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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
引きこもり少女 メメルト
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勘違いは続く

 ロウアの下手くそな話し方によって、二人の女子はものすごく勘違いした方向で突っ走っていた。そんなことをロウアはつゆ知らず、命のかかった動画をどうやって安全に渡そうかと頭を悩ましていた。


 放課後になるとロウアが席を立ち、シアムを誘って図書室に行こうとすると、彼女は彼にそっと耳打ちした。


「(わ、私は後から行くから、にゃ!)」


「(えっ!後から?う、うん。一番上の階の自習室にいるね)」


 ロウアは、シアムが何故小声で話すのか分からず、取りあえずそれに合わせて小声で返事をした。


 シアムがアルの方向を見ると、彼女は幼馴染みを励ますように右手挙げてそれ行けと言わんばかりに腕を振って応援していた。応援された彼女は、うんとうなずくと教室を出てどこかに行ってしまった。


(でも、何で後で来るんだ?一緒に行きたかったんだけど……)


(あぁ、こりゃ、楽しっ!)


 それを魂のロウアは、楽しそうに見ていた。ロウアはその態度が気になっていたが、いつものことか思い、図書室に一人で向かった。


 今日のナーカル校の図書室は、本を読みに来る生徒はほとんどいなくて、代わりに落第しそうな目の色を真っ赤にした生徒達が必死に勉強している姿が目立った。


(追試がもうすぐだっけ?)


(あぁ、落第点な奴らは、すげーやばそうな顔しているな)


(うぅ、人ごとに思えない……。こ、怖い……)


(お前は一階落第しているからな。せいぜい気をつけろよ)


(そうだね……)


(あ、来たぜ?プププッ!)


 ロウアは、以前、アルとシアムにナーカル語を教えてもらった自習室でシアムが来るのを待っていた。するとシアムがニコニコしながら扉を開いてスススッと入ってきた。


「イケカミ兄さん、お待たせ、にゃん……」


「シアム、こっちだよ……うん?」


 ロウアは、シアムがさっきまでと髪型が違うので驚いてしまった。さっきまではお下げだったが、今は綺麗なストレートになっていて、綺麗な髪飾りがついていた。


「あれ……?髪型変えた?」


「きゃっ!えっと、だ、大事なお話だと思って、か、変えてみたの、にゃあ……」


「そ、そうか……」


 確かに大事な話をしようと思っているが、シアムが何故そこまでの心構えを持っているのが理解できなかった。


「きょ、きょ、今日は、どど、どんなお話しなの……か……にゃぁ……」


 シアムはそう言いながら、顔を真っ赤にして猫耳と共に下を向いた。


「えっと……」


 ロウアは昨日起こったことを話し、そして、シアムがロネントに誘拐されたのは、ロネント達が彼ら自身の言葉で会話していること知っているからだと説明した。話し終わると、シアムはさっきまで笑顔だったのだが、急に沈んでいるのでロウアは彼女を怖がらせてしまったと焦った。


「ご、ごめんね。怖い話だったよね……」


「えっ?!あ、あの、えっと……。その……。何というか……」


 ロウアはシアムが恐ろしくなって、何も言えなくなったのだと思うと申し訳なく感じた。


「で、でも、この秘密は黙っていれば襲われないから、大丈夫だよっ!」


 すると、シアムが上を向いてロウアを見たのだが、その目に涙を貯えられていたので彼は顔が青ざめた。


「ウッ、ウッ、ウゥゥ……」


「シ、シアム、ごめんっ!そ、そこまで怖がるとは思っていなくて……。え、えっと……、どう説明したらいいか……。って、あ、あれ?」


 ロウアが慰めようとしたがシアムは泣きながら、さっと部屋を出て行ってしまった。


「ウヮ~~ンッ!!!!」


「シ、シアム?!」


(あ~ぁ、泣かしちゃった。ぷぷぷっ!ケケケッ!!)


(ロウア君、何を笑っているんだよっ!友達が不安で泣いてしまったんだぞ)


(……お前、頭悪いの?アホなの?)


(ええ?なんだよ、それ)


(もう知らんわ。ちゃんと慰めてやれよっ!)


(なんだよ、全く……)


 ロウアがシアムの後を追って部屋から出ようとすると、今度はアルが猛烈な勢いで部屋に入ってきて、ロウアを怒鳴りつけた。


「ロウアッ!じゃないっ!イケカミ~~ッ!シアムに何をしたんだ~~っ!」


「なっ、何って、セキュリティの問題というか、大事な話というか……、い、命に関わる話を……」


 ロウアは、ロネントについての秘密を話すとアルにも危険が及ぶと考えて、詳しく説明することが出来なかった。


「やだやだやだ~~~っ!!!せきゅとか、いのちとか、ど~~でも良いのだ~~っ!!!」


「い、いや、良くな……い……って……」


ビシッ!


「い、痛っ!何するんだっ!」


「信じられないっ!バカがみ~~~~っ!!べ~~~!!!」


 アルは、ロウアを思い切りビンタすると、21世紀でも時代錯誤なあっかんべえをして部屋を出て行ってしまった。必死な思いで勉強していた生徒達は、この騒ぎを聞いてイラつき、恐ろしい形相でロウアをにらみつけていた。


「あ、いや……。ご、ごめんなさい……」


 ロウアも早々に退散せざるを得なかった。


(ま、まずい、録音装置を渡すことが出来なかった……)


(ぷっ、ぷぷぷっ、ケラケラケラッ!おま、お前、ぷぷ、早くシアムに、わ、ぷぷぷっ、渡せってっ!あははっ!)


 魂のロウアは、大笑いをしていた。ロウアは、ツナクでシアムを探すと、まだ学校にいることが分かったので急いでシアムのところに向かった。


-----


 シアムは自分の教室で机に倒れ込むように座っていたのでロウアは静かに近づいて声をかけた。


「シアム?」


「……イケカミ兄さん」


 シアムは涙顔のため恥ずかしいのか、目をそらしていた。


「さっきはごめんね。驚かしちゃったね……」


「ううん……。こっちこそごめんなさい。私……勘違いを……」


「勘違い?」


 するとシアムは顔を真っ赤にして、両手で耳を掴むようにして下を向いてしまった。


「な、何でもない……にゃ……」


 ロウアはそれ以上突っ込んでも仕方ないと思ったので、自分の目的を伝えた。


「あ、あのね……。これを持っていて欲しいんだ」


 ロウアは昨日のロネントとの会話を記録した動画をツナクを経由してシアムに渡した。


「イ、イケカミ兄さん……、これって……」


「一緒に見よう」


 その言葉にシアムは一瞬浮かれたが、彼女は動画を見終わると顔が青ざめて言葉を失った。彼女はロネントへの恐怖心が芽生えてしまっていたが、そのロネントが恐ろしい形相でロウアに迫っている動画だったからだった。


「怖いよね……ごめんね。あまり見ないようにして。だけど、大事に持っていて欲しい」


「うん……」


 シアムは、こんな動画を持っているのは嫌だったが、ロウアからのお願いであればと了承した。


「君を守る大事な情報だよ。僕が死んだらツナクに流して欲しい」


「えぇ?イケカミ兄さんが死んじゃうなんて信じたくない、にゃっ!」


「大丈夫、僕は死んだりしない。いざというときのためだよ。それと、この情報は誰にも話したら駄目だからね」


「さっき話してくれたロネント同士の会話ですか、にゃ」


「そうだよ、絶対にね」


「分かった、にゃっ!」


「君のことは絶対に守るから安心して」


「(ボッ!)にゃにゃにゃぁ?まも、守ってぇぇぇっ?!わ、私をぉぉ?!」


 シアムは、唐突な自分を守る宣言を聞いて、また顔が真っ赤になってしまった。だが、今度は顔がデレデレだった。


「えへ、えへへ~、守ってぇぇくれるのかにゃあ~」


「そうだよ、絶対にねっ!」


「はい、にゃあ!うぅぅ、う、嬉しい、にゃぁぁ……。

イ、イケカミ兄しゃ~ん……」


 シアムはそう言いつつ、有頂天になりすぎたのか倒れそうになった。


「シ、シアムっ?!」


 ロウアは、倒れそうになったシアムをとっさに支えたが、その時、聞きたくなかった声が聞こえてロウアは顔から汗が大量に出た。


「あ~っ!ここにいた~っ!」


「げっ!アマミル先輩……」


「げっ!じゃないわよ。……あら、シアムちゃんじゃないっ?!」


「こ、こんにちは……」


 シアムは、支えられて幸せを満喫していたが、アマミルの姿を見てハッとなって、さっと自立した。彼女はどこか恨めしそうにアマミルを見つめた。


「……なにか邪魔をした気がするけど気のせいかしら……」


「何でもありません、にゃ……」


 シアムは口をゆがめて、気持ちがあからさまだったが、アマミルはそんなのは気にせず、大陸で有名になっているアイドルとの出会いに感動した。


「すごいわ、シアムちゃんに出会えるなんてっ!!白右手の王子が救ったお姫様ねっ!

そ、そうだっ!サ、サインをくれるかしらっ!」


「え、ええ、分かりました」


 アマミルの勢いでいつものアイドルモードになってしまったシアムは、彼女の差し出したノートデバイスにサインしてあげた。


「う、嬉しいっ!!って、あれ?ロウア君は……?」


「ど、どこかに行ってしまいました……」


「もうっ!やるわね、あの子っ!」


 ロウアは、逃げる間際、ごめんねとジェスチャーをしてウインクをしていた。シアムは仕方が無いと思ったが、彼の言った自分を守るという言葉がいつまでも胸にこだまして、その度に胸が熱くなり顔を赤くしていた。


 こうして様々な勘違いは終わった。


2022/11/04 文体の訂正、文章の校正


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