何してるのっ!」
「げっ!アマミル先輩っ!てか、呼び捨てですか……」
「なあにっ?!当たり前じゃ無いっ!私は本当に怒っているのよっ!こんなところにいたら依頼がこなせないじゃないっ!」
「い、いや、その……。い、依頼ですかぁ?!そ、その、今、丁度ロネントについて調べていて……」
ロウアはとっさに誤魔化そうとしたが、そんな小技が効く相手ではなかった。
「困っている人と、ロネントとどっちが大事なのよっ!」
「し、しかしながら、ロネントも調べる必要があって……」
「ロネントの何を調べるのよっ!」
「そ、それは言えないですけど、とても重要な事案であって、そう、えっと、社会を揺るがすような事件性があってでですね……」
「バカねっ!騙されないんだから。さあっ!来なさいっ!」
「あf;jlkっどおあをぷあfっdv」
ロウアは、全く聞き耳を持たない敵に完全な負け犬になり、自分でも何を言っているのか分からなくなってしまった。アマミルはそんなロウアの襟の後ろを掴んで、部屋を出ようとしたのだが、彼女はすぐに手を止めた。二人はどうしたのだろうかと思った。
「ん?ちょっと待って、この部屋……」
アマミルは、ロウアの襟を掴みながら部屋をじっと見回した。
「この部屋?部室ですか?」
「おぉっ!良いことを思いついたわっ!!」
アマミルは何か良いことを思いついたらしいが、ロウアは嫌な予感しかしなかった。
「ちょっと待ってなさいっ!」
そう言うと、颯爽と一人で出て行ってしまった。
「い、嫌な予感……」
「お、おい、ロウアァ……。あの人って美人だけど困った性格っていうご迷惑少女組の一人なんじゃ……?
何であんな人と知り合いなのさぁ……。カフテネミルとはえらい違いだよぉ……」
マフメノでもアマミルが学校の困ったちゃんということは知っていたため、嘆くようにそう言った。すると、アマミルが早くも戻って来たため、マフメノは口をつぐんだ。だが、同時にイツキナも一緒だったのを見て思わず声が漏れてしまった。
「わ~、ご迷惑少女組が二人ともそろちゃったよぉ……、ロウアァ……」
「予想してた……。や、やばいぞ、マフメノ……」
二人の男子が困り顔でいると、アマミルは、どや顔で話し始めた。
「イツキナ、どう、この部屋っ!とっても良い発見をしたよね、私」
「うんっ!うんっ!」
マフメノは、何を言ってるのだ、どうにかしろとロウアをつついた。
「あ、あ、あの、どういった意味ですか……。こ、ここはロネント部の部室ですよ……」
「バカねっ!分かっているわよ。この部屋が素敵って話なだけじゃないっ!」
「ですか……」
ロウアは本当だろうかと疑った。するとイツキナは部屋の奥まで進むと周りを見て喜んでいた。
「アマミル、良いじゃないのっ!あなたの行ったとおり、奥が空いているわねっ!」
「うん、そうなのよっ!すっごい広いでしょっ!」
「あぁ、駄目駄目駄目……。この流れはダメだぁ……」
ロウアの嫌な予感は次の言葉で的中した。
「ロウア君、今日からここを使わせてもらうわっ!」
「はいぃぃ?!この部屋は駄目ですってっ!気に入っただけって言いましたよね……」
「いいじゃないちょっとぐらいなら。ね?そこの人も、良いでしょ?」
「え、いや、あの、その、だから、(こ、ここは、僕らの部屋であって)ゴニョゴニョ……。
で、でも、ちょっとぐらいなら、えっと。(あぁ、女子の良い匂いがするぅ……うへへぇ)」
「お、おいおい……」
マフメノはイヤイヤながらも女性のシャンプーの匂いでデレデレ状態で全然頼りにならなかった。
「ほらっ、ロウア君、彼は良いって言ってるわよ?」
「言ってますけど、ちょ、ちょっと……、嘘でしょ……。何て強引な……」
こうして、ロネント部は、二人の強引なマイウェイお嬢様達に部屋を乗っ取られることになった。まさにこれがご迷惑少女なんだとロウアは思い知らされた。
(こ、これがご迷惑少女組……。あり得ないんだけど…。この時代の香織さんは強烈すぎる……。愛那もだけど……)
(ケラケラッ!笑えるぜっ!!アハハハッ!!)
魂のロウアもケタケタと大笑いをしていた。
(君ねぇ……)
(だけど、こんだけ大騒ぎしていれば、あの事件の黒幕も出てこれないんじゃないか?ぷぷぷ……)
(そりゃ、そうだけどさ……。って、笑いを堪えながら話すなよなぁ)
2022/11/09 文体の訂正、文章の校正




