とある海岸で
ムー大陸ではセミの声も私たちが聞いているものとは異なっていて、聞いたことがあるようなないような声だった。ただ、夏になれば虫たちの声が町中に響き渡っているのは同じだった。
ムーが栄えた時代は、丁度、氷河期が消えた直後ぐらいの時代(ベーリング/アレレード期)だった。氷の塊のようになった地球だったが、太陽系自体が暖かい区域に移動すると共に氷は溶け出した。
ムー大陸は、赤道を中心にして太平洋を覆うように広がっていたので、すでに氷河の壁は消え去っていたが、現在のヨーロッパにあたる地域には、まだ氷に覆われている場所もあった。この大陸は平均気温は30度~40度となり、豊かな水源もあって植物は大きく育つことが出来き、人々は豊かな生活を送ることが出来た。
今日は、海に浮かぶ入道雲が今私たちが見ている"それ"と同じように、大きく広がっていていた。そんな夏休みのある日、アルとシアムがロウアの家に遊びにやって来て、彼の部屋の扉を無造作に開いた。
「ロウア、居るぅっ?」
「ロウア君、こんにちは、にゃっ!」
「んだよ、どうしたんだよっ!てか、急に入ってくるなって、いつも言ってるだろ~がっ!」
ロウアは部屋でロネントの部品をいじっていたのに、突然ノックもせず入ってくる幼なじみに怒りをぶつけた。
「はぁ~、相変わらず、引き籠もり君だなぁ」
「また、ロネントいじりか、にゃ?」
「うるさいなぁ……」
「しばらくお休みが取れたんだ~」
「そうなのっ!」
「そりゃ、良かったな」
ロウアはそんなことを言いに来たのかとつっけんどんな口調で話した。
「それでね、久々に三人で遊びに行きたいなぁ~ってさっ!」
「ロウア君もどうかな~ってっ!」
二人はロウアの気持ちなど、どうでも良いと言わんばかりに遊びに行きたいと言い始めた。
「あん?面倒くさっ!お前たちだけで行けよ。今忙しいんだって」
「やだやだやだ~~~っ!!!ぶ~っ!全く、冷たいなぁ」
「ロウア君も一緒に行こうよ~。ロネント遊びも良いけど、お外に行かないと」
「ちっ、なんだよ……。まぁ、いっか。どこに行きたいんだよ」
ロウアは二人に巻き込まれるのは久々だったので、まあ良いかと思い始めた。二人はアイドル活動でこうした強制訪問もなくなって久しかった。
「こんなあっつい日だし、海行こうよ。海っ!」
「そうそうっ!海っ!海っ!!海にゃ~っ!」
「海か……、って今から?!」
「そうっ!」
「そうっ!」
「はぁっ!?」
二人のテンションにロウアは付いていけなかった上に彼が驚くのもムリはなかった、すでに昼を過ぎていたからだった。
「時間を無駄にしたく無いのだよっ!ロウア君」
「お前が"君"呼びすると、気持ち悪いわ。てか午前中はどうしていたんだよ、全く……」
「まあ、それはどうでも良いのだ。さぁ、準備したまえっ!」
「水着を探すのですっ!」
「仕方ないな……」
ロウアは渋々、水着を探し始めた。
「てか、お前らは準備したのかよ」
「ふっふっふ、甘いな君はっ!」
「ほら、ロウア君」
二人はそう言うと上着を少しずらして、すでに水着を着ているのをロウアに見せた。
「んだよ……、お前らは準備万端かよ……」
こうして、三人は自動運転の車を使って海に向かった。呼び出した自動運転の車は夏仕様のため、今でいるオープンカーのように天井が変形して開いた状態になっていた。
「わ~いっ!」
「気持ち良いねっ!!」
アルとシアムはアイドル活動の合間に休暇をやっと取れたので嬉しくて仕方ない様子だった。ロウアが二人に話を聞くと、午前中にどこに行くのか相談していて、だから午後になったのだと説明した。
「ま、良いけどさ。ツナクトノで俺を入れて話とか出来ただろ?」
「メッセージ送ったけど、気づいていなかったじゃんっ!」
「そう、にゃっ!」
「ん?」
ロウアは自分のツナクトノにメッセージが表示されているの全然気づいていないだけだった。
「やだやだやだ~っ!ロウアってば、いつもそうなんだもん」
「だから、ど~んって押しかけちゃった~っ!ごめんね、突然にっ!」
「ちぇ……」
ロウアは自分のミスを認めざるを得ず、何も言えなくなってしまった。
やがて海が見え始めると二人のテンションは最高潮を迎えた。
「ひょ~~~っ!海だ~~~っ!」
「すごい、すごいっ!海だねっ!!!綺麗だね~~~っ!」
やがて、目的地の海岸近くの駐車場に車が止まったので、ロウア達は車の上で立ち上がると海から流れてくる潮風を感じて思い切り息を吸った。
「ふ~~~っ!海の匂いだ~~っ!」
「良い気持ちだ、にゃ~っ!」
アイドル二人は早速海を堪能しているようだったが、未だにロウアは面倒だなと思っていた。
「はぁ~、んじゃ、水着に着替えるか……」
ロウアがそう言うとアルが突然、怒り始めたので彼は戸惑った。
「やだやだやだ~~~っ!!!ロウアッ!着替えを見るでないっ!!」
「はぁ?!すでに水着を着ているんだろっ!お前らは脱ぐだけじゃねぇかよ……」
「あっ、そうだった」
「いつもの早とちりをしやがって……。お前らこそ、早く外に出ろってっ!」
「うげっ!」
「きゃ~っ!アルちゃん、早く出ようっ!ロウア君が脱ぎ始めたぁ~~っ!」
こうして三人は海で遊び始めた。
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どんなに時代が変わっても海で泳いだり、砂浜でくつろいだりするのは変わらなかった。海岸では多くの人達が所狭しと場所取りをして、海の家のような出店が所並んでいて、食事を振る舞っていた。
現在と変わっているのはパラソルが空中に浮いているところや、空中浮遊した浮き輪を使って海に浮かんでいる人もいるところ、そして、ホバリング状態で自由自在に海の上を動き回るサーフボードに乗って遊ぶところだろうか。
ロウアは朝早くからロネントいじりで疲れてしまったのか、砂浜に着くと早速寝っ転がってしまった。
「俺は荷物の番をしている……ぜ……、Zzz……」
「やだやだやだ~っ!ロウアの奴、早速寝やがったぜ」
「疲れていたのかな……」
仕方ないので、アルとシアムは二人で海で遊ぶことにした。二人はアイドルだとバレないように空中に浮かぶサングラスを付けていた。
「ふ~っ!気持ちよかった~っ!」
「うん、気持ちいい、にゃっ!あっ!ロウア君が起きた」
二人が遊び疲れて海から戻ってくると、ロウアは起き上がり、すっと海に向かっていった。
「ふぁ~っ、まぁ、俺も少し泳いでくれるかな」
「行ってらっしゃ~い。シアムゥ、何か食べよぉ~」
「そうだねっ!ロウア君、何か買っておくねっ!」
「あぁ~、頼むぜ」
「よ~し、行くぜ~っ!さっきから匂いがたまらんのだよ~っ!」
「ロウア君、気をつけてね。波が少し高いみたい、にゃ」
シアムは、一人で海に向かうロウアを心配した。
「分かったって~」
ロウアはそれを面倒くさそうに聞いて返答した。
アルは海の家に向かっていこうとしたのだが、シアムはじっとロウアが空中に浮かぶ浮き輪を使って沖に向かっていったのを見つめていた
「あれ、シアムっ?どしたっ?行かないの?」
すると、ロウアが急にシアムの視界から消えてしまったため、彼女は胸騒ぎが収まらず急いで海に向かった。
「えっ?!シアム?どうしたの?」
「ロウア君が消えちゃったのっ!急によっ!!」
アルが、シアムの行動を理解出来ずにそう聞くと、シアムは後ろを振り返りながらそう答えた。
「えっ?海に潜っただけ……じゃ……」
だが、シアムがあまりにも真剣な顔をしているのでアルも不味いことが起こったと思い始めた。そんなアルを置いてシアムは急いで海に入るとロウアが消えた場所まで泳いで行った。
「相変わらず、泳ぐの早いなぁ……」
シアムは小さい頃から泳ぐことが好きだったので、自然と泳ぐのが速かった。
「心配しすぎじゃ無いのかなぁ……」
アルが海岸から見ていると、シアムが溺れて意識を失ったロウアを引っ張ってきたので彼女は血の気が引いた。ロウアは、ぐったりとして息をしておらず、海岸に仰向けに寝かされた彼の右腕からは血が流れていて二の腕から先が無かった。
「やだやだやだ~~~っ!!!ロ、ロウアッ!!!だ、大丈夫っ?!
ギャ~ッ!い、息してないよぉ~~~っ!!!腕も無いじゃ~~~んっ!!!誰か助けて~~っ!!!」
アルが大声で叫び出したので、何があったのかと他の人達も集まり、静かだった海岸は大騒ぎになった。
「アルちゃん、静かにっ!!!」
「あう……」
すると、ナーカル校で救助訓練をしたことがあったシアムは、ロウアに適切に心臓マッサージと人工呼吸をした。
「ロウアァ……」
アルは何も出来ず、ロウアの失われていない方の手を握るだけだった。その手は冷たくなっていてので、彼女は涙目になってギュッと握った。
「大丈夫かねっ?!」
「大変だっ!急いで救急装置を使う、君たちはどいてっ!」
「右腕は止血するんだっ!」
やがて、監視員も来てロウアの救助活動に加わったため、皆が見守る中、彼は息をし始めた。
「ゲホッ、ゲホッ……」
意識を取り戻したロウアは、咳き込みながらうつろに目を開けて周りを確認した。
「ロウアッ!!!」
「ロウア君!」
彼の目には涙を流した二人の女性が映った。
「□□?□□□□□□□□□□□□□□□□……。□□□、□、□□……」
だが、ロウアは誰も理解出来ない言葉を話し、自分の右腕の二の腕から先が無くなって、血が流れているのを見つめた。
「□、□□□……□□……」
そして、何かつぶやくと再びそのまま意識を失ってしまった。
「やだやだやだ~~~っ!!!ロウアッ!何か変な言葉話してた~~~っ!」
「アルちゃん、そんなことよりも救急車っ!すいませんっ!!!救急車を呼んでくださいっ!!!」
この時代では常に空中を救急車が巡回しているので、監視員はそれをツナクトノで呼び出し、ロウアと一緒にアルとシアムも病院に向かったのだった。
2022/11/03 文体の訂正、文章の校正




