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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
引きこもり少女 メメルト
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プロトコル

 ロウアは海で溺れるまでの内容をデータで追っていたが、その時点でデータがプツリと消えていた。つまり、腕に仕組んだツナクトノが腕ごと失われてしまったためだった。さすがに自動保存する前に失われた情報は、リストアされていなかった。


 だが、消える直前の情報に誰かの声のデータが残っていた。


「オマエェェェ、我々の情報を知ったぁぁぁ……。死ねぇ、死ねぇ、死ねぇぇぇ……」


 ロウアは、これを聞くと背筋がゾクッとした。そして、この声がロネントであることが何となく分かった。魂のロウアも同じように思ったのか、声をかけてきた。


(うへ……。ロネントの声だな……)


(情報を知った……?

ロウア君、君はどんな情報を掴んだんだよ)


(そうか、そのせいだったかもしれないんだな……)


 魂のロウアは、気になることがあったのか、そう言って自分が知ったロネントの秘密について説明した。だが、その内容は思ったのほどの情報でもなかった。それは、単にロネント同士が何かを話している言葉プロトコルがあるということだけだった。


(そ、それだけ?)


(ああ、それだけだぜ?だから、よく分からないんだよ。それ以外の秘密らしい、秘密なんて知らないぜ?)


(それって、当たり前の事なんじゃ?)


(あん?ロネント同士が話すってことがか?いや、そんな情報は誰も知らないぜ?だから、すごいんだよ。俺はっ!)


 ただ、ロウアは、ロボット同士が"話をする"ということが理解出来なかった。


(どんな話をしているの?というか、話では無くて情報のやり取り?)


(内容はよく分からないぜ?片方がピピピって音が鳴って、それを別の相手が受けるとまたピピピって返すって感じだな。)


(う~ん……)


 ロネントは、恐らく電子的なやり取りを互いに出来るように設計できているのだろうと、ロウアは思ったが、どんな情報なのかいまいちピンと来なかった。魂のロウアは、それを察したのか、どうやって見つけたのかを説明した。


(二つのロネントの演算装置をそれぞれの計測装置につなげて、じっと見比べていないと分からないような、ホントに小さな電子的な動きなんだぜ?片方のメーターがピンって上がると、もう片方のメーターがピンって上がるだけだしな)


(う~ん。それだけのことで君は殺されたのか……)


(それだけのことって、お前ねぇ、結構すごい発見なんだってっ!神官様は教えてくれないからな)


(神官達も知らない機能だってことか……)


 ロネントを作り出したのは、ムー国の神官達だとロウアは聞いていた。その作った本人達すらも知らない機能なのだと魂のロウアは主張していた。


(だけど、あの声は海中で聞こえたよね……。海にロネントっているの?)


(漁業用のロネントはいるぜ。だけど、しっかりと管理されているはずだから、アレとはちげ~と思うぜ)


(もしかして、君を殺したロネントは、暗殺用ロネント……?)


(あんさつ?特定の人間を殺すって意味か。そうだなぁ、植民地で戦争するために作られたロネントはあるが。……それがムー本土で使われた話なんて聞いたこと無いぜ)


(軍事用のロネントがいるということ?つまり、そいつが使われたのかもしれない?)


(……そうかもな)


(ロネントが意思を持っているなんてことは無いの?)


(それは無いわ~。てか、あり得ない。だって人間様が作った人形だぜ?ある程度、自動で動くけど、それだって人間が動作を覚えさせるから出来ることだからな)


(ということは、人間がバックにいるんだね)


(だろうな。俺を殺すとは全く……。何の恨みがあったんだよ)


(とにかく、君が掴んだロネント同士の言葉のせいだろうね)


 ロウアは質問を思いつくままに魂のロウアに投げかけたが、これと言った手がかりは無かった。そして、ロウアは嫌なことに気づいてしまった。


(……あれ、もしかして、僕が生きているってことは、また狙われるということかな……?)


(だろうなっ!)


(お、おい……。何で楽しそうなんだよ……)


(言ったろ、お前といると退屈しないって)


(はぁ~、もう……。また、命が狙われてしまうことになった……)


(またって、こっちに来る前のことか?お前って友達のいない寂しい奴ってだけじゃ無くて、殺害対象でもあったってこと?)


(……ま、まぁね)


(ぷ、ぷぷぷ、あははっ!もしかして、こっちに来た理由もそれに関係しているわけ?)


(う、うん……)


(ケラケラケラッ!お前ってそういう運命なのね。俺みたいに死なないように気をつけろよっ!てか、俺は二度死ぬって事になるのか?)


(……呑気なもんだなぁ)


 魂のロウアは、ケラケラと笑っていたが、ふとあることに気づいた。


(うん?待てよ……)


(どうしたの?)


(シアムが……あいつがロネントに襲われたけどさ……。俺がアイツにこの事を話したからかもしれない……)


(ロネント同士が話していたことをか……、おいおい……。もしかして、アルにも?)


(いや、シアムだけだ……)


(はぁ、だからシアムが狙われたのか……。シアムに話したとき、周りに誰もいなかった?)


(誰もいないぜ?)


 そう言った魂のロウアだったが、あることに気づいた。


(……あぁ!)


(誰かいた?)


(……家政婦ロネントがいたわ……)


(それだっ!!!)


 ロウア達は急いで一階に向かった。家政婦のロネントは台所で洗い物をしているところだった。母親は風呂に入っているのか、そこにはいなかった。


「お、おいっ!」


「ドシタ?ロウアボッチャマ。ゴヨウカァ?」


 家政婦型のロネントは、ほとんどの家庭で使われていた。ロウアの家もご多分に漏れず、一体だけ家政婦ロネントを使っていた。このロネントは、話す機能が弱いのか、壊れたロボット様な会話しか出来なかった。


「僕を殺した者と話がしたい」


 ロウアは、この家政婦ロネントを通して聞いていた"者"を捕まえようとして問いかけを投げかけた。だが、家政婦ロネントは、ロウアの言葉を理解出来ないのか、首をかしげていた。


「???」


「話がしたいんだ。君は誰かと話しているよね?」


「リカイデキナイゾ?ボッチャマ」


 ロウアは、拉致が明かないと思い、家政婦ロネントの肩を掴むと強く揺さぶった。


「さあっ!正体を現せっ!出てくるんだっ!」


「ナナナ、ナニヲスル、コワレルヨ。オボ、オボッチャマ……マママ……」


 家政婦ロネントは、ガタガタと揺さぶられるままだったが、やがて、急に黙り込んで下を向いたので、ロウアはその手を止めた。


(お、おい、どうした?動かなくなったぞ?)


(うん……うっ?!)


(あん?どした?)


 不審に思っていたロウアだったが、急に全身が震えて、"何かがやって来た"のが分かった。そして、今までとは違う誰かが家政婦ロネントを通して話し始めた。


「ガ、ガガガ……なゼ……」


「……?」


「何故ぇぇぇ、キサマは生きているぅぅぅっ!!!」


 ロネントが顔を上げると、機械の目が真っ赤になっていて、口が大きく開き、鬼気迫る形相に変わっていた。更にその声は今までとは全く異なった機械的な男性の声に変わっていた。ロウアは、一歩、後ろに下がると別のものになったそれを睨め付けて、いつでも戦闘が出来るように身構えた。


「オマエェェェッ!海で殺したはずだぁぁぁ。何故生きているっ!!!」


 それは、激しく声を荒げてそう言った。


「シアムに成り代わって、彼女を誘拐した奴だなっ!!!」


(はぁっ?!あ、あのロネント共と同じやつだってっ?!)


「お前は何者だっ!」


 首があらぬ方向に向き、そして、人間が到底動けないような不気味な動きをしているロネントに、ロウアは詰め寄った。


「こっちの質問にコタエロォォォッ!」


「僕は無敵なんだよっ!見ただろ?僕の魔法を」


「フザケルナ。あんな奇術にダマサレルカァァァ」


「シアムを殺さず監禁して何をするつもりだったんだっ!」


「お前をおびき出すためにカンキンしたノダ。お前がハヤク気づいたは計算外……」


「これ以上シアムに手を出すと許さないぞっ!」


「あの女も秘密を知っている以上、ワレワレの殺す対象ダ」


「秘密というのは、お前達が独自言語で話しているということかっ!」


「今それを知られるのはマズイ」


「何故だ?何故それを知られると不味いのだ」


「教えるかぁぁぁ、ジャマモノめぇぇぇっ!」


「まあ、良い。これは何だか分かるか?」


 ロウアはそう言うと、天井近くの空中に浮いている録画用のデバイスを指さした。すると、化け物と化したロネントは、小刻みに動き出して、怒りに満ちていたのが分かった。


「貴様ぁぁぁっ!ハカッタナッ!!!」


「簡単に出てくるからだっ!」


 すると、ロネントはキッチンに置いてあった包丁を掴むと、ロウアにそれを向けて今にも襲ってきそうになった。


「これも録画しているぞ、良いのか?」


「……ギギギ」


 ロネントは、自らの演算でこの不利な状況を理解したのか、ロウアから離れると彼を思いきり睨んだ。両者がにらみ合って一触即発の状態になった。


 だが、その時、ロウアの母親が丁度、風呂から上がってきた。


「どうしたの、ロウア?もう一人誰かいるのかい?何か叫んでいたように聞こえたけど……」


「いや、何でも無いよ」


 その瞬間、緊迫していた時間が止まり、ロウアは自分の母親に何も無かったようにそう答えた。


 後ろを見ると家政婦ロネントも何も無かったように洗い物を続けていた。ロウアは去り際に、家政婦ロネントの耳元に小さな声で話しかけた。


「この録画情報は、流さないでいてやる。その代わりシアムを二度と襲うなっ!今度襲ったらどうなるか分かるなっ!」


「ギギギ……」


 それは明らかに悔しそうに機械同士がぶつかり合うような音を立てた。


「いいか、シアムには、この録画情報を渡して、僕が死んだときは流すようにお願いしておく。分かったな」


「リカイシタ……」


 家政婦ロネントを通した話していた者の答えを聞くと、ロウアはそのまま自分の部屋に戻った。


(うまくいったな)


(あぁ、だが、本当に僕を殺そうとする相手がいるのが分かってしまった)


(……そうだな。だが、今のことを何でツナクに流さないんだよ。それで終わりじゃ無いか?)


(少し様子を見たかったんだ。それに、社会が混乱してしまうだろうし……)


 ロネントが人を誘拐しただけでも大騒ぎだったのに、さっき録画した内容はロネントが人を殺そうとしていた。そんな動画を流せば社会が混乱するのは明らかだった。


(だけど、お前とシアムが殺されるかもしれないんだぜ?)


(う、うん……)


(ったく……。二人だけにならないように気をつけないとやばいぜ?)


(……そうだね。二人とも一緒に襲われるとこの秘密が葬られてしまう)


(だぜ?今日は俺が見ていてやるから安心して寝ろよ)


(分かった、ありがと)


 ロウアは、ロネントが自分の事をワレワレと話していたが気になっていた。それは、敵が一人では無い事を意味していた。どこにいるとも分からない敵を気にするのかと思うと気が重くなった。だが、この動画が存在する以上しばらくは襲ってこないだろうと思われた。自動的にバックアップもされていると思うと簡単には消される心配も無く、この時代のすぐれたIT社会をロウアは改めて感心した。


2022/11/04 文体の訂正、文章の校正


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